ぷちらば


02.Secret Of Prince Heart U

「はい、キヨく〜ん。次はもうちょい右向いて〜。
 そうそう、目線はもうちょい下・・・ええよ〜、そのまま・・・」

明々と照らされたライトの光はいっぱいに、パシャパシャと連続で鳴るシャッター音。

「ん〜・・・次はもうちょい左に寄って、遠く見てるカンジで・・・
 そうそう。うん、なかなかええよ〜」

関西弁を操るカメラマンの指示を受けながら、その通りに動く被写体の名前は
大路清純(おおじ きよすみ)、16歳。
高校生ながら、ファッション雑誌や、最近ではちょこちょこテレビCMにも出演し
若い女性を中心に人気急上昇中のアイドルモデルである。

「ふぃ〜・・・疲れたぁ〜・・・」

何も喋らず、指示通りにポーズをとるというのは、なかなか骨の折れることで。
ようやく撮影の半分が終わった清純は、スタジオの端に用意されたパイプ椅子に腰掛けて
大きく息を吐いた。

「まぁ初めての写真集やし、緊張するんもわかるんやけどな。
もうちょい気楽に構えた方がええで?」

独り言を呟いたはずの清純に、そう語りかけてきたのはカメラマンのJ(ジェイ)である。
Jという名前ではあるが、彼はれっきとした日本人、しかも生粋の浪花っ子である。
彼とは今日初めて会ったのだが、Jは何故か清純には親切で、こうして休憩の時には
気を遣ってわざわざアドバイスをくれたりする。

「固い表情ばっか見せとったら、せっかく可愛い顔やのに
 もったいないやん。・・・な?」

そう言いながら、ニカっと笑いかけてくるものだから、清純もつられて

「そ、そうですか・・・・・・?」

適当に相槌を打ちつつ、へらっと笑ってしまう。
どうもこのJは根っから明るい人間らしく、それは周りにも影響するらしい。
彼に声を掛けられると、自然とテンションが上がってくるから不思議である。

撮影自体は慣れたものだが、どのページを捲っても自分しか写っていないという
写真集が出版される事になったのは、清純にとって今回が初体験。
昨日は、スタッフやカメラマンが怖い人間だったらどうしようとか
上手く自分らしさが出せるかとか、珍しく色々と考え込んでしまって
久しぶりに緊張して、なかなか眠れなかった。

「ま、普段どおりしとったらええねんて。
 リラックス、リラックス」

Jはそう言いながら、清純の頭をワシワシと撫でる。

「は、はぁ・・・・・・」

子供扱いされたようで何となく納得いかないが、こうもニッコリと悪気のカケラもない顔で
されると、もはや怒る気も起きない。
清純は、またしてもJを見ながら、へらっと笑った。

「あと半分やし、午後からもがんばろな〜」

Jはそれだけ言うと、ヒラヒラと手を振って、スタジオの中心へと戻って行った。

(・・・うん。よし・・・頑張るか!)

久しぶりの長丁場であるが、何と言っても自分の初めての写真集である。
清純はぎゅっと拳を握り締めると、気合いも充分に、椅子から勢いよく立ち上がった。





気合いも再充填したし、ヤル気も出てきた。
だが・・・・・・

「ん〜、じゃぁ次は・・・・・・」

「・・・ふぁ〜っ・・・」

Jから指示が出ても、どうにも身体が重くて動きが鈍い。
瞼も重いし、欠伸は連発。

「ん〜?キヨくん、眠いんか?」

清純があんまり欠伸を繰り返すものだから、Jは苦笑しながらファインダーから
目を離した。

「ふぁっ・・・!?
 えっ、あ・・・いえ・・・その・・・」

まさか緊張して昨日眠れなかったなんて、そんな言い訳をするのも恥ずかしくて
清純はごにょごにょと語尾を濁した。

「眠そうな顔も可愛いんやけど・・・ま、もう一回休憩にしよか。
 顔洗って、サッパリしてき?」

「え・・・あ、すみません・・・」

まるで怒っていない風なJを見ていると、自分の根性が足りなくて
ひどく申し訳ない気持ちになる。

「すぐ行ってきますっ!!」

清純はセットから飛び降りると、パタパタと早足でスタジオから飛び出した。





顔を洗ったついでに、目薬でも点そうと、清純は控え室に立ち寄った。

「はぁ・・・・・・」

せっかくの写真集の撮影なのに・・・と思うと、何だか自分が情けなくて
ついため息をもらしてしまう。

ガチャリと控え室の扉を開いた瞬間、清純は固まってしまった。
なぜなら・・・

「よぉ、キヨ」

そこにいるはずのない男が目の前にいたのだから。
軽く手を上げて、清純に笑いかけるこの男の名前は真堂帝(しんどう みかど)。
28歳にして、数々の賞を受賞し、今や日本どころか世界が注目する俳優である。
そのカリスマ性から、彼のファンは敬意を込めて「皇帝」と称するほどだ。

「なっ・・・なんで、アンタこんなとこにいんの!?」

皇帝と呼ばれる彼には、当然のごとくすさまじいスケジュールが組まれている。
それはまさに殺人的なレベルで、こんなところに現れる時間なんてないはずなのに。

「お〜お〜、ウチの王子様は冷てぇな。
 可愛い恋人が心配でわざわざ見に来てやったってのに」

「だっ、誰が恋人だっ!!
 ただの同居人だろが!!」

「恋人」の言葉に、清純は顔を真っ赤にして反論する。

オーディション会場で清純を見初めた帝は、彼を自分と同じ事務所にスカウトし
後輩の指導をするという名目で、半拉致状態で彼を自分のマンションに連れ込んだ。
それからというもの、実は連日のように「可愛い」とか「恋人だ」とか
他にも歯の浮くようなセリフを言われ続けている。
それは帝の本心であって、嘘偽りない言葉なのだが、意地っ張りな性格の清純は
それを決して認めようとはしない。

しかし、そういったセリフを言われること自体は、実はそんなに不快だとは思っていなかった。
むしろ相手を考えると、身に余る光栄だとも感じている。
だが、世界が注目する男が、まさか自分のような高校生を相手に、本気なわけがないと
清純はそう思っている。
おかげで28歳にして、地位も名誉も何もかもを手に入れたと思われた皇帝にも
この王子様の心だけは、未だに手にすることが出来ずにいるのだった。

「だいたいっ、なんでアンタこんなトコに居るんだよ!?」

わざわざ歯の浮くようなセリフを言う為だけに、殺人的なスケジュールの合間を縫って
スタジオにまで現れるバカはいない。
清純は、恋人と言われて、未だに顔をほんのり赤らめたまま、帝に早口でまくしたてた。

「お前こそ、なんでこの時間に控え室に帰って来るんだよ?
 予定じゃ夜まで撮影のハズだろが」

だが、帝に逆に質問で返されてしまう。

「え・・・いや、まぁ・・・予定じゃそうだったんだけど・・・」

口は悪いが、根が素直な清純は、自分が最初に質問した立場でありながら
思わず帝の言葉に答えを返してしまっていた。

「ん〜?何だ、もう終わったってのか?」

いまいち煮え切らない態度の清純に、帝は怪訝な顔つきを見せる。
清純のことなら何でもお見通しの帝にしてみれば、清純が何をかごまかそうとしているのが
手に取るように解ってしまう。

「えと・・・・・・今、一応休憩中で・・・」

まさか自分があまりにも欠伸を連発するから、カメラマンが休憩にしようと言ったなどとは
完璧主義者の皇帝の前では言えるはずもない。
言ったが最後、その欠伸の元々の理由まで尋ねられて、昨夜あまり寝ていないことまで
白状しなくてはならない。
そうなれば、自己管理がなってないと散々お説教されるのは目に見えている。

「どーせ、あんまりにも欠伸ばっかしてっから、Jのヤツに
 顔洗って来いとでも言われたんだろ」

「なっ、何でわかっ・・・・・・」

清純は、何でわかったのかと言いかけた口を慌てて塞ぐがもう遅い。
自分のことならば何でもお見通しの皇帝の前に、見事に自白してしまった清純は
気まずそうに視線を泳がせた。

「お前がなんで今日そんなに欠伸ばっかしてんのか、教えてやろーか?」

いつまでも控え室の扉の前で突っ立っている清純を、帝はグッと腕を引いて
自分の元へと引き寄せる。

「へっ・・・!?」

突然のことに清純は反応する余裕もなく、帝に腕を引かれて、そのまま座卓に
腰掛けた帝の前に立たされた。

「なんでそんなに眠いのか教えてやるっつってんだよ」

帝は言葉を紡ぎながら、更に清純の腕を引き、自分の膝の上にうつ伏せにさせた。

「え・・・ちょっ・・・何すんだよっ!!」

この体勢には非常に嫌な思い出のある清純は、ジタバタと暴れたが
まだまだ発育途中である身体では、190センチ近い身長の帝には敵うはずもなかった。
あっという間に下着ごとズボンを剥ぎ取られ、白いお尻を剥き出しにされる。

「お前が今日そんなに欠伸ばっかすんのはなぁ・・・」

「やっ・・・やめろってばっ!!」

帝の右手が大きく振り上げられる。

「明け方までゲームしてたからだろがッ!!」

バチィィンッ!!

「いたぁぁッ!!」

控え室中に甲高い音が響いたと同時に、強烈な痛みが清純のお尻を襲う。

「ったく、このバカが!!」

パァンッ!!バチンッ!!バチンッ!!バチィンッ!!

「いたっ・・・やっ、いたいっ!!いたいーッ!!」

連続で同じ箇所を叩かれて、清純はたまらずジタバタと手足を動かして反抗する。
だが、がっしりと腰を押さえ込まれているので、それはまるで意味を成さない。

「どこの世界にゲームが原因で撮影が遅れるモデルがいんだ、この大バカッ!!」

パンッ!!パァンッ!!バチンッ!!バチンッ!!

「ふぇっ・・・や、いたぁっ・・・も、やめろってばぁっ!!この変態ーッ!!」

清純が泣き出しても、どれだけ文句を言っても、帝は振り下ろす手を緩めない。
いくら清純を可愛がっているとは言っても、躾けるべきところは厳しく躾ける。
それが真堂帝という男である。

「安心しろ。眠気なんて吹き飛ぶぐらい痛くしてやっから」

「ふぇ・・・やっ、やだやだやだっ!!やだってばぁっ!!」

帝の言葉に、清純は膝の上でビクッと大きく怯え、何とか逃れようと
更に手足での抵抗を強める。

パァンッ!!パァンッ!!バチィンッ!!

「ひぅっ・・・やだっ・・・いたぁッ!!」

だが、それを許すほど帝も甘くはない。
素早く清純の右腕を背中に縫い付けてしまうと、ピンク色に染まった清純のお尻に
容赦のない平手を振り下ろす。

「うぇぇっ・・・いたぁ・・・ふぇぇっ・・・」

抵抗しても無駄だと、無理矢理に教えられた清純は、ボロボロと大粒の涙を零した。

「だってっ・・・寝られなかったんだも・・・ふぇぇ・・・」

清純は帝の膝の上で、勢いよく飛んでくる平手にビクビクと怯えながらも
なんとかこれ以上ぶたれないように、泣きじゃくりながら言い訳を口にする。

「・・・緊張して・・・なかなか・・・寝られなかったからっ・・・」

「ほぉ・・・だったら聞くが、コントローラー握りっぱなしで寝てたのは何でだ?」

「えっ・・・えと・・・それは・・・」

最初は確かに、緊張してなかなか寝付けなかったから始めたゲームだったのだけれど
途中からはむしろ続きが気になって止められなくなってしまっていた。
幸いにも帝のスケジュールでは今夜は帰ってきそうもなかったので、少し夜更かしして
キリのいいところまで進んで止めようと思っていたのだが、結局は止められなくて
眠気が限界に達する明け方までやり続けたのだ。

よくよく思い出してみれば、眠気が限界に達して意識を手放してから
どうやってベッドまで行ったのか、その辺りの記憶が定かではない。

「ま・・・まさか、アンタ昨日帰ってきた・・・?」

嫌な汗をダラダラ流しながら、清純が首を捻って見上げてみれば

「床にコントローラー握りっぱなしで爆睡してた可愛らしい王子様を
 寝室のベッドまで運ばせていただきました」

それが何か?と、帝は恐ろしいほど綺麗に微笑む。
最初は寝付けなくて始めたゲームが、途中からは続きが気になって止められなくなったことも
本当は無理にでも寝なくてはいけなかったのに、帝が帰ってこないのをいいことに
夜更かししてやれと思ったことも、もう何もかも一部始終全て帝にはばれているのだ。
どれだけ言い訳をしても、どんなに必死に訴えても、逃げられないのだとわかって
清純はただただ帝の膝の上で青い顔をして小さく震えるしかなかった。

ビクビクと怯える清純を見ても、帝は容赦ない。

「メイクの美和ちゃんには俺から頼んでおいてやるよ。だから・・・」

そう言って、またしても大きく腕を振り上げる。

「心置きなく泣け」

パアァァンッ!!

「うわあぁんッ!!」

強烈な一打を皮切りに再開された平手の嵐に、清純は子供のように甲高い泣き声をあげる。

パァンッ!!パァンッ!!パアァンッ!!

「ふぇぇっ・・・やだっ・・・も、やだぁっ!!」

自分のお気に入りとしてのキヨにはめっぽう甘い帝だが
プロのモデルとしての清純にはとにかく厳しい。
その才能ごと清純に惚れ込んでいる帝は、まだまだ原石の清純を
光り輝く宝石に仕立て上げてやりたいと思っている。
その為には、いくら清純が可愛くても、心を鬼にして教育しなくてはならない。

バチィンッ!!パァンッ!!パァンッ!!

「ふぇぇっ・・・やっ、やだってばぁっ!!」

お尻を真っ赤にされて、痛くて痛くて我慢できない清純は、少しでもこの痛みから
逃れようと、ズリズリと腰を落とそうとするが

「こら、逃げんな!!」

帝の叱責と同時に、バチンッ!!と一段ときつい平手が飛んでくるので
大人しくしていざるを得なかった。

「ふぇぇっ・・・も、やだぁっ・・・ごめ・・・なさいぃっ!!」





「・・・う〜っ・・・ぐすっ・・・」

ようやく膝から降ろされた清純だが、あまりにもお尻が痛くて、ペタリと床に
座り込んでしまっていた。

「う〜・・・お尻痛い・・・ぐすっ・・・この変態っ!!サドッ!!」

そして、悪態を吐きながらギッと帝を睨みあげる。
あれだけ厳しくお仕置きされて、お尻は真っ赤に腫れているのに、この気の強さといったら・・・

(やっぱコイツ大物になるな・・・)

帝は半分呆れながら苦笑した。

「ほら、他のスタッフ待たせてんだろ?
さっさと支度して行くぞ」

「えっ・・・な、ちょっと・・・!!」

床に座り込んでお尻を擦っていた清純の腕を取って立ち上がらせると
帝はそのまま手を引いて、ズンズンとスタジオへ向かって行く。

「ちょっ・・・ちょっと、なんでアンタが一緒に行くんだよ!?」

「言っただろ?可愛い恋人が心配で見に来たって」

「なっ・・・だからっ、そうじゃなくて!!」

清純が顔を真っ赤にして反論しても、帝には通用しない。
ぐいぐいと腕を引っ張られて

「だからっ、アンタが来たら皆ビックリする―――――」

反論も虚しく、遂にスタジオの扉は勢いよく開かれてしまった。
バァンッ!!と金属製のドアが開かれた音が響く。
一瞬にして、スタッフの顔がこちらを向いた。

「ビックリした〜・・・なんや、キヨくんかぁ」

驚いたと言いながらも、のんびりした声を出して、ファインダー越しにこちらを見ているのは
カメラマンのJだった。

「それに・・・みーちゃんも一緒やとはな〜」

そう言いながら、帝と清純の方へと近づいてくる。

「へ・・・?みーちゃん??」

自分はJに『キヨくん』と呼ばれているから、『みーちゃん』とは清純のことであるはずがない。
ということは、必然的に『みーちゃん』とは隣にいる皇帝のことになるのだが・・・・・・

「誰が『みーちゃん』だ。カメラマンの『次悟朗丸』先生さんよ」

「あーッ!!本名では呼ばんといてっていっつも言うてんのにーッ!!」

「うるせーよ、お前が先に言い出したんじゃねぇか」

ギャーギャーと言い合う帝とJだが、清純には何が何だかサッパリわからない。

「みーちゃん、キヨくんには何も言ってへんのん?」

それに気付いたのか、Jは不思議そうに自分達を見る清純と、帝とを見比べた。

「ああ・・・まぁな」

帝はしれっとした態度でJの視線に対する答えを呟く。

「ごめんな〜、キヨくんだけおいてけぼりやね〜。
 あのな、オレとこの悪徳皇帝、高校の時の友達やねん」

「誰が悪徳だ、誰が!!
 変なこと吹き込んでんじゃねぇよ、ただの腐れ縁だろが」

「あ〜、またそんな冷たいこと言う〜。
 だいたい、この前の雑誌の撮影ん時も・・・・・・」

「あれはお前が事務所の要望無視して・・・・・・」

またしてもギャーギャーと言い合う二人を見ていると清純は何だかおかしくて
思わずクスクスと笑ってしまった。

「お、なかなかいい顔して笑うやん。
 そんなカンジでリラックスしといたらええから」

Jはそう言って、ポンッと軽く清純の肩を叩く。
もしかしたら、清純がリラックスするように、ふたりで軽口を言い合っているように
見せかけていたのかもしれない。

「あ・・・あのっ・・・・・・」

カメラマンのJにまで、そんなに気を遣わせてしまったなんて、何だか申し訳なくて
清純はじっとJを見上げた。

「・・・うん、これからの撮影頑張ってくれたらええから」

清純の心情を察してくれたのか、Jはニッコリと笑って

「ほな、皆後半の撮影入ろか〜」

その他のスタッフをまとめながらセットへ向かい始める。

「ほら、カメラマン行っちまったぞ。モデルがいなきゃ、撮影できねぇだろが」

呆然とJを見送ってしまった清純のお尻をポンッと帝が軽くはたく。

「いたぁっ!!」

本当に軽くはたかれただけだったが、真っ赤に染め上げられたお尻にはそれすらひどく痛む。

「ほら、さっさと行って来い」

「むぅ・・・・・・」

清純はむくれながらもこれ以上Jを待たせるわけにもいかず、パタパタと早足で
セットに向かう。

カメラの傍を通り抜ける時、すれ違いざまにJがこっそりと囁く。

「みーちゃんがこんな人に気ぃ遣てるとこ、見たことないわ。
 キヨくんにだけは、本気やね」

「なっ・・・・・・」

その言葉に思わず足を止めた清純の顔は耳まで真っ赤で。

「お、キヨくんまんざらでもないって顔やな。
 あの男、本気の相手にはトコトン奥手やからなぁ・・・。
 たまには素直に甘えたりや?」

「へ・・・だって・・・そんなっ・・・!!」

「ほな、はよ終わらせよか」

慌てて反論しようとする清純の背をそっと押して、Jは彼をセットまで追いやる。
清純はまだ何か言いたそうにしていたが、セットに入ってしまえば
大人しくせざるを得ない。

「よっしゃ、ほなさっきの続きからな〜」

こうして撮影は再開された。





途中から急に現れた皇帝に、周りのスタッフも最初は驚いていたものの
帝が居て邪魔になるようなことはないし、Jのフォローもあって
撮影が始まってしまえば、皆それにのみ集中していた。

その後、清純の写真集撮影は順調に進み、遂に今日の予定分は終了した。

「お前なぁ・・・また欠伸してたろ」

セットの前で偉そうに腕組をしている帝に近づいた途端、清純はそう言葉をかけられた。
こっそり噛み殺したつもりだったのに、この男は目ざとく見ていたらしい。

「え・・・あれはっ・・・そのっ・・・!!」

どれだけお仕置きされても、眠いものは眠いのだ。
欠伸なんて生理現象を無理に抑えられるはずがない。

「昼間のだけじゃ足りなかったみてぇだな。
 帰ったら覚悟しとけ」

「そっ、そんなっ・・・!!」

清純はまさかそんなことを言われるとは思ってもみなくて、ビクッと大きく身を強張らせた。

「・・・冗談に決まってんだろ。いくら俺でも、そこまで厳しかねぇよ。
 まぁ、緊張してたわりには、なかなか良い顔できたんじゃねぇの?」

冗談を本気に捕えて、泣きそうな顔をしてこちらを見上げてくる清純の頭を
帝はポンポンと撫でてやる。

「う〜・・・・・・」

騙されたとわかった清純は口を尖らせながらも、憧れの人物に多少なりとも褒められたことが
嬉しくて、大人しく頭を撫でられていた。

「お?なんだ、珍しく素直じゃねぇか」

「うっさい!!オレはいつだって素直なの!!」

まさかJにたまには素直に甘えてやれと言われた、などとは言えるはずもない。

「どーだか・・・膝の上じゃ尻真っ赤にされても、なかなか素直に謝んねぇクセに・・・」

「わぁーッ!!それ以上言うなーッ!!」





何をか言い争いながら、スタジオから離れていく二人の背中を見送りながら
Jはそっとファインダーを覗き込む。

「ん〜・・・みーちゃんの隣におる時が、キヨくん一番ええ顔してんねやけどなぁ。
 ・・・・・・せやけど、これは写真集には載せられへんわな」

そこには、今日の撮影では撮れなかった、一番良い表情をした清純がいた。

頬を少し染めて、顔では反発しながらも瞳はしっかり相手を捕えている。
その活き活きした表情は、決して写真では表せない―――――――恋する人の顔。