ぷちらば


おそ松さん

松野家には父と母、そして六つ子の兄弟がいる。
その六人兄弟の中で一番下の末弟である松野トド松は、一番上の兄である松野おそ松を目で追いかけながら
顔を真っ青にして固まっていた。



ことの始まりはいつものこと。
トド松が女の子と遊びたくて行った合コン。
その日はメンツの中に一軍の男がいて、当然ながらニートで学歴もお金もない三軍以下のトド松が女の子にモテるはずもなかった。
女の子は皆、その一軍の男に夢中。
折角女の子と知り合って遊ぼうと思っていたのに、何の成果も上げられずまったくもってして面白くない。
結果、飲むか食べるかしか楽しみはなくなっていた。
乾いた笑い顔でちびちび飲んでいたはずなのだが、気づけば結構な量を飲んでいたようで
お開きになる頃には足元もおぼつかなかった。
同じ合コンに参加していたメンバーも心配してくれたが、何とか自力で家まで辿り着いた。



気づけばいつもの六人で寝る布団で寝ていて。
トド松が目を覚ました頃には、もう他の兄弟は起きだしていて誰も居なかった。
昨夜はかなりの量を飲んだし、いつもより深く眠っていたのかもしれない。
こういう時はニートで本当に良かったと思う。
何せ、遅くまで寝ていようが、今日の予定など全くないのだから。

まだ少しぼーっとする頭でそんなことを考えながらトド松が居間へ降りていくと、おそ松がひとりテレビを見ていた。

「あれ?おそ松兄さんひとり?他のみんなは?」

「あぁ・・・みんな出かけた〜」

「ふぅん・・・」

松野家の六つ子は威張れることではないが、全員ニートだ。
いつもならみんなこの居間でゴロゴロしているか、二階の部屋でゴロゴロしているか・・・少なくとも2・3人は家に居るのに。
珍しいこともあるものだと、トド松は欠伸をしながら台所へ行きコップに水を注いだ。

「はぁ〜、昨日は散々だったな〜・・・」

昨日の成果を思い出し、ため息を吐きながら水を飲む。
唯一、かなりの量を飲んだ割に二日酔いがないことだけが救いだった。

一息ついたトド松が居間へ戻ると

「トド松〜、お前二日酔い大丈夫か?」

おそ松がテレビを消しながら声をかけてきた。

「あー、うん。なんとかね〜」

まだ少し眠っている頭をポリポリと掻きながら答える。

「・・・なら大丈夫か」

「へ?なにが?」

「トド松さ〜、昨日のことでちょっとお兄ちゃん話あんだよね。
 着替えたら上の部屋来いな?」

軽くにこやかに言うおそ松だったが、何故か目だけが笑っておらず、有無を言わせぬ雰囲気を漂わせている。

「え?ちょ、ちょっとおそ松兄さん!?」

おそ松は言うだけ言ってさっさと二階へ行ってしまったが、居間に取り残されたトド松はおそ松の発言に
ザァッと自身の血の気が引く音を聞いた。
いつもの口調だったが、あの顔をしているおそ松はヤバい。
それは今までの経験上、嫌というほどわかっていた。



松野家の中でこのルールが敷かれたのはいつからだったか。
トド松の記憶では少なくとも小学校低学年の頃からこのルールは存在していたように思う。

『兄弟の中で悪さをした者は、長兄からお仕置きを受ける』
これが松野家の暗黙のルール。
元々おそ松は六つ子のリーダー的存在だったし、両親もやんちゃな子供が六人も居れば面倒を見きれず
長男であるおそ松に何かと任せることが多かったことも一因かもしれない。
これは両親公認な上に絶対で、末弟の自分はもちろんのこと、おそ松の相棒的な立ち位置にいる次男や三男ですら
時にはこのルールに泣かされていた。
同じ遺伝子を持つ兄弟のはずなのに、ずば抜けて喧嘩が強かったおそ松は、難なく他の兄弟を押さえつけて容赦なくお仕置きをする。
長兄のお仕置きとは・・・ずばり、お尻叩きである。

それは全員が反抗期を迎え、中学・高校と進学しても変わらなかった。
トド松も中学時代には兄たちへの反発や苛立ちから、一時不良の真似事をしていた時期があった。
だが、他校の不良との抗争に巻き込まれた挙句、結局はおそ松と他の兄弟たちに助けられたことがあり、それを機に彼の反抗期は終わった。
カラ松と十四松に肩を貸されて連れて帰られ、家ではチョロ松と一松に手当てされ、最後にはおそ松に散々お尻を引っぱたかれて泣かされた。
あの時のおそ松は、他の兄弟を危険に晒したと殊更ご立腹で、今までのお仕置きとは全くレベルが違った。
少なくとも、反抗期のトド松の心をへし折り、不良の真似事はやめると固く誓う程度には。

この松野家のルールは成人した今もまだ有効ではあるが、あの中学生の頃の一件以降トド松が長兄からのお仕置きを受ける回数は減った。
時々、何かやらかしたとしても、あの時ほど手酷くされた覚えはない。

あの一件の時も確かおそ松は

「お兄ちゃんさぁ、トド松にちょっと話あんだよね〜」

などと軽い口調だったが目は笑っておらず、お仕置き中は泣いても喚いても叩く手を緩めない鬼ぶりだった。
それを思い出したトド松は

(う・・・嘘でしょ!?なんで!?僕、何にもしてないのにー!?)
二日酔いでもないのに、ガンガンと頭を殴られたかのような頭痛を感じながら、顔を真っ青にして固まっていた。



パジャマから着替えたトド松は重い足取りで二階の自分たちの部屋へ向かう。
心底行きたくはないが、おそ松に来いと言われている以上、従っていた方が得策だ。
これ以上怒らせては何をされるかわかったものではない。
そろっとふすまを開けると、おそ松はソファに寝転がって漫画を読んでいた。
何故かはわからないが大層ご立腹らしいおそ松のご機嫌を少しでも回復させるため

「あのぉ、おそ松兄さん?その・・・ごめんなさぁい」

トド松はひとまず早々に謝ってしまうことにした。
それもソファの下にちょこんと座って、上目遣いで謝罪するというあざといテクまで駆使して。
トド松がうるうると瞳を潤ませて見上げてくるのを一瞥したおそ松は、起き上がり漫画を自分の隣へ置くと

「・・・で?」

と一言、短く言い放った。

「え、えっとぉ・・・その、僕が何かおそ松兄さんの気に障ることしちゃったんじゃないかなぁ〜って思って・・・」

負けじとトド松も可愛らしく小首を傾げてみるが

「ふ〜ん・・・ぜんっぜん覚えてないってわけね。あ〜あ、お兄ちゃん悲しいわ」

おそ松は言いながらトド松の腕を引き、自分の膝の上に腹ばいに乗せると、さっさとトド松の下着ごとズボンを下ろしてしまった。

「ちょっ、ちょっと待ってぇーっ!!」

一瞬の出来事に慌てて抗議するトド松だったが、もう遅い。

「ひとまず300はあると思えよ〜」

間延びした口調の割に恐ろしい言葉が聞こえたと思ったら・・・

バチンツ!!バチンッ!!バチンッ!!

「いっ・・・いたっ、いたぁーっ!!」

いきなり容赦のない平手が外気に晒されたお尻に降り注いだ。

「ちょ、ちょっと!おそ松兄さん待って!待ってよっ!!」

バチンツ!!バチンッ!!バチンッ!!

「いたぁっ!ちょっ、ホントにっ・・・待ってぇーっ!!」

トド松がなんと言おうと、おそ松の手は緩まない。
筋トレに余念がなく力自慢のカラ松も、無尽蔵に湧き上がるパワーを持て余している十四松でさえも
この長兄のお仕置きにはただただ泣かされるしかないのだ。
兄弟の中でも特に力が強いわけでもないトド松が暴れたところで、おそ松はびくともしなかった。

「おねがっ・・・ねぇ、おそ松兄さぁんっ!!」

お尻全体が熱を帯び始めた頃、涙目で必死に兄の名を呼んだら、何とか平手の嵐が止んだ。

「お、おそ松にいさ・・・も、痛いよぉ・・・」

情けない声を出す末弟に

「お前ね、まだ30しか終わってねぇんだけど?」

長兄の冷たい声が響く。

「だ、だってぇ・・・・・・」

ぐすぐすと泣き出すトド松に

「お前さぁ、ホントに昨日のことなんっも覚えてねーの?」

「・・・・・・・・・・・・」

ピタピタとお尻をはたきながらおそ松が尋ねるが、気づけば家で寝ていた身のトド松には何のことかさっぱりわからず
ただ沈黙で返すしかなかった。

「・・・じゃ、しょうがねーわな。しばらく泣いてろ」

「えぇぇっ!!ちょ、ホントに待ってよぉーっ!!」

結局何も思い出せないトド松は必死に懇願したが、おそ松は構わず大きく手を振り上げると

バチィンッ!!

「いっ・・・たぁぁーっ!!」

殊更大きな音を響かせた。

それからはトド松がどれだけ頼もうがおそ松の手が止まることはなく、ただひたすらにお尻に振り下ろされて
トド松の真っ白だったお尻が赤く染まっていく。

「うえぅっ・・・おそ・・・にぃさ・・・!!」

足をジタバタさせて暴れても、ぐっと抑え込まれるだけ。
まだ自由になる両手で逃げようとしても、簡単に引き戻される。
医師の手に取り上げられる順番がたかだか数時間・・・下手をすれば数十分違っただけで、何故こんなにも力の差があるのだろう。
痛みでろくに働かない頭で、トド松は自身が末弟であることを恨んだ。



バチンッ!バチンッ!バチィンッ!!

「わぁぁーんっ!!もうむりぃぃーっ!!」

おそ松に「しばらく泣いてろ」と冷たく言われてから、お尻にきつい平手を何度も落とされて、早々にトド松は根を上げた。
必死になって自分の両手でお尻をかばう。

「こらトド松。手ぇどけろ。数増やされてーの?」

「やっ、やだぁっ!!」

「なら、手ぇどけな」

「それもやだぁ!!」

「お前ね・・・」

おそ松は呆れたようにため息を吐くが、これ以上痛みを与えられたくないトド松は必死だ。
何度となくおそ松の手のひらで叩かれてお尻はもう真っ赤。
何もしていなくてもじくじくと痛み、焼けるように熱い。
それに、トド松はどうして自分がこんな目に遭わされているのか全くわからず、納得いかないのだ。

「だいたいっ、なんで僕がお仕置きされんの!?
 僕、何にもしてないでしょ!?」

気づけば、おそ松の機嫌を損ねるかも・・・などと思っていたことなどすっかり忘れて、不満をぶつけていた。

「お前、ホントに覚えてないのな」

またしてもおそ松はため息を吐くが

「だからっ、何にもしてないって言ってるでしょ!?」

これ以上お尻を叩かれたくないトド松は、兄の顔を見上げて強く訴える。

「ふぅん。『何にもしてない』・・・ねぇ」

瞬間、おそ松の目がギラリと冷たく光った。
部屋の空気が一気に下がったかのように、ゾッと寒気を感じる。

「う・・・だって、ホントのことだしっ!!」

この顔をしている時のおそ松はヤバいと嫌というほど知っているものの、身に覚えのないトド松としては、こう主張するしかなかった。

「あっそう。じゃぁ教えてやるよ」

「え・・・?」

余計に怒らせるかも・・・と思ったが、案外おそ松はすんなり答えを教えてくれるらしい。
だが、おそ松の膝からは解放されず、トド松はひりひりと痛むお尻が晒されたままで落ち着かない。

「お前、昨日合コン行ったよね?」

「うん・・・行った」

「解散になった後、お前どうした?」

「どうした・・・って・・・」

おそ松に言われて、昨日の記憶を辿ってみる。
合コン会場だったスペインバル風の居酒屋を出て、それから・・・・・・

「・・・・・・あれ?」

飲みすぎた自分を心配してくれた誰かと話して、大丈夫だと答えて、それから自分の足で自宅へ帰った・・・はずだ。

「えっと・・・・・・」

居酒屋を出てからの記憶がほぼ飛んでいる。
その後、どうやって自宅の布団に入ったか全く覚えていない。
よくよく考えてみれば、酔っぱらって帰ってきたのにちゃんとパジャマを着て寝ていたことも不思議だった。

「えっとぉ・・・・・・・」

必死に思い出そうとしてみるが、頭の中には全然記憶が残っていない。

「覚えてねーの?あんだけ危なかったのにねぇ」

言いながらおそ松は左手でトド松の両手を背中に軽く縫い付け、右手でピタピタとトド松のお尻をはたく。

「あ、危なかった・・・??」

不穏な空気を察知したトド松がビクリと肩を震わせる。

「そ〜よ、お前は泥酔してさぁ・・・・・・」

おそ松がすぅっと深く息を吸った。

「どっかのオッサンに・・・・・・やられちまうとこだったんだよっ!!」

バッチィィンッ!!

「ぎゃぁぁんっ!!」

不意に振り落とされた一打はとんでもなく強烈で。
ようやく平手の嵐が止んだとホッとしていたトド松を一撃で涙させた。

「いっだぁぁいぃーっ!!」

これまでのも充分に痛かったのに、それがまだセーブされた力であったことを思い知らされる。

「さぁて、お兄ちゃんがなんでこんなに怒ってるか、もうわかったよねぇトド松?」

にっこりと笑う長男をこれほど怖いと思ったことはない。

「ひっ・・・ひぐっ・・・」

蛇に睨まれた蛙とはまさにこのことで、トド松はただただ怯えて顔を真っ青にして涙するだけだった。



バチィンッ!バチィンッ!パァンッ!

「いたぁぃっ!!ひっ・・・うぇぇっ!!」

バチィンッ!バチィンッ!パァンッ!

「わぁぁんっ!!おそ・・・にぃ・・・いたぁぁっ!!」

バチィンッ!バチィンッ!バチィンッ!

「ひぐっ・・・えうぅっ!!わあぁぁんっ!!」

いつまでも止まない平手の嵐の合間に、おそ松が昨夜の顛末を教えてくれた。

泥酔した自分が、全く知らない中年男に絡まれてホテルに行きかけていたこと。
それをおそ松とカラ松が止めてくれたこと。
その場で気分の悪くなったトド松を介抱しながら、家まで連れ帰ってくれたこと。
家ではチョロ松が着替えさせてくれ、一松が薬を用意してくれ、十四松が布団を敷いてくれたこと。

二日酔いがなかったことも、ちゃんと着替えて寝ていたことも、そもそもに家に帰りついていたことも、全て兄たちのおかげだったのだ。

「ったく、お前はよ〜・・・酒は飲んでも飲まれるなっての」

「いだっ・・・ひぐっ・・・ううぇぇぇっ!!」

「もともとそんなに強くもねーんだから」

「ひっ・・・ひあぁっ!!あうぅっ!!」

お説教の合間にも、おそ松の手は落ちてくる。
トド松のお尻はすっかり真っ赤に染まってしまっているが、まだ手を止めてはくれない。

「酔ってたとはいえ、知らない人にホイホイついてくんじゃありませーん」

「うぁっ・・・あうぅっ!!いたあぃぃっ!!」

「あんまお兄ちゃんたち心配させんじゃありませんよ〜」

「ひぐっ・・・うあぁぁんっ!!」

口調は随分と柔らかくいつもの調子に戻ってきているが、降ってくる平手の威力は変わらない。

「いぅっ・・・うえぇぇぇんっ!!」

自分は成人しているのにお尻を叩かれているとか、叱ってくる相手が同じ日に生まれた兄だとか
色々思うところはあるけれど、今はもうそんなことを気にする余裕なんてどこにもない。
兄の膝からは何をしても逃げられず、手足をばたつかせて暴れる気力もなくなり
トド松はソファの上に置いてあったクッションに顔をうずめてただ泣きじゃくった。

「ひぐっ・・・お、そま・・・にぃさっ・・・!!」

「ん〜?」

「ふぇぇっ・・・ごめっ、ごめ・・・なさいぃっ!!」

固く両手でクッションを抱いて、顔を涙でぐしゃぐしゃにしながらトド松が叫ぶように言うと、ようやくおそ松の手が止まった。
だが、膝からは解放してくれないところをみると、まだ許してはもらえないらしい。

「こ、これからはっ・・・ひくっ・・・きをつけるからっ・・・」

これが許してもらえるチャンスだと、必死で訴えてくるトド松に

「ん〜・・・・・・じゃ、あと50回な」

おそ松が冷たく返す。
お尻はもう真っ赤ですっかり腫れあがってしまって、とにかく痛くて痛くてたまらない。
もう1回だって叩かれたくはない。
けれど・・・・・・

「トド松、返事」

長兄に低い声で促されると

「ぐすっ・・・・・・・・・はぃ」

末弟が逆らえるわけはなかった。



それからはもう散々で。
おそ松はトド松が泣きじゃくろうが喚こうが、最後まで全く力を緩めてはくれなかった。
トド松はただひたすらに「ごめんなさい」を繰り返しながら兄の膝の上で泣き叫び、抱えていたクッションを濡らすしかなかった。

バッチィィンッ!!

「わああぁぁんっ!!」

「はい、おしま〜い」

ようやく最後の50回目の平手が落ちてきた後、頭上からやや間の抜けたおそ松の声が響き、そっと頭を撫でられる。

「ひぐっ・・・ぐすっ・・・ふえぇぇぇんっ!!」

やっと終わった、やっと許されたのだとわかって、トド松は余計に泣き出してしまった。

「あらら・・・トッティ〜?お兄ちゃんもう怒ってませんよ〜?」

おそ松は苦笑しながら、泣きじゃくる同い年の弟をそっと抱き上げてやると、膝の上に座らせて、トントンと背中を優しく撫でる。

「ふぇっ・・・おそまつにぃさぁんっ!!」

「はいはい。よく頑張りました」

おそ松はお仕置き中はとにかく怖くて厳しい兄だけれど、普段はとても弟思いの優しい兄なのだ。
ぎゅっと抱きついてくるトド松を優しく受け止め、泣き止むまでずっと頭や背中を撫でていた。



トド松の涙がようやく止まってしばらくした頃、ガラガラと玄関の戸が開く音がした。
と同時に、バタバタと猛烈な勢いで階段を駆け上ってくる足音がする。
そうトド松が思った途端、バターンッ!と元気よくふすまが開いて

「トッティ〜!!だいじょぶっ!?」

十四松が飛び込んできた。
トド松の真っ赤になっているお尻と、散々泣かされたであろうぐしゃぐしゃの顔を見て

「あわわっ・・・トッティ、痛いよね!?痛いよね!?
 あ、オレの一番おっきなドングリあげるから元気だして!?」

自分のポケットから大きなドングリを差し出してトド松に握らせた。

「あ、あとねっ!トッティが元気になれるように踊ってマッスル〜!!」

「あ・・・ありがと・・・」

相変わらずの自由奔放ぶりを発揮する十四松に、トド松が呆気にとられていると

「オ〜ゥ、ブラザー!!」

次にカラ松が入ってきた。

「可哀想に・・・このカラ松の胸で慰めてやろう!来るがいいブラザー!」

言いながらいつもの革ジャンを脱ぐと、やっぱりいつもの自撮りタンクトップが現れて

「いや、そういうのマジいいんで」

引きつった顔で即答するトド松と、ものすごく落ち込むカラ松を見て、おそ松が愉快そうに笑った。
そんなカオスな状態の部屋に最後にやってきたのはチョロ松と一松で

「ほら、バカやってないでさっさとお尻冷やさないと」

「・・・・・・これ、飲んどけば・・・?」

チョロ松は冷やしたタオル、一松はりんごのパックジュースを持っている。
おそ松がトド松をソファに寝かせてやると、チョロ松が真っ赤になったお尻にタオルを置いてくれた。
じんじんと熱を持ったお尻に冷たいタオルは心地よかった。

「あ〜ぁ、こりゃ痣になってしばらく痛むね。
 おいコラ、クソ長男。手加減しろっつっただろ!」

「えぇぇっ!?オレのせい!?ねぇオレのせいなの!?
 なんかチョロちゃん、オレに厳しくな〜い!?」

「やかましいわ!ケツ毛燃やすぞ!」

「何なのこの子!ちょっとは敬って!?オレ長男よ!?」

ギャーギャーと言い合いを始めるおそ松とチョロ松をよそに、そっと近寄ってきた一松が無言でパックジュースを差し出した。

「一松兄さん・・・」

「ん・・・水分補給。・・・大事だから」

ご丁寧にストローまでさしてあって、ソファに寝そべっていても楽に飲める。
散々泣き喚いた喉には、りんごジュースの甘味が優しかった。

「えへへへ・・・一松兄さん、ありがと」

「べ、別に・・・冷蔵庫にあった・・・だけだから・・・」

トド松がお礼を言うと、一松は顔を赤くしてぷいっとそっぽを向いてしまった。
弟思いで優しいが極端に照れ屋な一松らしい仕草に、トド松は

(相変わらずだなぁ・・・)

ジュースを飲みながら、ふふっと軽く笑う。
そこへ復活したらしいカラ松がやってきたが

「ヘイ、ブラザー!少しは落ち着いたか?
 まだ泣き足りないなら、このオレの胸で・・・」

「だから、そういうのマジいいんで、クソ松兄さん」

「オ〜ウッ!!」

またしてもトド松は瞬殺した。
それを見ていたチョロ松がすかさずツッコミを入れる。

「さすがにドライモンスターだねぇ、トド松は」

「チョロ松兄さん・・・」

「だけどね、トド松。お前がいくらオレたちを頼らないドライモンスターでも、オレたち兄貴は勝手に心配するんだよ」

「う・・・うん・・・」

いつになく真剣な声を出すチョロ松に、トド松は今回の一件を思ってしゅんと俯く。
が、ここでふとした疑問がひとつ。

「あ、あのさ・・・」

「「ん?」」

トド松が口を開くと、おそ松とチョロ松が同時に顔を向けた。

「なんで僕が合コンしてた場所とかわかったの?
 僕、誰にも言わなかったのに・・・」

合コンなんて聞いて、この兄たちが大人しくしているとは到底思えなかったトド松は
兄たちの誰一人にも告げず家を出たはずだった。
それなのに、兄たちは合コンが解散になった直後のタイミングでトド松を発見している。

「あ〜、それな。
 お前の友達から電話がかかってきたんだよ」

トド松の質問に答えたのは、おそ松だったが

「確か名前は・・・タカシだったか、ヒトシだったか・・・。
 あっ、サトシだ!!」

「アツシだよっ!!何回間違えんだ!!」

うろ覚えであったため、またしてもチョロ松のツッコミが炸裂した。

「アツシくんかぁ・・・・・・」

合コンで女の子たちを軒並み虜にしていた一軍の男こそがアツシだった。
トド松と友人関係であるアツシは、飲みすぎた彼を心配してくれたのだろう。
それにしても、合コンの後でいつも女の子をお持ち帰りしているアツシがまさか家に電話をかけてくれていたとは・・・

「さすがどこまでも一軍様だわ・・・」

その気配りにトド松はアツシが一軍である理由を垣間見てため息を吐いた。

「ホント、アツシくんが電話してきてくれて良かったよ。
 おそ松兄さんなんてトド松の帰りが遅いってずっとそわそわしてたんだから」

チョロ松にそう言われて

「そっ、そんなんじゃねーしっ!!」

おそ松は口を尖らせて、指で鼻の下を擦った。

「お兄ちゃんとしては弟を心配すんのは当然っつーか・・・」

照れてごにょごにょと語尾を濁すおそ松に、今度はカラ松が続ける。

「兄貴、電話がかかってきた時には場所もろくに聞かずに飛び出してったじゃないか」

「そうなの?」

トド松が問えば

「そうだとも。トド松を見つけた時には、隣に居るオッサンも速攻でぶっ倒していたぞ」

「しょーがなかったの!弟の貞操の危機だぞ!?
 ぶっ飛ばすしかなかったの!!」

おそ松は今度は耳まで赤くした。
総じて彼は照れ屋な弟思いなのだ。

今回のお仕置きだって、恐らく他の兄たちをあらかじめ家から追い出しておいたのはおそ松だろう。
誰だって膝の上で泣かされている姿を他の兄弟に見られたくはない。
誰かのお仕置きの時には、何かと理由をつけて他の兄弟を追い払うのが彼なりの優しさであり配慮だった。

おそ松だけでははい。
カラ松も、チョロ松も、一松も、十四松も・・・5人の兄たちはいつでも末弟のことを気にかけてくれる。
お仕置きの後に乱入してくるなんてデリカシーのなさはあるものの、手当てをしてくれたり、心配してくれたりと皆優しいのだ。

たかだか数時間・・・下手すれば数十分の差で生まれた同じ顔の兄弟。
時には末弟であることを恨みに思ったりもしたが、全力で甘やかしてもらえる末っ子の特権はやはり悪くない。

「へへっ・・・・・・兄さんたち、ありがと」

ソファに寝そべりながらトド松が言えば

「「「「「おう!」」」」」

五重奏の返事が返ってきて。
トド松はふにゃりと笑った。