ぷちらば


08.視点 R

「鋼の、おいで」

そう声をかけただけで、みるみる顔が青ざめて凍りつく。
にこやかに手招きをしているつもりだが、どうやらこの子にも普段との違いがわかるらしい。
そして、自分が今、かなり危うい位置にいるであろうことも。

そんな機微すらもわかってしまうのは、目の前にいるこの少年と私が・・・・・・恋人だから。



一応、私は鋼のの直属の上官という立ち位置になっている。
だが実際は、まだまだ子供な鋼の錬金術師の保護者役と言った方が正しいように思う。
喧嘩っ早いこの子供は、旅先で必ずと言っていいほど揉め事を引き起こす。
次に東部に帰ってきた際には、呼び出して説教をするものの、今のところどうも効果は薄い。
相変わらず帰ってくる度に、何かしらの始末書が付いて回ってくるので、こちらも頭が痛い。

「ほら、おいで」

「やっ・・・や、やだぁ・・・ッ!!」

何度注意しても効果がないなら、仕方がない。
少々可哀想な気はするが、痛い目に遭って自分の身体でしっかり覚えたまえ。

相手は恋人ではあるが、こういう場合、甘くするつもりは毛頭ない。
公私の区別を付ける意味合いはもちろんあるが、何よりもこの子供は
少々の危険を冒してでも、こちらが甘いのを見越して、また同じようなことをしかねない。
頭は悪くないはずだが、いつも後先をあまり考えないのは何故なのか。

「やっ、やだぁっ!!」

「こら」

いつものことだが、膝の上で暴れるので、ピシャリと軽くお尻を咎める。
瞬間、ビクリと身体が固まったので、その隙に下着ごとズボンを膝まで一気に下ろした。
だが、抵抗はこれからが本番。

「やだやだやだぁーッ!!」

腕や足を存分に使って、とにかく派手に暴れてくれる。
大人しく反省していれば、軽くで許されるとは考えが及ばないのかねぇ・・・。
いつも力の限り抵抗してくるが、国家錬金術師とはいえ相手はまだまだ子供。
こちらが負けるわけもない。

邪魔な腕を軽く捻り上げて

「しっかり反省しなさい」

早く終わるヒントだけは与えてやる。

「ふぇぇぇっ・・・・・・やっ・・・も、やだぁっ・・・・・・!!」

バチンッ!バチンッ!と何度も腕を振り下ろしながら
膝の上でグスグス泣き出す姿を見ても

「たいさっ・・・やぁっ・・・・・・いたいぃっ・・・・・・!!」

雪のように白かったお尻が赤く染まっても

「ぐすっ・・・ふぇぇっ・・・やぁ・・・も、むりぃっ・・・!!」

泣き言を漏らしても、まだ許してはやらない。
厳しいようだが、本当に反省するまでお仕置きを止めるわけにはいかないからね。

散々引っ叩いて、散々泣かせて。
しゃくりあげながらも、鋼のが小さな手でズボンをギュッと握りしめるものだから

「・・・鋼の、何か言うことがあるんじゃないか?」

我ながら甘いとは思うが、反省するまでは厳しく、などと考えてはいても
あまりにも弱弱しく小さく震える姿を見せられると、つい手を止めてしまう。

お仕置きされながらも色々と文句を喚いていたから、聞こえてくる泣き声も
今は擦れ気味だ。
あれだけ派手に泣けば、顔はお尻と同じくらい真っ赤になっていることだろう。

グスグスと鼻をすする音と、ヒクヒクと小さく漏れる嗚咽を聞きながら
鋼のが落ち着くまで返事を待ってやることにする。
今日こそは素直に返事をしてくれれば良いのだが・・・・・・

「・・・・・・・・・・・・・・・」

案の定だ。
意地っ張りなこの子は、せめてもの抵抗とでも考えているのか、まるで返事をしない。
いくら待ってやっても、沈黙で済まそうとするので、仕方なく一旦止めた手で
ピタピタとお尻をはたいて催促してやる。

「・・・・・・・・・・・・・・・」

それでもまだ無駄な抵抗を続けるつもりか。
そんなことをすればどうなるかぐらい、今までの経験でわかっているだろうに。
本当に学習能力の無い子だな。
それとも、意地っ張りが過ぎるのか。

ギュッと両手でズボンを掴んでくるあたり、どうやら覚悟はしているようだ。
相手が恋人であっても、私が容赦しないことは知っているはず。
どうやら今回は意地っ張りが過ぎるらしい。
ならば、望み通りにしてやらなくてはね。

「・・・・・・仕方がないな」

ため息と一緒に声をかけて、ふっと腕を上げる。
気配を察知したのか、ビクッと身を震わせて

「やっ・・・やっぱ、やっ・・・・・・!!」

ジタバタと手足をバタつかせる。
元より覚悟の上での抵抗だろう、と内心苦笑しながら、それを難なく押え込んで

バチィィンッ!!

「ひぅっ・・・・・・ッ!!」

往生際が悪いと言わんばかりに、今日一番の甲高い音を響かせた。

「ふぇぇっ・・・・・・うえぇぇぇっ!!」

途端に、大きな泣き声が上がる。
こちらの掌も痺れるくらいだから、鋼のも相当痛いのだろう。
散々泣いて枯れている喉ででも、まだ大声を上げて泣き喚く。
こうなるのはわかっていただろうに、どうして素直に返事をしないのかねぇ・・・。

ジタバタ暴れても、そう簡単には逃がさないのだから
意地っ張りはやめて、さっさと素直になりたまえよ。
真っ赤に腫れて熱をもっているお尻に、容赦なく更に数回平手を与える。

「やっ・・・ふぇぇっ・・・ごめ・・・・・・なさいぃっ!!」

・・・・・・ようやく言えたか。
痛い思いをしても、結局は言う羽目になるのだから、早く言ってしまえば良かったのに。
まぁ・・・・・・そんな素直じゃないところも、鋼のらしいところではあるがね。

「・・・最初からそれが言えていれば、ここまでひどくならなかったのにねぇ」

膝の上から動けない鋼のの頭を撫でながら、ため息交じりに言ってみるが
返ってくるのは、ぷくっとふくれっ面をした恨みがましげな金色の瞳。

部下でもあり、手のかかる子供でもある鋼の錬金術師。
更には外に出れば何かと問題を起こすトラブルメーカー。
意地っ張りで、警戒心が強くて甘え下手・・・・・・まるで野良の仔猫。

けれど・・・・・・

「ほら、鋼の。おいで」

そっと抱き上げて膝に座らせる。
顔を合わせて、未だ大きな瞳からポロポロと零れてくる涙を拭いてやると
困ったように眉を寄せながらも、意外に大人しい。
軽く頭を撫でてやれば、くすぐったそうに腕の中でもそもそと動く。
胸に埋めている顔をよくよく見てみれば、耳まで赤い。

「鋼の・・・」

この子は少々生意気な部分もあるが、その大半は照れ隠し。
優しく撫でてやれば、途端に大人しくなって

「・・・・・・ん」

顔を赤くしながら擦り寄ってくる。



部下でもあり、手のかかる子供でもある鋼の錬金術師。
意地っ張りで、小生意気で、甘え下手なのに寂しがり屋な困った仔猫。
けれど、本当は誰よりも素直で愛しい・・・・・・・・・私の恋人。