ぷちらば


06.FIBBER

まさしくこれは青天の霹靂とでも言うべきか。
こんなことはあり得ない。
信じがたい・・・が、目の前のこれが現実なのだ。

その日、冷静沈着な切れ者と名高い東方司令部の司令官は
まだ自分の半分ほどしか生きていない少年相手に、思考回路を停止させていた。

「・・・・・・ゴメン・・・ナサィ・・・」

うっすらと瞳に涙の粒を光らせながら、少年はしゅん・・・と頭を下げた。





ロイがエドワードに近くの村の視察を命じたのは、つい3日前のこと。
その村の近くを流れる河の水が、どうも最近になって赤く変質したというのだ。
おおかた上流にある山の土が河に溶け出して、赤く染まっているのだろうが
村人達は、何かの怪奇現象かと恐々として日々を過ごしているらしい。
それに確率は低いが、有害物質が流れ出ている可能性も捨てきれない。
そうなっては、司令部としても水質調査をして、村人達を安心させてやる他に道はない。

比較的簡単な仕事だし、何と言っても錬金術師は自然の力を利用して錬金術を使うわけだから
言ってみれば専門分野であることは間違いない。
加えて、ここ最近の東部は、テロ予告をしては小規模な放火を繰り返す愉快犯に
踊らされており、人手が足りない。
そこで、タイミングよく東部を訪れていたエドワードに白羽の矢が立ったというわけである。

国家錬金術師の資格を有している以上、エドワードも軍属の身。
上官からの依頼を断ることなどできない。
それに、大した問題でもなさそうだったのでエドワードも軽く承知した。
トラブルメーカーなエドワードのことなので、ロイとしては、多少の心配はありつつも
何とかなるだろうと、エドワードを送り出したのだが・・・・・・
結局、エドワードが村から帰ってきて、提出したのは、エドワードが書いた報告書2枚に対し
村の駐在からの報告書兼始末書が3枚。

水質調査の報告書は、エドワードらしく簡潔かつ明瞭に書かれており、上出来だと思われた。
しかし、駐在からの書類はいただけない。
例によって、禁句である『チビ』やら『小さい』やらの単語に過剰反応して
村のゴロツキと喧嘩した挙句、それに合わせて村の建物をいくつか破壊したらしい。
もちろん建物は錬金術で修繕して帰って来ているが、問題はそういうことではない。

ある意味、予想通りのトラブルを引き起こして帰って来たエドワードを
上官としても、後見人としても叱らないわけにもいかず、執務室に呼び出してみたものの・・・・・・。





「大佐の役に立とうと思ってたのに・・・ぐすっ・・・ちゃんと出来なくて・・・ゴメン・・・ナサイ」

しゅん・・・と俯いて、ぐずりだしたエドワードを前に、ロイは対応に困っていた。

普段のエドワードならば、執務室に呼びつけると、大抵不機嫌そうな顔をしてやって来ては
ギャーギャーと文句を言い、自分にはまるで一切非がないかのような言い訳をするのだ。
そこで仕方なく、ロイはエドワードにお仕置きを与え、反省して素直な謝罪が出来るまで
懇々とお説教を続ける・・・というのが、いつものパターンだった。

「・・・はんせい・・・してるっ・・・ひっく・・・こんどからちゃんと・・・する・・・」

ぐすぐすと鼻を鳴らし始めたエドワードに、ロイは驚きを隠せない。

(これは・・・何か悪いものでも食べたか・・・もしくは、具合でも悪いのか・・・)

これが今までの自分の躾の効果の表れなのだとすれば、喜ばしいことではある。
けれど・・・・・・

(鋼のらしくなさすぎて気味が悪いというか・・・拍子抜けというか・・・)

普段の彼の態度からすると、あまりにもギャップがありすぎるのだ。
エドワードが国家錬金術師の資格を取得した12歳から、今日に至るまで
ロイがエドワードを叱った回数は数知れない。
恋人としての立場を得てからは、余計に心配事も多くなって
ここ最近は、エドワードが旅から帰る度に、何かしらお説教のひとつもしていたように思う。
そして、その中でもエドワードがこんなにしおらしい態度を取ったことなど一度もない。

しかし、現にロイの目の前に立っているのはエドワード本人。
しゅん・・・と頭を垂れて、小さな身体をヒクヒクと震わせながら
時折零れ落ちる大粒の涙を、小さな掌で拭っている。

「ゴメ・・・ナサィ・・・」

ぐしぐしと泣きながら合間に小さな声でポツリと呟く。
さすがにロイも、これでは叱るに叱れない。
ロイは、どうしたものかと思案しながらも

「鋼の・・・反省しているならそれでいい」

と、優しく告げるに至った。
何だかんだと言いながらも、結局ロイは、この小さな恋人にめっぽう弱く、甘いのだ。

「あまり泣くんじゃないよ。
 腫れた目をしていては、アルフォンス君も心配するだろう?」

言いながら、ロイは指の腹でそっとエドワードの瞳から零れる涙を拭ってやる。

「ふぇ・・・・・・」

「ほら、おいで」

珍しく甘えモードのエドワードを、ロイはそっと抱き上げると
そのまま自分の膝の上に向かい合うようにストンと身体を落としてやる。

「私は君の働きをちゃんと評価しているつもりだが
 それでも満足できないと言うなら、次の機会にでも
 君自身が満足できるように頑張りたまえ」

ポンッと軽くエドワードの頭を撫でてやると、エドワードはロイの胸に顔を埋めながら
小さくコクンと頷いた。





泣くほど反省しているのなら・・・ということで少々のお説教のみで済ませた、先日の一件。
しかし、これがそもそもの間違いだったのだ。
子供は、泣いてしおらしい態度を取れば無罪放免になると、悪い方向へ学習したらしく
その後も叱りつけようと執務室に呼び出せば、泣いて許しを請うようになってしまった。

本当に反省していればそれで構わないのだが、ロイに回ってくるエドワードに関する報告を
見ている限りでは、問題を起こす回数は増えることはあっても、減ることはない。
要は、全く反省していないのと同じだ。

「反省していると泣く割に、行動には表れんのだよなぁ・・・」

ロイは送られてきた報告書を見ながら、一人きりの執務室で大きくため息を吐く。
もうすぐエドワードは旅先から一旦東部へ帰って来る。
いつも持っている荷物と一緒に、始末書も抱えて。

エドワードに怪我もなく、無事に帰って来ることは、ロイにとって一番嬉しいこと。
旅先で何かをやらかす度に、上官であるロイの元へと各地の司令部から報告が回ってくるが
事務的なことばかりで、肝心のエドワードの様子については書かれていないことが多い。
彼から「これから東部へ行くから」と元気な声で電話があるまでは
怪我でもしているのではないかと、ロイは気が気ではないのだ。

だから、恋人が無事に帰って来ることはとても喜ばしい。
だが、反面、今回は気が重たくもある。
今までは甘く許してきたけれど、それが何度となく繰り返されているようでは意味が無いのだ。

(あまり厳しくしたくはないのだがな・・・・・・)

恋人にはいつだって優しく甘い男でいたいもの。
けれど、エドワードは恋人兼、自分が監督すべき子供なのだ。
保護者として、上司として、今回ばかりはただ優しく甘いだけの恋人として接することは出来ない。

「はぁ・・・・・・・・・」

ロイはもう一度重たいため息を吐くと同時に、立ち上がった。
今から向かう会議が終わる頃には、エドワードも東部へ到着しているだろう。
会議の最中、ロイの頭の中は問題児な恋人のことでいっぱいになるのは間違いなかった。





「アル、早く早く!」

小さな身体を飛び跳ねるように揺らしながら、エドワードは駅のホームを
大股で歩いていく。

「ちょっ・・・ちょっと兄さん!そんなに急がなくても文献は逃げないってば」

ロイから資料室に新しい文献が入ったと連絡をもらった二人は
今回の旅先でも大した収穫もなく、報告書を持って来いと
催促されたこともあって、2ヶ月ぶりに東部へと帰ってきた。

「ホントに兄さんはせっかちなんだから・・・」

いかにも文献が早く読みたくて仕方がないといった感じのエドワードを
アルフォンスは少々の文句を言いながら追いかける。

「それにしても・・・・・・珍しいよね」

ようやくエドワードに追いついたアルフォンスが、隣を歩く兄に尋ねた。

「んー?何が?」

「だって、いつもだったら報告書を持って行く時って、兄さんすごく嫌そうじゃない」

それもそのはず。
エドワードの報告書には必ずと言っていいほど、始末書も付いてくるから
報告すること=自分の旅先でやらかした悪事をばらすこと、になる。
つまりは、報告しに行く度に、エドワードはロイからお説教のひとつも言われる羽目になるのだ。
お説教だけで済めばまだ良いのだが、始末書の内容によっては
お尻に痛いお仕置きをされることもあるのだから、エドワードからすればたまらない。

「それなのに、最近大佐からの催促にやけに素直に応じるし・・・
 それに、今日も何だか楽しそうだし」

「そりゃぁ、新しい文献が入ったって大佐、言ってたしさ」

いつもならロイから散々催促されてようやく重い腰を上げるエドワードだから
アルフォンスとしても、文献だけが理由だとも思えない。

「今回も報告書の他に、始末書があるんでしょ?
 いつもだったら絶対行きたがらないパターンじゃない」

アルフォンスが更に突っ込んで尋ねてみると

「ま、対大佐用必殺技を開発したからな」

エドワードはニヤリと笑った。

「今回も適当に必殺技かまして、さっさと文献読みに行くかー」

ウキウキと資料室に入ったという文献に思いをはせるエドワードだが
それとは反対に、隣を歩くアルフォンスは思う。

(どんな必殺技だか知らないけど・・・大佐にはきっとバレてると思うけどなぁ・・・)

戦略家なロイが、軽い嘘もろくにつけないエドワードの必殺技とやらに
まんまと引っ掛かっているとも思えない。
しかし、エドワードはそんなことを微塵も感じてはいないようだ。

「兄さん、必殺技は、いざって時に出すから必殺技なんだよ」

兄思いの弟は、一応の忠告だけはしてやったのだが
当の本人は不思議そうな顔で弟を見上げ

「だーいじょうぶだって!オレの必殺技は効果抜群なんだから!」

あっけらかんと笑った。





会議から帰ったロイが椅子に座ると同時に、コンコンとノックの音がした。
「開いているよ」とロイが応えるよりも先に、元気な声が飛び込んでくる。

「大佐、いる〜?」

ロイの返事も待たずに飛び込んでくる無作法者など、限られている。
案の定、ドアから顔を覗かせたのは、金髪金目のロイの恋人・エドワードであった。

「あのさ、資料室に新しい文献入ったってホント!?」

パタパタと小さな足音を立てながら、エドワードはロイの元へと駆けて来る。

「あぁ・・・それは本当だ。
 だが鋼の、それよりも先に何か報告すべきことがあるのではないのかね?」

「う・・・・・・・・・」

今回、ロイが報告を受けているのは、エドワードが立ち入り禁止になっている研究所に
無許可で勝手に出入りしたというもの。
それだけなら大した問題でもないのだが、実はその廃屋同然の研究所が
強盗団のアジトになっていて、そこでひと騒動あったのだ。
エドワードとしては、研究所に残されているかもしれない実験記録が目当てだったのだが
強盗団の方は、そんなエドワードの目的など知るはずもない。
結局、アジトが知られたと大騒ぎになった強盗団と一戦やりあう羽目になり
廃屋同然だった研究所はエドワードの錬金術によって崩壊し、本当の廃屋になってしまったのだ。

「えっと・・・・・・」

ジロリとロイに睨まれたエドワードは言葉に詰まってしまう。

「立ち入り禁止区域に無許可で出入りしたと聞いているが?」

「その・・・それは・・・えっと・・・」

執務室へ入ってきた時の声とは一転して、エドワードの声はトーンダウンしてしまっている。

「その・・・・・・大佐・・・・・・・・・ゴメンナサィ」

随分と小さく縮こまった声で呟いて、しゅんと下を向くエドワードを見ながら
ロイはひとつ深呼吸をした。

「・・・鋼の」

「・・・・・・・・・?」

「おいで」

ロイは短く告げると同時に、エドワードの腕を引くと、そのまま自身の膝にグッと引き倒した。

「えっ・・・!?」

エドワードが驚いた声を上げている間に、ロイはエドワードをガッチリと
膝の上に固定してしまう。

「えっ・・・なっ、なんでっ!?」

いつもなら無罪放免になるはずなのにどうして、と戸惑いがちにエドワードはロイを見上げる。
この姿勢は間違いなく、エドワードの大嫌いな痛い痛いお仕置きの格好なのだから。

「ちょ、ちょっと待って!」

カチャカチャとベルトに手をかけ、いとも簡単にするりと下着ごとズボンを脱がすロイに
エドワードは両手をパタパタさせて小さな抵抗をしながら、慌てて声を出した。

「何だね?」

「だってっ・・・オレ、ちゃんと反省して・・・」

ぐすんと瞳に涙の粒を光らせながら、エドワードはロイを見上げるが

「反省しているなら、大人しく罰を受けられるだろう?」

ロイから返ってきたのは、いつになく冷たい声。

(なんでっ!?今まで効果絶大だったのに!!)

困惑しながらも膝の上でジタバタと暴れるエドワードに

「あまり恋人を舐めるものではないよ、鋼の」

ロイは小さく呟いて、大きな掌をまだ真っ白なエドワードのお尻に振り下ろした。





バチンッ!!バチンッ!!パァンッ!!

「やっ・・・・・・やぁっ・・・・・・いたぁぃ!」

パァンッ!!バチンッ!!バチンッ!!

「やだぁっ・・・・・・いたぃぃ・・・・・・ふぇ・・・やぁっ・・・」

パァンッ!!パァンッ!!バチンッ!!

「やぁぁっ・・・・・・も、やだぁっ・・・・・・わあぁんっ!」

透き通るほど真っ白だったお尻に、何度も何度もロイの大きな手が降って来て
その度に、エドワードはビクンッと背を仰け反らせながら、ロイの膝の上で悲鳴を上げた。
当然ながら何度もぶたれてお尻は桃色を通り越して、もう真っ赤。
じんじんと熱く、痛みが引く間もなく引っ叩かれるものだから、エドワードの目からは
ボロボロと大粒の涙が際限なく溢れ出てくる。

「ひぅっ・・・・・・も、やだぁぁ・・・・・・たいさぁっ!!」

けれど、泣きながら名前を呼んでも、ロイは決してエドワードに応えてはくれなかった。
規則的に、一定のリズムでエドワードのお尻に赤い痕を付けるだけで
力を緩めることすらしてくれない。

「ふぇぇ・・・・・・いたぃぃっ・・・・・・も、やだぁっ」

今、この部屋に響いているのは、エドワードの泣き喚く声と肌を打つ乾いた音だけ。
いつもならお説教のひとつもするはずのロイが、何も言ってくれない。

「ふぇ・・・たいさぁ・・・」

ぐすぐすと泣きじゃくりながらロイを見上げて名前を呼んでも
降って来るのは、痛い痛い平手だけ。

「ひぐっ・・・ふぇ・・・・・・ねぇってばぁっ」

いつもは口うるさくお説教をするロイが何も言わないのは、相当怒っている証拠。
エドワードが望むような甘い時間は、まだまだやってきそうになかった。

バチンバチンと、いつまでも一定の間隔で与えられる痛みに
とうとう耐え切れなくなったエドワードは渾身の力を振り絞って、手足を大きくバタつかせた。

「ふぇぇっ・・・も・・・も、やだぁーッ!!」

ジタバタと身体ごと左右に振るように暴れ、ロイの膝から逃げようとする。

「・・・こら、鋼の」

ようやくロイの声が聞こえたけれど、今はそれどころではない。
真っ赤に腫れ上がったお尻には、もうこれ以上の痛みは耐えられそうもなかった。
エドワードはなおも暴れながら膝からずり落ちるような形で、ペタリと床に座り込んだ。

「ふぇぇぇっ・・・・・・いたぁぃ・・・ぐすっ・・・」

床に座り込んだエドワードが俯いてグスグス泣きじゃくっていると
急にロイの大きな手に顎を掴まれ、ぐいっと顔を上げさせられた。

「・・・ッ!?」

つられて上半身も浮き上がり、エドワードは椅子に座ったロイの前で
膝立ちしているような格好になる。

「・・・この涙は『本物』かな?」

ふっとロイが冷たい視線でエドワードを射抜く。

「ふぇ・・・・・・?」

「最近、何処かの誰かさんは泣き真似が上手くてね。
 反省していると言っては、泣きながら許しを請うんだが
 その後の経過を見ている限り、全く反省は見受けられなくてね」

ロイの言葉を聞きながら、エドワードはみるみる青ざめる。

「最近はそんな誰かさんのおかげで、涙が本物かどうか判別出来ずに困っているのだよ」

エドワードが対ロイ用の必殺技だとアルフォンスにうそぶいていたのは
何を隠そう『泣きながら反省したフリをすること』だったのだ。
ロイは何処かの誰かさんだなんて勿体つけた言い方をしているが
それは明らかにエドワードを指している。
もう、何もかもロイにはバレてしまっているらしい。

「さて・・・この涙は『本物』か、それとも・・・」

「ほっ・・・ほんものだもんっ!!」

ボロボロと大粒の涙を零しながら、これ以上お尻をぶたれてはたまらないと
エドワードは慌てて必死に主張する。
情けない顔で見上げてくるエドワードに、ロイはニッコリと笑ってやると

「・・・・・・偽物だな」

言うが早いか、ロイはエドワードの首根っこを掴むと
ぐっと引き上げ、自身の膝の上に押さえつけた。

「やっ・・・やだやだっ!!やだぁぁーっ!!」

途端にエドワードから絶叫がこだまする。

「も、やだぁっ・・・ほんものだもんっ・・・」

ロイの手が、ポンポンとエドワードのお尻を撫でる。

「ちゃんとはんせ・・・したもんっ・・・」

その手がいつ振り下ろされるのかと考えると、エドワードは気が気ではない。
お尻はすっかり腫れ上がって、もう万遍なく真っ赤。
今でも痛くて痛くて泣きじゃくっているのに、これ以上お仕置きされるだなんて
恐ろしすぎて考えられない。
エドワードは必死にロイに訴えながら、ジタバタともがいた。

パァァンッ!!

「ひぅっ!!」

ポンポンと優しくお尻を撫でていた手がふいに離れたと思ったら
今度は勢い良く飛んできた。
甲高い音が鳴ったと同時に、エドワードからも悲鳴が上がる。

ロイの大きな手は、エドワードのお尻にひとつ、赤い痕を付けると
それを癒すように、またポンポンと優しく撫でる動作に戻った。

「ふぇぇっ・・・も・・・むりぃっ・・・たいさぁ・・・」

いつまた振り下ろされるかわからない平手にビクビクと怯えながら
エドワードは涙でぐしゃぐしゃの顔で、ロイを見上げる。
自分に苦痛を与えるのがこの男なら、許して甘い時間を与えるのもこの男。
結局エドワードは、ロイに縋るしかないのだ。

「ひっく・・・・・・ふぇぇ・・・ごめんなさいぃ・・・」

ヒクヒクとしゃくりあげながら、それでも必死に告げたその一言を聞いたロイは
満足げに微笑むと、そっとエドワードを抱き起こした。

「ようやく『本物』の謝罪が聞けたな」

言いながらロイは、エドワードの頭をそっと撫でてやる。

「ぐすっ・・・なみだも・・・ほんものだもん・・・」

散々引っ叩かれて真っ赤になったお尻を擦りながら
エドワードは小さく頬を膨らませる。
最初でこそ当初の予定の『泣きながら反省したフリをする』作戦を
実行するつもりだったけれど、膝の上に乗せられてお仕置きが始まった時点で
ぶたれたお尻が痛くて痛くて、そんなことを考える余裕もなくなってしまっていた。

「ほんものだったのに・・・ぐすっ・・・」

お仕置きが終わってもまだ涙を溢れさせるエドワードの瞳に
ロイはチュッと軽く口づけた。

「あぁ、どうやらこの涙は『本物』らしいね」

涙の味を確かめて、しょっぱいと言いながらクスクスと笑う。

「だからほんものだって・・・ひっく・・・いったのにぃっ・・・」

いつもより厳しくお仕置きされて、幼い恋人は拗ねてしまったらしい。
普段ならそろそろ、ぎゅっとロイの胸に甘えるように擦り付いてくるのだが
今日はぷいっとそっぽを向いてしまった。

「おやおや・・・元はと言えば、君が似合わない泣き真似なんて小狡いことをしたからだろう?
 最初でこそ何か悪いものでも食べたかと心配したが・・・らしくないことはすべきではないね」

ロイも確かに今回はいつもよりも厳しくしたという自覚はあるが、それもそのはず。
今回の一回でキッチリわからせておかないと、この賢い子供は
こちらが甘い対応しか出来ないのを見抜いてまた同じようなことをしかねない。

「うー・・・・・・らしくないってなんだよ・・・」

「鋼の、私はね・・・君が君だから好きなのだよ」

「・・・・・・ぅ?」

「いつも元気で奔放な方が、鋼のらしくて良いと言っているんだよ。
 君は泣きながらしおらしく反省するタマじゃないだろう?」

「・・・・・・なにそれ」

ぷぅっと小さく頬を膨らませていたエドワードの顔に
そっとロイの指が引っ掛けられる。

「褒めているんだよ」

ロイは、クスクス笑いながら、拗ねた顔した幼い恋人を引き寄せると
そっと静かに口づけた。





「そういえば・・・一体、誰からの入れ知恵だね?」

「何が?」

「泣き真似だよ。
 君がそういった小技を知っているとも思えんしな」

「うっ・・・オレだって小技くらい・・・!!」

「で?誰に教わってきたんだね?」

「うぅっ・・・・・・こないだ・・・セントラルに行った時に・・・
 ヒューズ中佐が『男は恋人に涙に弱い』って言って・・・」

「・・・・・・またアイツか」



後日、東方司令部からセントラルの軍法会議所へ
厄介な書類の山が送られて来たとか、来ないとか。