ぷちらば


01.Secret Of Prince Heart

真堂 帝(しんどう みかど)28歳。職業、俳優。

今の日本において、彼の存在を感じずに一日を過ごすことは難しい。
ひとたび街に出れば、街頭の大型モニターからは彼の色素の薄い髪が風になびくCMが大量に流れ
コンビニや書店では時に艶かしく、時に年齢よりも幼く見える彼の顔が表紙の雑誌が山積みで。
家にいても、テレビやラジオからは彼のバリトンの声が聞こえ、心地良い歌が流れてくる。

顔、声、職業、収入・・・・・・どれを取っても文句なし。
28歳にして富も、名声をも手に入れた彼を、ファンは憧れと尊敬から彼の名前にあやかって『皇帝』と呼ぶ。

けれど、一見何だって手に入れられる・・・そんな皇帝にも、実のところ手に入らないものが
たったひとつだけあった。





「・・・・・・ただいま」

今日も今日とてハードなスケジュールをこなし、帝は疲れきって自宅のリビング扉を開く。
夜中の3時だというのに、明々と照らされた広いリビング。
その中央の大きなソファでは、パジャマ姿の少年が大の字になって眠っている。

「おい・・・・・・最愛の恋人のご帰還だってのに、無視かよ・・・」

バタンと音をたてて扉を閉めて近づいても、少年はその気配に全く気付くことなく、ぐうぐうと寝入っている。

「このヤロ・・・・・・」

自分が疲れて帰ってきているのに、居候の身である少年がぐーすか眠っているのが、何だか癪に障って
帝は彼の鼻をぎゅっと摘んでやった。

「・・・・・・・・・ふわぁっ!?」

急に呼吸が出来なくなって慌てた少年は、素っ頓狂な声を上げて飛び起きた。

「よぉ。やっと起きたか、キヨ」

「・・・こんにゃろ・・・なんて起こし方すんだよ!!」

キヨと呼ばれた少年はまだ眠いのか、目をこすりながらも帝を睨みつけて文句を言った。

「最愛の恋人が帰ってきたってのに、起きて出迎えねぇお前が悪い」

帝は皇帝の名の通り、ふんぞり返って偉そうに言い放つ。

「だっ、誰が恋人だッ!!勝手に拉致って来たくせにっ!!」

少年は帝の言葉に、顔を耳まで真っ赤に染めて帝を睨んだ。

「お?先輩にそんなクチきいちゃって良いのかな〜?」

帝は意地悪くニヤニヤと笑いを浮かべて、睨み返してくる少年を見やる。

「う〜・・・・・・・・・」

彼は何も答えず、ただ低く唸った。

少年の本名は大路 清純(おおじ きよすみ)、親しい者からはキヨと呼ばれている。
その名の通り、清純派で売り出し中の16歳のアイドルモデルだ。
だが、事務所の戦略とは裏腹に、姿は清純だがとにかく口が悪い。
そんな彼は実は帝の所属事務所の後輩である。

芸能界という世界はとにかく上下関係にうるさく、そして厳しい。
先輩の気に触れてしまった為に、せっかく得た大役を降ろされるなんてことは日常茶飯事だ。
それ故に、後輩は先輩に絶対服従と言っても過言ではなかった。

「で?どうなのかな〜キヨくん?」

意地悪くニヤニヤした顔で、帝は清純の顎を掴んで無理矢理に視線を合わせた。

「う〜・・・・・・」

元より人に謝ったりするのが嫌いな清純は、ぷぅっとむくれて帝を睨む。

「・・・お前なぁ・・・・・・こういう時は嘘でも謝っとけ」

一向に答えようとせず、むくれたまま自分を睨み返す清純の態度に、帝は呆れながらため息を吐く。
呆れながらも、そのふくれた顔も可愛いと思ってしまうのは、惚れた弱みというやつだろうか。

モデルとして活躍し始めてからまだ日の浅い清純は、イマイチ芸能界についてわかっていないように思える。
清純は、帝が事務所主宰のオーディションの審査員をしていた時、たまたま見つけた清純に一目惚れし
事務所にスカウトするまで、ごくごく普通の高校生だったのだから、無理もない。
だが、今のままの態度で仕事をされては事務所的に宜しくないのは明らかだ。
それどころか、清純を教育する名目で社長を納得させて、なんとか自分の家に住まわせることに
成功した帝としては立場がない。

「・・・だってっ・・・・・・やだ・・・」

清純はまだ悔しそうに口を尖らせながら、帝の手から顎をはずして、ぷいっとそっぽを向いてしまった。

(この業界で仕事してなきゃ、そのまま放っておいても可愛いだけだから良いんだけどなぁ・・・・・・)

帝が清純に惚れたのは、顔や容姿というのもあるけれど、実のところはその才能に光るものがあったからである。
清純はただ友達の付き添いのような形でオーディションに参加していただけなのだが
帝は彼に並々ならぬオーラを感じ取っていた。
事実、帝のたっての希望で清純を事務所に引き入れ、モデルとしてデビューさせたところ、メキメキと才能を発揮した。
だが、まだ慣れていないからなのか、その輝く才能にもどうしてもムラが出てしまうことがある。
清純の才能はまだまだ発展途上なのだ。

(だから、こういう細かいことでも、見逃してやるわけにゃいかねぇんだよな・・・)

才能ごと清純に惚れてしまっている帝としては、その才能を余すことなく開花させてやりたいと思っている。
その為には、どれだけ清純を可愛いと思っていても、多少心を鬼にして清純を教育しなければならない。
下心が全くなかったと言ったら嘘になるけれど、社長を説得してまで一緒に住むと主張したのには
こういう理由があったのだ。

(今日はちょっと厳しくしとくか・・・・・・)

帝はどっしりとソファに座ると

「キヨ、こっち来い」

目の前で立っている清純を静かに手招きした。
未だにむくれている清純は、チラリと帝を見るだけで、近づこうとはしない。

「キヨ・・・ほら、さっさと来い」

段々と帝の声が低くなって、イライラし始めているのは清純にもわかっていた。
だが、それでも清純は帝が何を考えているのかわからなくて、何だか怖くて近づけない。

「・・・・・・・・・・・・」

ただ無言で、恐る恐る様子を窺っている。

「清純」

「・・・・・・ッ!!」

突然、本名を呼ばれて清純はびくっと身を強張らせる。
帝と一緒に暮らし始めてから、叱られる時はいつもの愛称ではなく、本名で呼ばれていた。
本名で呼ぶのは、帝が本当に怒っている証拠である。

「ほら、さっさと来いって言ってんだろが」

いつまで経っても動こうとしない清純に痺れを切らした帝は、ぐいっと清純の腕を引っ張った。

「ちょっ・・・ちょっと何すんだよっ!!」

気の強い清純は、怯えながらも何とか抵抗しようとするが、才能のついでに身体も発展途上な彼では
190センチ近い身長の帝とでは、まるで大人と子供で、力の差は歴然だった。

「今日は素直にしてやろうと思ってな」

帝は言いながらも、引っ張る腕の力は緩めない。

「はぁっ!?なんだよ、それ!!このっ・・・離せってばッ!!」

敵わないとはわかっていながらも、ジタバタと暴れる清純を力で押さえ込んで
帝は自身の膝にうつ伏せにさせた。

「このっ・・・離せって言ってんだろッ!!」

「素直になったら離してやるよ」

帝は押さえ込まれても、まだ顔を真っ赤にして暴れる清純のパジャマを、下着ごと一緒に膝まで下ろして
真っ白なお尻を剥き出しにした。

「なっ・・・・・・このっ、変態〜ッ!!」

いっそう顔を真っ赤にして悪態をつく清純に、帝は

「素直にならねぇと、数増えるだけだからな」

一応忠告はしてやって、大きく右手を振り上げた。

バチィンッ!!

「ひぅっ!!」

突然、高い音がして、鋭い痛みが清純のお尻を襲う。

パンッ!!パンッ!!パァンッ!!

「ひぅっ・・・やっ・・・・・・いたぁッ!!」

右、左、右・・・交互に連続して叩かれて、清純はようやく自分が子供のようにお尻をぶたれているのだと気が付いた。

「やっ・・・・・・やめろっ、変態〜ッ!!」

恥ずかしくて、顔を真っ赤にして必死で膝の上で抵抗する清純に

パァンッ!!バチンッ!!バチィンッ!!

帝は無情にも思い切り右手を振り下ろした。

「ひんっ・・・・・・いたぁっ・・・・・・うわぁんっ!!」

連続して襲ってくる痛みに、清純は遂に我慢しきれず、泣き出してしまった。
それでも帝は振り下ろす手を止めない。

「ふぇぇっ・・・・・・いたいっ、いたいーッ!!バカーッ!!」

びくびくと怯えながらも、清純はバタバタと手足を動かして、そして口でもまだ抵抗を続ける。

「お前なぁ・・・・・・」

その強情さに帝は半ば呆れつつも、ここで力を緩めるわけにはいかないと
再度心を鬼にして、清純にきつい平手を加える。

パァンッ!!バチィンッ!!パンッ!!パァンッ!!

「やぁっ・・・・・・ひっ、やっ・・・・・・うわあぁんっ!!」

部屋中に響くほどの高い音と共に、清純の背中がのけぞった。
そののけぞった背を、帝はまた膝に押さえつけて、更に容赦なくお尻に平手を振り下ろす。

バチィンッ!!パンッ!!パァンッ!!

「いたぁっ・・・・・・やっ、も・・・・・・ふえぇぇっ!!」

子供のようにお尻をぶたれて恥ずかしいし、悔しいけれど、それ以上にとにかく痛くて痛くてたまらない。
清純は、もはやプライドなど気にしていられる状態ではなく、そのあまりの痛みに
顔をぐしゃぐしゃにして泣きじゃくった。

パァンッ!!バチィンッ!!パンッ!!パァンッ!!

「うわぁんっ!!も、やっ・・・・・・ひぅっ、もうやだぁっ!!」

腰を押さえ込んでいた帝の腕を暴れて何とか緩めると、清純は自分の右手を滑り込ませて、お尻をかばった。

「ふぇっ・・・・・・いたぁ・・・・・・ぐすっ」

手で触れてみると、ジンジンと熱を持っていて熱い。
ちらっと自分のお尻を見てみると、その他の部分とはまるで違い、真っ赤に染まっていた。

「こら、手ぇどけろ清純」

頭上から厳しい声が聞こえて、ペチペチとお尻をかばっている手をはたかれる。

「や・・・だってっ・・・・・・!!」

また本名で呼ばれて、帝の怒りが解けていない事を知らされ、清純はびくっと身を強張らせる。

「素直にならねぇと、数増えるだけだって言ってあっただろが」

帝は必死に自身のお尻をかばう清純の両手を、片手で軽く捻りあげると
二度とお尻をかばう事が出来ないように、清純の背中に縫い付けた。

「やだっ・・・・・・も、やだぁ〜っ!!」

手でかばった罰だと言わんばかりに、帝はぐいっと足を組むと、清純のお尻を更に高く上げさせた。

バチィンッ!!パンッ!!パァンッ!!バチィンッ!!

「やぁぁっ・・・・・・ふぇっ・・・・・・ひっ、うわあぁんっ!!」

すでに真っ赤になったお尻に、更に角度をつけてぶたれて、そのあまりの痛みに
清純はただ泣きじゃくるしかなかった。

「ほら、なんか言うことあるんじゃねぇの?」

パァンッ!!パァンッ!!バチンッ!!

「ふぇぇっ・・・・・・も、やだぁっ・・・うえぇぇんっ!!」

容赦なく飛んでくる帝の平手に、清純は半ばパニックになりながら泣き喚く。

「はぁ・・・・・・お前、ホント手間かかんのな・・・・・・」

パチンッ!!パァンッ!!バチィンッ!!

「ひぅっ・・・も、やっ・・・ってばぁっ!!」

真夜中も3時を過ぎて、世間は寝静まっていて何の音も聞こえない。
それだけに、自分がお尻をぶたれている音が、近所中に聞こえていそうな錯覚に陥って
清純はそれが余計に恥ずかしくてたまらず、顔を真っ赤にしてしながら泣きじゃくった。

「ほら清純、こういう時は何て言うんだ?」

帝は尋ねながらも、振り下ろす手を緩めてはやらない。

「ふぇぇっ・・・・・・やぁっ・・・も、わかんな・・・・・・っ」

両手は背中に捻り上げられているから動かせないし、かといって自由な足をバタつかせれば
更にきつく咎められてしまう。
清純はもはや抵抗する気力すらなく、ぐったりと帝の膝の上で大人しく泣いているしかなかった。

「さっさと言わねぇと、いつまで経っても終わんねぇぞ?」

帝はそう言って、バチンッバチンッ!!と、連続で清純のお尻に平手を振り下ろし続ける。

「わあぁんっ!!やっ、も・・・・・・やだぁっ、ひんっ!!」

泣いても叫んでも、帝の平手打ちは止まらなくて、容赦なく連続して襲ってくる。

「ふぇぇっ・・・・・・やっ、ごめっ・・・・・・ごめ・・・なさいっ!!」

「何が『ごめんなさい』?」

人に謝る事が嫌いな性格の清純が、素直に『ごめんなさい』と言ったのに、帝はまだ手を止めない。

「ひぅっ・・・・・・も、やめっ・・・・・・おねがいぃっ!!」

「やめるのは、何が『ごめんなさい』か言ってからだ」

そう言って帝は、無情にも清純のお尻の膨らみに交互に右手を振り下ろしていく。

「ふえぇっ・・・・・ちゃんとっ・・・・・・せんぱ・・・いうことっ・・・きかな・・・・・・ったからぁっ!!」

「はい、よくできました」

バチィィンッ!!!

「うわああぁんっ!!」

最後に思い切りきつく一打を喰らって、清純は大きく背をのけぞらして泣き叫んだ。





「ふぇぇっ・・・・・・ひっく・・・・・・ぐすっ・・・いたぁ・・・」

ようやく帝の膝から解放されたものの、あまりにも痛くて動けず、清純はペタリと床に座り込んでしまった。

「よしよし、これからはちゃんと先輩の言うこときけよ?」

「う〜・・・・・・」

あれだけ厳しくお仕置きされても、まだ帝を睨んで頬を膨らますあたり、やはり清純は大物になるかもしれない。

「キヨ、返事は?」

悔しくて、納得なんて出来るはずはなかったが、ペチペチと帝にまたお尻をはたかれたものだから

「・・・・・・・・・・・・はぃ・・・」

清純は素直にそう答えるしかなかった。
その答えに満足した帝は、床に座り込んでいる清純を立ち上がらせてやると

「ほら、男がいつまでも泣いてんな。さっさと顔洗って来い」

そっと背を押してやった。

「・・・・・・なぁ」

背を押されてヨロヨロとリビングの扉まで行った清純が、ふと振り返る。

「ん、何だ?」

「その・・・・・・あんた、なんでオレにこんなことするわけ・・・?」

清純の拗ねたような顔つきが可愛くて

「ん〜・・・お前が可愛いから」

帝はつい冗談っぽく本音を漏らした。

「なっ・・・・・・男に可愛いとか言うなっ!!」

ニッコリと余裕の笑みを浮かべる帝とは反対に、清純は顔を耳まで真っ赤にして乱暴にリビングのドアを閉めた。

「あ〜あ・・・・・・あの王子様は一体いつになったら、オレのもんになんのかねぇ・・・・・・」

どんな女性でも聞いたら失神するであろう甘い口説き文句も、彼にはまるで通用しない。
いくら名誉な賞を受賞しても、多額の収入を得ても、彼にはまるで効果がない。
手に入れたいものは、こんなに近くにあるのに、手に入る感じが全くしない。

「はぁ〜・・・・・・」

帝は大きくため息を吐くと、ソファに寝転がった。





清純がリビングの扉を開くと、つい1時間前まで自分が寝ていたソファで、今度は帝が寝入っていた。
静かに扉を閉じて、そっと近づく。
先ほどまで鋭く清純を見つめていた瞳は閉じられていて、端正な帝の顔がどこか少し幼く見えた。
清純はソファの前にまたペタリと座り込んで、帝が完全に寝入っているのを確認すると

「オレが・・・友達のオーディションについてくフリして、審査員のあんたのこと見に行ったって言ったら・・・
 ・・・・・・あんた、どんな顔すんだろーな・・・?」

帝の寝顔を覗き込みながら、小さく呟いた。

「・・・ま、なんかムカつくから一生言ってやんないけど」

清純はそう言いながら立ち上がり、隣の部屋へ布団を取りに、またリビングの扉を開く。
その横顔は、少し赤く染まっていた。





なんだって手に入れられるはずの皇帝にも手に入れられない、たった一人の王子様。
けれどそれは意外と気付いていないだけなのかもしれなくて・・・・・・・・・。

さてさて、皇帝が王子の心に気付くのは、いつのことになるのやら。