ぷちらば


難事件な恋人


「ちょ、ちょっと待って!!
 おかしい!!こんなの絶対おかしいって!!」

無事に二十歳の誕生日を迎え、大学生探偵として活躍している工藤新一はぎゃぁぎゃぁと騒いでいるが、その原因である金髪の男は動じない。

「・・・別に何もおかしくないでしょ」

降谷は新一の両腕をいとも簡単に左手一本で封じると、足を軽く払って新一の身体のバランスを崩し、そのまま抱きかかえるようにしてソファに座っている自身の膝の上に横たえさせた。

「いやいやいや!!オレもう二十歳だよ!?」

「32の俺からすればまだまだ子供みたいなものだけどね」

「ちっげぇよ!!そうじゃなくて!!」

新一はソファに座った降谷の上でもがいているが、両手を封じられていてはろくな抵抗も出来ない。
せめてもの抵抗にバタバタと足を蹴り上げてみるが、うつ伏せで膝の上に乗せられている状態ではむなしく空を切るばかりで、ズボンのポケットに入れていたスマホだけがカシャンッと音をたてて床に転げ落ちた。
いくら暴れてもろくに効果がないばかりか、降谷の右足でガッチリ挟まれてしまい、遂には正真正銘身動きが取れなくなってしまった。

「・・・さて、新一くん。
 覚悟はできてるよね?」

にっこりと笑った降谷が右手を振り上げる気配を感じながら、こんなはずではなかった・・・と新一はぎゅっと目を瞑った。



あの日、7歳の少年探偵は米花町から姿を消した。
少年探偵と公安警察、FBI、CIAなど各国のさまざまな諜報員たちが協力し、ボロボロになりながらも何とか黒ずくめの組織を壊滅させた3ヶ月後のことだった。
遠く離れて暮らしていた両親の仕事の都合がつき、また家族で暮らせる環境が整ったため一緒に海外へ渡るのだという。
お世話になった毛利家と、いつも一緒にいた少年探偵団の面々に惜しまれながらも別れを済ませ、江戸川コナンは海外へと旅立ち、それと入れ替わるように工藤新一は米花町へ帰ってきた。

当時17歳だった高校生探偵も、その後進学し今では大学生探偵となった。
相変わらずの推理力で今もなお警察に協力したり、大学生ながらに難事件を解決しては世間を賑わせている。
高校生の頃とやっていることは大して変わらないものの、時は確実に流れ転機は訪れる。

いつものように捜査協力をしていた事件現場で、あの男と再会したのだ。
江戸川コナンが消えた後、それを追うようにして喫茶ポアロから姿を消した安室透と。

「やぁ、君が工藤くんだね?
 いつも部下の風見が世話になっている。
 初めまして、警察庁の降谷だ」

そう言いながら握手を求めてきた降谷は2年前の姿と変わらなかったが、安室ほどの柔らかさはなかった。

「・・・初めまして、工藤新一です」

厳しい表情を覗かせる降谷に、新一も少々緊張した面持ちで右手を差し出した。

江戸川コナンと安室透は互いを協力者としてある程度信頼し合う間柄だったが、工藤新一と降谷零としては一切面識もなく初対面だ。
新一がまだコナンだった頃、安室はコナンの正体について終ぞ触れなかった。
だが、新一からすれば抜け目のない公安警察が気付かなかったとは思えない。
それなのに、コナンの正体を目の前にしている今も、降谷は何も言ってこない。
正体がバレていなかったことを不思議に思いながらも、そうなると降谷との関係は安室とコナンのようにはいかないなと感じていた。

(また『初めまして』から・・・か)

コナンと安室として積み上げてきたものが全て無くなり、またゼロからのスタートになる。
新一が胸にチクリと針が刺さったような感覚を味わっていると、降谷は去り際に

「ちょっと見ない間に随分大きくなったね・・・・・・コナンくん」

そう言って新一の頭をポンッと撫でるとクスクスと笑った。
その悪戯っ子のような顔が、安室透とも違う降谷零の素顔なのだと、その時新一は初めて知った。
そして、触れられた頭から安室の時と同じ温かさを感じ、じんわりと胸が熱くなったのだった。
これが、工藤新一と降谷零の『初めまして』の出来事。

それからは事件現場で何度か会うこともあり、コナンと安室の時のように協力して捜査することもあった。
見た目は変わらなかったが30を超えた降谷は、年長者としてまだ年若い探偵の相談にのることもあった。
新一としても推理に助言をくれるし、様々な含蓄がある降谷の話は興味深く、いつの間にか事件以外でも会う機会が増えていった。

そして、新一が二十歳の誕生日を迎えたこの春のこと。
遅咲きの桜がまだ残っている堤無津川の川べりを駅へ向かって歩いている時だった。

「・・・ねぇ、新一くん」

「ん?なに零さん」

「一緒に暮らそうか」

桜の花びらが舞い落ちるようにふわりと自然に投げかけられた提案に、新一は「・・・そっか、そうだよな・・・」と納得したように小さく呟くと

「うん!オレも一緒に住みたい!」

弾けるように笑って応えた。



そして、今に至る。
降谷との同居に関しては、新一の両親の許可も簡単に取れスムーズに運んだ。
むしろ降谷が一緒に居てくれるなら安心だと、両親の方から頭を下げたぐらいで、特に有希子は「零ちゃんみたいなイケメンの息子が出来て嬉しいわぁ?」なんて大喜びで、新一は息子ながら母の自由さに呆気にとられていた。

一緒に暮らし始めてからの降谷は、仕事柄忙しい身ながらもなるべく家に帰ってきて一緒に食事をしてくれる。
もちろん料理は彼の担当だ。
栄養バランスの取れた手作りの食事は、新一が一人暮らしをしていてはなかなか出来るものではなかったし、あまり料理が得意ではない新一にとってはありがたかった。
それに、誰かと温かい食事をとることも久しぶり。
暗くなってから帰っても家に明かりがついていて、「おかえり」と言われることも。
降谷と事件について論議したり、たわいもない話をしたり、毎日が楽しい同居生活だったのだが・・・ひとつだけ問題があった。

それは、新一からすれば降谷が極端に過保護なこと。
事件体質な新一はよく事件に巻き込まれるし、自分からも首を突っ込んでいくから、降谷からすれば危なっかしくて仕方がないらしい。

新一は事件が発生すれば深夜でも飛び出していくし、必要とあらば海外にだって文字通り飛んで行く。
そして、更なる厄介ごとに巻き込まれるのもいつものことで。
もちろん事件は解決に導いているが、場合によっては犯人とのいざこざに巻き込まれて怪我をして帰ってくることもある。

何度かはお小言で済ませていた降谷だったが、頬をナイフで斬られ傷を付けて帰ってきた時にはそれだけでは済ませられなくなっていた。
今のように自分から首を突っ込んでいっては、いつかもっと大怪我をするかもしれない。
それどころか、無茶をすれば命を落とすこともあり得る。

いい加減無茶をするのはやめろと何度小言を言っても、事件とあらば考えるよりも先に身体が動いてしまう新一にはほとんど効果が無かった。
そこで降谷が選んだのが、新一がまだコナンだった頃にも使った手段。
それは、降谷の言いつけを守らなければ、お仕置きをするというもの。
子供にするように膝に乗せてお尻を叩いて説教をしたのだ。

コナンだった頃にも何度かそうして叱ったこともあったから、降谷としては何の違和感も感じていなかったが、新一からすればたまらない。
自分はもう小学生だった江戸川コナンではないのだ。
大学生になり、世間一般では大人扱いされるだろう年齢だ。
元よりプライドの高い新一には、子供のお仕置きなんて恥ずかしくて仕方が無い。
一度、本気でやめてほしくて懇願したが

「効果があるようで何より」

とニッコリ笑って一蹴されてしまった。
それ以降はどんなに抵抗したところで、腕っぷしでは降谷に敵わない新一は、結局膝の上に乗せられ続けている。



そして、今日も今日とて新一は降谷の膝の上。

「だーかーらーっ!!オレは子供じゃないっつーの!!」

手も足も封じられ、口で抗議するしか手段がなくなってしまった新一はぎゃんぎゃんと喚くが、降谷にはまったく通じない。

「子供と同じで何度叱っても懲りないから、こうやってお仕置きされるんでしょ。
 コナンくんの時から全然学んでないねぇ」

言いながら降谷は、パンッ!パンッ!と新一のお尻を目掛けて右手を振り下ろす。

「いっ、いってぇっ!!」

ズボンの上からとはいえ続けざまに何度も叩かれて、新一はその度にビクッと身を竦ませた。

「いたっ・・・ちょっ・・・いぁっ!!」

毎日鍛錬を怠らない未だ現役捜査官の腕力はさすがの威力で、その後も容赦なく降ってくる平手に、新一の口からは思わず悲鳴が漏れる。
コナンだった頃にも安室からは実は何度かこうしてお仕置きされたことがある。
その時だって充分に痛かったのだけれど、それでもまだ手加減されていたのだと思い知った。

「いっ・・・零さ・・・痛いってば!!」

新一の両手はもう拘束されてはいない。
その代わりに降谷の左腕は、新一の腰をガッチリ押さえつけている。
両足は相変わらず降谷の右足で押さえ込まれていて、両手が自由になったところで結局身動きは取れず、膝の上からは逃げられそうになかった。

「うぁっ・・・いたっ・・・ひっ!!」

お尻がジンジンと熱を帯び始めた頃、降谷は新一のズボンに右手をかけた。
新一がビクッと身を震わせた一瞬の内に、下着ごとズボンを下ろして少し色づいた新一の素肌を外気に晒す。

「やっ、やだっ・・・やだぁ!!」

ズボンの上からでも充分痛いのに、守る物が何もなくなってしまったら・・・とんでもなく痛いのはわかりきっている。

まだ自由になる両手を使ってソファを這い降谷から逃げようとするが、ぐっと頭を押さえつけられ

バチィンッ!!

「ひぃっ!!」

想像以上の一撃を見舞われた。

「さぁ、反省の時間にしようか」

降谷のニッコリと笑った顔とは裏腹に、新一の頭を押さえつけている左手にはグッと力がこもる。

「れ、れいさ・・・ちょっとまっ・・・ぎゃんっ!!」

新一が言い終えるより先に、想像以上の一撃がもう一度降ってきて、思わず濁った悲鳴が上がった。
外気に晒されているはずなのに、叩かれた部分はひどく熱い。

「さて、今回君は事件に巻き込まれて何をしたんだっけ?」

そんな新一のお尻をピタピタと軽くはたきながら降谷は問う。

「そっ・・・それは・・・」

新一が答えにまごついていると

バチィィンッ!!

「いっってぇーっ!!」

軽くはたいていた手が突然しなやかな鞭のように飛んできた。

「いっ・・・いたいぃぃ・・・」

「ほら、反省の時間だって言っただろう。
 さっさと罪状を白状しなさい」

「ううぅ・・・」

またしてもピタピタとお尻をはたかれて、これ以上痛い目に遭いたくない新一は、ボソボソと話し始めた。
大学の友人達と出掛けた先で強盗事件に遭遇したこと。
そして、その事件を解決したこと。
それから・・・・・・

「えと・・・複数犯だったんだけど、犯人が一人逃げちゃって・・・」

「それで?」

「・・・・・・追いかけて捕まえました」

「へぇ?聞いた話と随分違うようだけど?」

「へっ!?」

「なにか話が抜けてないかい?」

「え・・・えっとぉ・・・」

降谷の膝の上に乗せられている今の状況では、どう誤魔化したところで言い逃れは出来そうにない。
けれど、言ってしまったら余計に痛い目に遭うのはわかりきっている。
なんといっても、今までにも何度も叱られてきたことだから・・・。

「そ、それは・・・・・・」

新一がモゴモゴと口ごもっていると

「ふぅん・・・何も言わないってことは、言い訳も聞かなくていいってことかな」

背後で降谷が右手を振り上げる気配を感じ

「やっ、いる!!言い訳いります!!」

慌てて制止した。

「なら早く言いなさい」

「いっ!」

ペチンッ!と軽くはたかれただけなのに、それすらも激痛に感じてしまうほどに新一のお尻は温められていた。
けれど、本当のことを話してしまったらこれ以上に痛い目に遭うのがわかりきっているのに言えるわけがない。
言っても地獄、かといって言わなくても問答無用で引っぱたかれて地獄。
もうすでにこんなにも痛いのに・・・と、新一は情けなくも泣きそうになるが、降谷は新一が泣いたところで手加減などしてくれない。
むしろ、自分から白状した方が正直さに免じて多少はマシな結果になるかもしれないと思い、腹をくくる。

「その・・・犯人、逃げ足が速くって・・・」

「で?」

「車で逃げようとしてて、追いかけなきゃって・・・」

「それから?」

「服部がバイク乗ってきてたし、二人で追い掛けて捕まえて・・・」

「ただ追い掛けて捕まえたんじゃないよね?」

「うっ・・・いや、その・・・」

「・・・・・・新一くん?」

一層低くなった降谷の声色に、新一はビクリと身が竦む。
このトーンは相当怒っている。

「ううぅ・・・バイクで体当たりして・・・無理矢理止めましたぁ・・・」

これ以上、降谷の怒りを買ってはたまらないと、新一はついに白状した。
その瞬間・・・

バチィィンッ!!!

「―――ッッ!!」

降谷の手の平がとんでもない勢いで降ってきて、新一は悲鳴も上げられなかった。

バチィィンッ!!バチィィンッ!!パァァンッ!!

「ひっ・・・いぐっ・・・いぁぁっ!!」

その後も息つく間もなく平手の嵐が降り注ぎ

「うぁっ・・・いぅっ・・・ひぃっ!!」

新一の口から漏れるのは短い悲鳴だけ。
ソファの上で握りしめている両拳は力が入りすぎて爪まで真っ白になってしまっている。

「ひぐっ・・・うぇっ・・・うえぇぇっ!!」

ただでさえ鍛え上げている降谷の右腕だ。
最初はこんな子供じみたお仕置きで泣くなんて、と思っていたが、豪腕で散々引っぱたかれては耐えられるはずもなく、遂に新一の涙腺は決壊した。

「うぇぇっ・・・うわぁぁん!!」

息つく間もなく平手の嵐を喰らって、新一のお尻はすっかり腫れ上がって真っ赤。
お尻全体が焼け付くように熱い。
それでも降谷は振り上げる腕を止めてはくれなくて

「ひっ・・・ひうぅっっ・・・やぁぁっ!!」

新一は降谷の膝の上で泣き叫んだ。



降谷がようやく手を止めて口を開いたのは、新一がもはや悲鳴すら上げられなくなった頃だった。

「いつも言ってるよね?
 事件に遭遇するのは仕方がない。
 でも、無茶はするなって」

「ひっ・・・ひぐっ・・・」

「こら、返事ぐらいしなさい」

ところどころ鬱血しているお尻をぎゅ〜っとつねられて

「ぎゃぁっ!!・・・は、はいぃっ!!」

新一は悲鳴を上げながら必死で返事をした。

「君は探偵だけど警察官じゃない。
 あくまでも一般市民なんだ。
 現場を乱すのもいただけない」

「うぅぅ・・・はぃ・・・」

「目暮警部や高木刑事は君に甘いようだけど、残念ながら俺はそうはいかないからね。
 ・・・さぁ、反省の続きといこうか」

「ひっ!!や、やだあぁぁっ!!もうやだぁぁっ!!」

降谷の膝に抱え直された新一は掠れた喉ででも絶叫した。
お尻はもう真っ赤を通り越していて、しばらくは椅子にも座れないぐらいに腫れ上がっている。
何もしなくても燃えるように熱いし、とにかくジンジンと痛みが主張し続けている。
とてもじゃないが、これ以上なんて考えられない。

「も、むりぃぃっ!!もぉやだぁぁぁっ!!」

大絶叫とともに、とにかく力一杯に暴れた。
降谷は有言実行な男だ。
一度やると言ったら、新一がどれだけ懇願しても、泣き落としにかかっても、聞いてはくれない。
ここで逃げられなかったら、自分はまた地獄の苦しみを味わうことになる。
それこそ死にものぐるいで新一は暴れた。

ジタバタと暴れて身体のバランスが崩れた時、新一の右手が床の上の何かに触れる。
堅くて薄いこの形は・・・膝に引き倒された時に落としたスマホだ。

(だ、だれかっ・・・誰か助けてっ・・・!!)

この状況から逃れたい一心で、必死に右親指一本で電話をかけるが

「・・・こら、イタズラしないの」

「あっ・・・!!」

気付いた降谷にあっさり奪い取られてしまった。

「へぇ・・・誰に掛けてるかと思えば・・・」

ディスプレイに表示されていたのは、新一のアドレス帳の中であ行の一番最初に登録されている人物。
3コールもしない内に相手の声が聞こえてきた。

“・・・ボウヤか?どうした?”

「わぁぁんっ!!赤井さん助けてぇ!!」

奪われたスマホに向かって新一はなりふり構わず絶叫するが

“ん?何があった?”

「すみません、後でかけ直させます。
 彼はまだお仕置き中なので」

無情にも降谷の手によって電話は切られてしまった。
それよりも・・・

「なっ、なんで言うんだよぉ!!」

逃れたい一心で赤井に電話を掛けたのは新一だが、よりにもよって『お仕置き中なので』なんて・・・耐え難い恥辱だ。
今後、赤井にどんな顔をして会えばいいのか・・・。
新一は顔を真っ赤にしてボロボロと涙をこぼした。
降谷の膝からは逃れられなくてお尻はとにかく痛むし、怒っている降谷は怖いし。
挙句に赤井にまで二十歳にもなって降谷にお仕置きされていることがバレてしまって、恥ずかしいやら情けないやら。

「ふぇぇぇ・・・も、やだぁぁ・・・」

どうあっても逃れられないとわかった新一は、へなへなと降谷の膝に力なくぐったり崩れ落ちた。

「ひぐっ・・・うぅっ・・・」

「まったく・・・しょうがないな」

降谷はポイッとソファへスマホを放り、再度新一を膝に抱え直すと、ひょいっと新一を乗せたまま膝を組んだ。

「やっ・・・これやだあぁぁっ!!」

瞬間、新一から絶叫がこだまする。
この姿勢になると、自然とお尻が突き出す格好になり、同じ叩かれるのでも痛みの感じ方が全然違う。
今までだってよっぽどの悪事を働かなければ、この姿勢を取らされることはなかったのに・・・。

「ちゃんと反省しない君が悪い」

降谷だって鬼ではないから、一応のヒントは与えてやって、バチンッ!と平手打ちを再開した。

「ぎゃんっ!!」

少し時間を空けたせいか、先ほどよりも数倍痛く感じてしまう。

「わぁぁんっ!!」

太ももの付け根までしっかり叩かれて、頭の中が真っ白になった新一だが

「ほら、何か言うことあるでしょ?」

「ひぐっ・・・れ、さ・・・」

降谷にぽんっと頭を撫でられて、意識を引き戻される。
ゆったりとした間隔を空けながら、それでも確実に降ってくる平手は新一を充分に苦しめた。
すっかり息も絶え絶えで、額は汗でぐっしょりだ。

「うぇぇっ・・・ひぐっ・・・」

「新一くん、何か言うことは?」

「ううぅえぇぇ・・・ごめ、なさぃぃぃっ!!」

「はい、よくできました」

「―――――ッッ!!!」

最後にとびきり痛いのをもらって、新一は悲鳴も上げられなかった。



「ううぅ・・・いってぇ・・・」

あれから、降谷に抱き起こされて散々泣きわめいたあと、ソファに横になった新一はポツリと呟いた。
散々痛い目に遭わされたおかげで、お尻はすっかり腫れあがってしまって、今だってうつぶせにしか寝そべることができない。
冷やして薬も塗ってはもらったが、ところどころ痣になっているし、明日からしばらくは大学の硬い椅子に座るのが辛い日々になりそうだ。

「・・・明日、休もっかな」

出席は黒羽に頼めばなんとかしてくれるし・・・なんて思ってポツリと呟けば

「サボりは許さないからね。
 ちゃんと行きなさい」

いつの間にやらマグカップを二つ持った降谷がソファに戻ってきていた。

「君のことは同居する時にご両親から色々と頼まれているからね。
 探偵業にばかりかまけていないで、ちゃんと大学にも通うように見張ってほしいって」

「んだよそれー。
 オレ抜きでいつの間にそんな話してたんだよ」

「大事な息子さんを預かるんだから、色々話してて当然でしょ」

言いながら降谷はコトンとマグカップをローテーブルに置いた。

「その大事な息子さんにこんな痛いことする鬼なくせに・・・」

新一としても大事だと言われるのはまんざらでもないが、ここまで過保護に面倒を見てくれなくてもいいのにと少々の不満もある。
今回のように、事件に遭遇して毎度毎度お仕置きされていてはたまらない。

「誰が鬼だって?」

そっと降谷がソファに腰掛けると、新一のお尻をピタピタとはたく。

「だ、だって・・・零さんが・・・。
 オレもう大人なのに、こんな子供みたいに・・・」

新一はモゴモゴと口を尖らせていたが

「へぇ?俺は本人の眼前で他の男に助けを求める恋人の方がひどいと思うけど?」

「へっ・・・こ、恋人っ!?」

降谷の言葉に顔が一気に赤くなる。

コナンの頃から密やかに抱いていた羨望が、あの堤無津川の川べりで降谷に同居を提案された時、自分の中でストンと落ちた。
工藤新一として再会した時に感じた胸の痛みも、それから後の降谷との居心地の良い関係も。
それがただの羨望ではなく、恋慕の情だった、と。
けれど降谷から面と向かって『恋人』と言われたのはこれが初めてで、思いの外照れてしまう。

「君が二十歳になるまで随分待ったんだけど、大人だって言うならもう遠慮しなくてもいいよね」

「えぇっとぉ・・・・・・」

スルリと頬を撫でられて、新一の心臓は一気にバクバクと跳ねる。

「新一くん・・・・・・」

「れ、零さ・・・」

名前を呼び終えるよりも先に、新一の唇は塞がれてしまった。

「んっ・・・んぅっ」

ちゅっと小さく音をたてて離れていった、軽いキス。
けれど、それだけでもう新一の身体にはビリビリと電撃が走ったような衝撃だった。

「ふぁ・・・」

くったりと力が抜けて、ソファへ真っ赤な顔を沈める。

「どうやら本当に遠慮はいらないみたいだし、続きは寝室で・・・かな」

そんな新一を降谷はひょいっと抱き起すと、そのままお姫様抱っこでリビングのドアへ向かう。

「れ、零さん・・・」

恥ずかしさもあり嬉しさもあり、こそばゆい感覚を感じながら、ドクドクと脈打つこの音は自分の心臓の音か、それとも顔のすぐそばにある降谷のものか。
新一にはわからない。

「あぁ・・・でも、まずは先に恋人の前で他の男に助けを求めたお仕置きから・・・かなぁ」

「へっ!?」

「俺がどれだけ君を好きか教えてあげる」

「―――――ッ!?」

ニヤリと笑った降谷の顔は今までのどんな顔とも違っていて。
『自身にとっての一番の難事件はこの恋人である』ということに、新一が気付くのはもう少し後のお話――――。