ぷちらば


05.天使の卵

ある晴れた日の昼下がり。
ロイはいつもの執務室で、ぼんやりと外を眺めていた。
ぽかぽかと暖かな太陽の光が窓からいっぱいに差し込んでくる。

本日分の書類は全て処理済。
ここ最近の東部は、テロなどの大きな事件など全くなく平和そのもの。
この穏やかな時間が永久に続けば良いのに・・・なんて思っても
そこはやはり神様は意地悪で。

静かな執務室へと続く廊下を走るガチャガチャという重たい金属音。
ロイの今までの経験から察するに、これは間違いなくトラブルの前兆だ。
猛烈な勢いで走ってきたらしい人物だが、礼儀をわきまえているので
乱暴に扉が開かれることはない。
コンコンとノックを2回。
ロイが返事をすると、ひょっこりと顔を覗かせたのは、やはり思った通りの人物だった。

「やぁ、アルフォンス君。どうしたんだい?」

ロイが問えば、アルフォンスは普段冷静な彼にしては珍しく取り乱した様子で言う。

「あ・・・あのっ・・・兄さんが・・・ッ!!」

「鋼のが・・・?」





「これはまた・・・ひどい有様だな・・・」

珍しく取り乱した様子のアルフォンスに連れられてやってきたのは、東部の片田舎にある病院。
その一室で、ロイはベッドに横たわる人物を見つめて顔を引きつらせた。

柔らかい金糸の髪がキラキラと輝くのはいつもの通り。
けれど、今ベッドで寝ている人物の頬は、何かを含んでいるかのように
ぷくっと丸く腫れ上がって真っ赤になってしまっている。
おまけに頬が腫れて圧迫されるのか、唇は妙に突き出したような状態で
その姿は、まるでゆでタコ。
今までエドワードの色んな姿を見てきたロイは、今更動揺することもないけれど
付き合いたてのカップルなら、百年の恋も冷めるだろう。

眠りながらも、ゼィゼィと苦しそうに呼吸するエドワードの額をそっと撫でてやると
驚くほど高熱になっていた。

「これは・・・風邪か何かではないのかね?」

「それが・・・違うらしいんです・・・」

確かにロイの言うように症状は似ている。
けれど、ただの風邪にしろ、おたふく風邪にしろ、ここまで頬が大きく腫れ上がることはないし
意識が混濁するほどの高熱も出ない。
更にエドワードの身体をよくよく見てみると、いつもは透き通るように白い肌も
今は妙な赤みを帯びていた。

「お医者さんにも、よくわからないみたいで・・・・・・」

アルフォンスは、言いながら不安そうにエドワードを見つめる。

「兄さん・・・・・・」

エドワードは相変わらず苦しそうに息をするばかりで、アルフォンスの声には全く反応しない。

「とにかく・・・原因がわからなくては、手立てのしようもない。
 君達が、この村にやってきたところから話してくれないか」

かなり田舎の農村とはいえ、一応は東方司令部の管轄内である。
エドワードの恋人という立場として、何とかしてやりたいとも思うが
それ以前に東部を管轄する者として、新種の病気であるならば、そのまま放ってはおけない。

「大佐・・・・・・ありがとうございます。
 僕・・・もう、どうしていいかわからなくなっちゃって・・・」

二人きりの兄弟だけに、一人取り残されると余計に不安になるのだろう。
アルフォンスの鎧姿が、今は不安げに小さく見えた。

「大丈夫だ。原因さえわかれば、すぐに治る。
 鋼のは、頑丈だけが取柄だろう?」

ロイがそう軽口を叩いて笑ってやると

「・・・そ・・・そうですよね!
 兄さん、とにかく身体だけは頑丈だから・・・」

アルフォンスも頷きながら、軽く笑った。





エドワードとアルフォンスが、この村に着いたのは昨日のこと。
その時、村では作物の収穫を祝うお祭の真っ最中であった。

「へぇ・・・お祭なんて久しぶりだね、兄さん」

「最後に行ったのって・・・確かセントラルの仮装カーニバルだったっけ?」

村のあちこちに装飾が施され、村人達も忙しそうに走り回っている。
聞くところによれば、収穫祭はこの村でも一番大きな行事だとか。
よくよく見てみれば、観光目的らしい旅行者の姿もよく見かける。

「何だかお祭ってだけでワクワクするよね」

周りがそうだと自然と自分の気分も盛り上がってくる。
アルフォンスがキョロキョロと楽しそうに色々な屋台に目をやりながら言うと

「だよなー」

なんて言いながらエドワードも物珍しげにあちこちを見回していた。

「・・・ねぇ、兄さん」

「・・・なぁ、アル」

「今日ぐらい・・・いいよね?」

「今日ぐらい・・・いいよな?」

辺りをキョロキョロと見回していた二人が、お互いを呼び合って顔を合わせた瞬間
二人とも、ニッと笑って声を重ねる。

「「折角だからお祭を楽しもう!!」」

いつもは賢者の石の情報を求めて、アメストリスの国中を飛び回っている二人。
今日だって、本当はこの村に伝わるという伝承が賢者の石に関係があるのでは・・・
と睨んで、ここまでやって来た。
けれど、今はお祭騒ぎで浮かれているから、村人からろくに話も聞けそうにない。
それに、旅ばかりの生活にも少し疲れていた。
ならば、ここで少し休んでも問題はない。
それに、元々エドワードもアルフォンスもお祭の類は大好きだった。

そうと決まれば、二人の行動は早い。
色んなところを見て廻って、出し物を見たり、屋台で遊んだり
少し買い食いしてみたり・・・二人でお祭の雰囲気に酔いしれた。

村中を見て廻って、宿に入った二人は、ざわざわと賑わう食堂で
遅めの夕食にありついた。

「やっぱりお祭って楽しいよね〜」

アルフォンスは出店の景品で貰ったキーホルダーをくるくると掌で弄びながら
ニコニコと上機嫌だ。

「出店とか屋台もいっぱい出てるしなー。
 花火見たのも何年ぶりだか・・・」

先ほど河岸近くの広場で行われていた花火を思い出しながら
エドワードは運ばれてきた食事に手をつける。

リゼンブールでは、お祭なんてほとんどなかった。
だから、エドワードが国家錬金術師の資格を取ってから二人で各地を廻って
その土地その土地のお祭の規模や派手さには驚かされると同時に
その楽しさに魅了された。

「はいよ、デザートお待ちどうさま!」

ほんわかとお祭の余韻に浸っている二人の間から、にゅっと手が伸びてきて
ドンッと元気よくテーブルに大きなサラダボウルが載せられる。

「おわっ!?何コレ!?」

その姿を見るや、エドワードは思わず声を漏らしていた。

サラダボウルに盛られている実の大きさはさることながら
問題は、その色と形である。
大きさはまるでスイカのように大きく、けれど形は涙型と言うのか
まるで大きな卵のようで。
そして、その大きな卵のような物体の色は、上から下へと綺麗な
ピンク色のグラデーションになっていた。
こんなもの、今まで各地を旅してきたエドワードもアルフォンスも見たことがなかった。

「おばさん・・・これって何なんですか?」

興味津々でその物体を眺めるエドワードに代わって
アルフォンスがそれを運んでくれた中年女性に声を掛けた。

「おや、それが目的で収穫祭に来たんじゃないのかい?」

観光客のほとんどがそれを目当てで来てるんだ、と説明してくれたおばさんは
サラダボウルに盛られたその物体にナイフを入れて、二つに割った。

「これは、エンジェルエッグと言ってね。
 この村で何年もかけて品種改良を繰り返して出来た、最高のフルーツだよ。
 今年、ようやく収穫できてね。だから今回の収穫祭は規模が大きいのさ」

言いながら、その二つをエドワードとアルフォンスのお皿に取り分けてくれる。

「すげー・・・ホントに卵みたいだ・・・」

皮はピンク色なのに対し、中身は真ん中が黄色く、その周りの部分は真っ白。
まさしく卵の黄身と白身のようであった。
じっと見つめるエドワードの鼻に、ふわっと甘い香りが漂う。

「黄色い部分は蜜だから、甘くて美味しいよ」

そう説明してくれると、おばさんは忙しそうにキッチンへと帰って行った。

「兄さん・・・こんなの初めて見るね」

「今年、この村で初めて収穫されたんだもんな。
 セントラルでも見たことねぇし、ここに来てラッキーだったかも」

二人してお皿を見つめて、妙にワクワクしていた。

「兄さん、早く食べてみてよ」

アルフォンスにせかされて、エドワードはスプーンで
その実をそっと掬って口に運ぶ。

食べた瞬間、ふわっと口中に爽やかな甘い香りが広がって
舌に乗せた実は、アイスクリームのように溶けてなくなった。

「うまーいっ!!」

初めて味わう甘みと食感にエドワードは素直に感動し
このフルーツをいたく気に入って、食べられないアルフォンスの分まで合わせて
結局、スイカ大のエンジェルエッグをまるまる一個食べきった。





「うーん・・・・・・」

ロイは一時、東方司令部へと戻り、頭を悩ませていた。
部下達を村に調査へ向かわせ、情報を得ていたのだが
その情報が集まれば集まるほど、ロイが頭を悩ませる結果になったのである。

ロイは、アルフォンスから昨日の一部始終について話を聞いていた。
そこからまず思い描いた原因は、あの村の特産品になろうかというエンジェルエッグという
新種のフルーツによる食中毒である。

だが、そのフルーツを食べた人間が、必ずしもエドワードのような
状態になっているかといえば、そうではない。
それに、食中毒の場合、体力のないお年寄りや子供が多いのだが
今回はそれも全く当てはまらなかった。
お年寄りには似たような症状が現れている者も何人かいたが
子供の場合は全くなかった。
一番若くてもエドワードくらいの年齢だったし、この症状が現れている者は
今回に限り、何故か体力のあるはずの大人に多い。

「大佐、研究所からの分析結果が届きました」

悩んでいたロイのところへ、ホークアイが書類を持って現れた。
食中毒の可能性を睨んだロイは、検査機関にエンジェルエッグの分析調査を依頼していたのだ。

ホークアイが持ってきた資料に早速目を通したロイは

「はぁ・・・・・・・・・」

大きくため息を吐く。

「・・・どうやら食中毒ではないようですね」

ロイがデスクに広げた資料を見たホークアイも
困ったように眉をひそめる。

検査の結果、エンジェルエッグ自体の毒性は認められず
食中毒の可能性は極めて低いことが判明した。
つまり、ロイの仮説は全くはずれていたことになる。

「何なんだ一体・・・・・・」

「あの村の水質も調べましたが、特に問題も有りませんでしたし・・・
 新しい流行病でしょうか・・・」

「しかし・・・地元民だけでなく、あの村を訪れたばかりの観光客まで
 発病しているんだ。いくらなんでも発病までが早すぎる・・・」

調査に行き詰ってしまったロイは、深くため息を吐いた。

アルフォンスに連れられて、ロイがあの農村を訪れてから半日。
時刻は夕方に迫っていた。
本来なら就業時間なのだが、今日はそんなことは言っていられない。

「どういうことなんだ、一体・・・」

ロイは頭を悩ませながらも、ホークアイが持ってきた書類に目をもう一度目を通す。
と、そこへ今度は農村へ派遣したはずのハボックが帰ってきた。

「あの〜・・・大佐・・・」

だが、何故かハボックはバツが悪そうに苦笑いしている。

「何だ、どうした?」

訝しげにハボックを見やるロイに

「それがですね・・・・・・」

ハボックはいまいち歯切れが悪い。

「報告ならさっさとせんか」

「はぁ・・・それが・・・あの村の流行病なんですが・・・治ったみたいッスよ?」

「・・・・・・はぁっ!?」





「・・・ぅ・・・ん・・・・・・」

トロンとした目を擦りながらエドワードが目を覚ましたのは
もう陽もどっぷりと浸かった、午後8時。
辺りが真っ暗で最初はよくわからなかったが、鼻につく独特な薬品の匂いで
おそらくは病院の一室であることだけは推測できた。

「あれ・・・オレ・・・なんで病院なんかにいるんだ・・・??」

熱にうなされていたエドワードは、自身に起こっていた事態について何も覚えていなかった。
エドワードの最後の記憶は、あの食堂で食事をしていた時で止まっている。

わけがわからないまま、とりあえずベッドから身体を起こしてみるが
何故か妙に頭が重いし、身体もだるい。
何かがおかしいと思いながらも、起き上がろうとした瞬間
パチッと小さな音がして、部屋に明かりが灯った。
驚いて周囲をキョロキョロと見渡せば、部屋の入り口にはロイが立っていた。

「た・・・大佐ッ!?」

「ようやくお目覚めかね、鋼の?」

ロイはツカツカとベッドに歩み寄ると、そのまま腰を下ろした。

「な・・・なんで大佐がいんの!?」

事態を全く把握していないエドワードは、ロイの出現に驚きを隠せない。

「仕事は?こんなとこで油売ってる場合じゃないんじゃないの?」

東方司令部の指揮官であるロイがこんなところに現れるはずがない。
矢継ぎ早に質問を続けるエドワードに、ロイはニッコリと笑ってやる。

「私がここにいる理由かね・・・?」

「そーだよ、まさかサボりじゃねーだろーな」

「私がここにいるのはね・・・」

言いながらロイはエドワードの腕をぐいっと自身の傍へ引き寄せる。

「おわぁっ!?」

引き寄せられた勢いで膝の上に倒れこんできたエドワードの耳に
ロイはそっと耳打ちをする。

「君をお仕置きするためだよ」

「・・・・・・へ?」

言われた意味がわからず、振り返ってロイを見上げようとするエドワードの頭を
ぐいっと押さえて腰を高く上げさせると、ロイはそのまま一気に下着ごとパジャマを膝まで下げた。

「え・・・ちょっ・・・なにすんだよッ!?」

ようやくロイがしようとしていることがわかったエドワードが抵抗するよりも先に

バチンッ!!バチィンッ!!

「ひっ・・・ひたぁっ!!」

剥き出しになった真っ白なお尻に、手痛い平手が降ってきた。

パァンッ!!バチンッ!!バチンッ!!

「ひぅっ・・・いたっ・・・や・・・なんで・・・っ!?」

目覚めたばかりのエドワードは、何故自分がこんなことをされているのかわからない。
けれど、降ってくる平手がいつもよりも断然厳しいことから、自分が
ロイを怒らせるようなことをしたのだけは確かだと知れる。

「いたぁっ・・・やっ・・・たいさ・・・ねぇってばぁっ!!」

ロイが怒っていることはわかっても、何故怒っているのかその原因まではわからない。
エドワードは首を捻ってロイを見上げようとするのだけれど
膝に押さえつけられている状態では、なかなかうまくいかない。
そうして膝の上でモゾモゾと動くたびに、ピシャリとお尻にはお咎めが飛んでくる。

パァンッ!!バチンッ!!バチンッ!!

「いたぁっ・・・やぁっ・・・いっ・・・」

バチンッ!!バチィンッ!!バチィンッ!!

「ひぅっ・・・いっ・・・いたぃぃ・・・」

何も答えてくれないロイは怖いし、お尻に与えられる平手はとにかく痛い。
エドワードが必死にジタバタと暴れても、ロイはエドワードをぐっと力強く抱え直しては
暴れた罰だと言わんばかりに、容赦なくお尻に赤い跡をつけた。

抵抗すれば抵抗するだけお尻に痛い罰を与えられる。
そう頭ではちゃんとわかっているのだけれど、じんじんと痺れるように痛いお尻に
勢い良く平手が飛んでくると、やっぱりどうしても身体は反応してしまう。

バチィンッ!!パァンッ!!パァンッ!!

「やぁっ・・・ひくっ・・・いたっ・・・ふぇ・・・ふぇぇぇっ!!」

何度呼んでも答えてくれないロイは怖いし、真っ赤に腫れ上がったお尻は痛いしで
遂にエドワードはビィビィと泣き出した。
けれど、エドワードがボロボロと大粒の涙を零しても、ロイはまだ手を止めてはくれなかった。

「やぁぁっ・・・も、やだぁっ・・・うわぁぁんっ!!」

とうとう痛みに耐えられなくなったエドワードが、膝の上でジタバタと暴れ始めると

「こら」

ロイはピシャリとエドワードの太ももにまで赤い跡をつけた。

「ひぅっ・・・ふぇぇっ・・・ご・・・ごめ・・・なさ・・・」

じんじんと熱く痺れたお尻は、もう真っ赤に腫れ上がっていて
ポンと触れられるだけでも、飛び上がるほど痛い。
エドワードはもうなりふりなど構っていられないと、震える両掌でロイのズボンを
ぎゅっと握り締めて、顔を涙でグシャグシャにしながら、もう許してと合図する。

さすがにロイも膝の上で怯えて震えるエドワードを可哀想に思ったのか
お尻に振り下ろすはずの平手は止めてくれた。
けれど、まだ膝の上から解放してはもらえない。

「ふぇぇっ・・・ぐすっ・・・いたぁぃ・・・」

「鋼の、『何が』ごめんなさいなのか、言ってみたまえ」

それに声色もまだいつもよりもずっと低いまま。
エドワードはロイの言葉にビクッと身を震わせる。

『ごめんなさい』

その一言がちゃんと言えたなら、いつもロイはお仕置きを終わりにしてくれる。
痛くて怖くてつらい時間は終わって、その後は優しい顔と穏やかな声色で
エドワードを目一杯甘やかしてくれる時間。
けれど、今回は『ごめんなさい』が言えても、まだその時間は来そうにない。
エドワードは許してもらいたい一心で『ごめんなさい』と口にしただけで
自分が何故叱られているのか、本当は何もわかっていないのだから。

「ほら、言ってみたまえ」

そう言いながら、ロイはエドワードの頭をポンポンと撫でる。

「ふぇ・・・・・・ぐすっ・・・・・・」

けれど、こんなにもお尻が痛くなっても、ロイが何に怒っているのか
さっぱりわからないエドワードは、グスグスと鼻を鳴らしながら、黙り込むしかなかった。

「・・・鋼の、『ごめんなさい』は言えば良いというものではないぞ?」

「ひくっ・・・だって・・・・・・」

そう言われたって、エドワードは本当にわからないのだ。
どうしてロイがこんなに怒っているのかも、自分がこんな痛い目に遭わなくてはいけないのかも。

「ぐすっ・・・・・・でも・・・も、いたいんだも・・・ふぇぇっ・・・」

わけもわからず言った『ごめんなさい』だったけれど、お仕置きを終わりにして
ロイに許して欲しいという気持ちだけは偽りない本心で。
膝の上で再びボロボロと涙を零しながら泣き出したエドワードに、ロイは

「はぁ・・・・・・」

と、深くため息を吐く。

「まったく君は・・・・・・しょうがない子だな」

ロイは自分のズボンをぎゅっと握り締めていたエドワードの両手を
大きな掌で軽く解くと、そのままぐいっとエドワードの身体を抱き起こし
自分の前にトンっと立たせる。

「ぐすっ・・・・・・たいさ・・・も、おわり・・・?」

涙でグシャグシャになった顔ででも期待に満ちた目で見つめるエドワードだったが

「まだだ」

ロイの短い一言に、しゅん・・・と頭を垂れた。

「・・・鋼の、本当にどうして叱られているかわからないかね?」

「ひくっ・・・だって・・・おもいあたる・・・ことなんか・・・」

いつもなら膝から解放された後は、散々甘やかしてくれるロイが
今日はまだお仕置きを終わらせてくれる気配を見せないので
エドワードは多少拗ね気味に口を尖らせる。

「なら、どうして自分が病院にいるのかもわからないと?」

「ふぇ・・・?」

ロイに言われて、エドワードはそっと辺りを見回す。
よくよく思い返してみれば、ここは明らかに病院の一室。
けれど、自分は怪我をしたわけでもなければ、病気にかかっていた覚えもない。

「え・・・えっと・・・・・・」

「ヒントをあげようか。
 君が昨夜、宿で食べたこの村の特産物のフルーツなんだがね・・・」

「え・・・アレが原因・・・?」

あんなに色も形も綺麗で、味も美味しかったものが元凶だなんてとても思えず
エドワードはその言葉に、まじまじとロイを見返してしまった。

「直接・・・ではないんだが、ある成分と過剰に反応するようでね。
 一緒に摂取すると、体内で化学反応を起こして高熱が出ることが解ったんだよ」

ロイの口から出てくる言葉に、原因のわかってしまったエドワードの顔は
明らかにまずい・・・といった表情で沈んでいく。

「さて・・・一体、何と一緒に摂取すると喰い合わせが悪いのか・・・」

もうわかっているね?と、ロイはジロリと視線でエドワードを射抜く。

「う・・・・・・」

「ほら、原因を言ってみたまえ」

エドワードにもようやく事情は飲み込めたが
その原因を言えば余計に叱られるのは目に見えている。
言えるわけがないと、黙っていたエドワードだったが

「・・・鋼の」

ピシリと言い放たれた一層低くなったロイの声に
ビクッと大きく身を震わせる。

「あ・・・ぅ・・・そ・・・その・・・」

言いにくそうにモゴモゴと口篭っていたエドワードだったが
ロイにキッときつい視線で射抜かれて

「うぅ・・・・・・・・・お・・・お酒・・・?」

バツが悪そうに、ついに白状した。





昨日の宿で、エドワードのあまりにも威勢の良いエンジェルエッグの食べっぷりに
感心した地元の大人たちが、声を掛けてきた。
その時点でもう既に大人たちはかなり出来上がっていて
パクパクとよく食べるエドワードに、追加注文でエンジェルエッグをご馳走してくれた。
と同時に、そこはやはり酔っ払い。
「飲め飲め」とエドワードの酒を薦め、未成年だから・・・と断ったにも関わらず
「ジュースみたいなもんだから」だとか「15なんてもう大人だ」だとか
色々と興味を煽るようなことを言って、「じゃぁ・・・ちょっとだけ・・・」という言葉を
エドワードから引き出したのだ。

国家錬金術師の資格を持っているとはいえ、エドワードだって年頃の少年なわけで。
お酒に全く興味がなかったわけではなかったから
周りの大人たちに上手く乗せられた形になってしまったけれど
つい、手を伸ばしてしまった。

そうなったら、もう後の祭り。
全くお酒に免疫のなかったエドワードは、一杯も飲まないうちに
すっかり酔っ払い、周りの大人たちと一緒になって
わけもわからずガバガバと酒を煽ることになった。

結果、酔いつぶれた揚句に、エンジェルエッグとの喰い合わせが悪かった為
こうして病院に運ばれて、ロイの怒りを買う羽目になってしまったのである。





「さて、原因がわかったところで・・・鋼の、後ろを向いてごらん」

「へ・・・?うしろ・・・??」

ロイにそう言われて、くるりと後ろを向いたエドワードは
丁度ロイにお尻を向けている格好になる。

「・・・あの・・・たいさ・・・?」

ロイは、そわそわと不安げに振り返るエドワードの左腕を掴むと

「未成年のくせに酒なんて飲んで・・・」

バチンッ!!

「ひたぁっ!!」

真っ赤に染まっているお尻目掛けて、勢い良く右掌を振り下ろした。

「正体なくすまで酔っ払って・・・」

パァンッ!!

「いたぁっ!!」

「悪い子だ」

バチィンッ!!

「わぁぁんっ!!」

折角乾き始めていたのに、容赦なく引っ叩かれて
瞳からはまた大粒の涙が零れて、ボタボタと床を濡らしていく。

「ふぇぇぇっ・・・も・・・やぁぁっ・・・うわぁぁんっ!!」

立った姿勢のまま、お説教まじりに10ほどきつくぶたれて
エドワードは堪らず泣きじゃくる。
腰を引いたりして何とか痛みから逃れようとするのだけれど
左腕を掴まれているから、そう遠くへは逃げられないし
逃げ出せたとしても、後が怖い。
結局は、その場で小さく足踏みをするのが限度だった。

「ふえぇぇっ・・・ごめ・・・ぐすっ・・・なさ・・・ぃ」

嗚咽まじりの小さな声だったけれど、ロイにはしっかり聞こえたらしい。
くしゃっと頭をひと撫でされて、ふわりと身体が浮いた。

「よしよし、今日はよく我慢したね」

ストンと向かい合わせに座らされたロイの膝の上で
涙でグシャグシャになった顔を上げたら、額にふっと軽い口づけ。

許された。

その証のようで

「ふえぇぇっ・・・・・・」

エドワードは安堵から余計にポロポロと涙を零しながら
ぎゅっとロイにしがみついた。





痛くてつらいお仕置きの後は、穏やかで甘い時間。
グスグスといつまでも泣きじゃくるエドワードを、ロイは泣き止むまで
ぎゅっと抱きしめて、あやすようにそっと頭を撫でてくれた。
こうするのは、お仕置きしている時のような怖い顔をした保護者のロイではなく
恋人の顔をした彼であることをわかっているので、エドワードも素直に甘えられる。

「お尻痛い!」
「ここまですることないじゃんか!」
「大佐、ひどい!鬼!」

もうこれ以上ぶたれることはないだろうと、エドワードはロイに散々文句を言う。
そして、文句を言うだけ言って、ロイの腕の中で、くぅくぅと小さな寝息をたて始めた。

「こんな無防備な顔を簡単に晒すから、君から目を離せなくて困るんだ・・・」

エドワードからは気持ち良さそうな寝息。
ロイからは苦笑気味なため息。

もぞもぞと腕の中で寝返りをうつエドワードのお尻に軽くポンと
掌を当ててやると、夢の中でも痛むのか、う〜っと唸りながら眉をひそめた。
そんなエドワードを見ながらロイは

「いつか・・・君と酒を飲み交わせる日が来るのを楽しみにしているよ」

眠っているエドワードの額に軽く口づけた。





その後、エンジェルエッグは村の特産物として大いに有名になり
アメストリス国中の果物屋やレストランで姿を見せるようになった。
けれど、あの病院での出来事が尾を引いているのか
その後、エドワードがエンジェルエッグを口にすることはなかった。