ぷちらば


03.所有印

久しぶりの東部。
久しぶりの部屋。
そして、久しぶりの恋人。

ロイの小さな恋人は、二ヶ月ぶりに帰ってきたというのに
明日にはもう、自分の腕の中から離れていってしまうという。

エドワードだって、寂しくないわけではない。
いつまでも、優しい恋人の傍にいたいと思う。
けれど、自分には果たさなければならないことがある。

それをロイもよく理解しているから、旅立ちの日にはエドワードを
いつだって笑顔で送り出してやろうと決めている。

限られた二人の時間。
久しぶりの逢瀬の最後は・・・・・・。





「ん〜っ・・・・・・大佐、くすぐったぃ・・・」

ロイの寝室で、ダブルサイズのベッドの上に座っているエドワードは
ロイに髪を弄ばれて、くすぐったそうに身をよじる。

「んっ・・・ん・・・ふ・・・ぁっ・・・」

向かい側から、そっと顔を大きな手で包まれて、上を向けば
額から順番に、流れるようなキスの連続。

「ふぁっ・・・んんっ・・・ぁっ・・・」

ちゅっと軽く唇に触れたかと思うと、今度は激しく舌を絡め取られ
きつく吸われる。

「んっ・・・ふっ・・・ぁっ・・・」

エドワードの心臓が、ドキドキとうるさく存在を主張してくる。
身体が火照ってしょうがないエドワードが、熱っぽい瞳で見上げれば
ロイは、唇からまた流れるように身体中にキスを施していく。

「んっ・・・やぁっ・・・」

首筋を吸われて、思わず出る否定的な言葉。
けれど、本気じゃないのをお互いに良く知っている。

「ぁっ・・・ふ・・・ぁっ・・・」

小さく漏れる吐息に合わせるように、ロイはエドワードの服に手をかけていく。

「あ・・・ふ・・・ぁんっ・・・」

そっと上着を肩からはずされ、インナーに手が伸びると
エドワードはビクリと身を強張らせる。

「あっ・・・やだっ・・・やぁっ」

またしても口からは否定的な言葉。
けれど、ロイは気にしない様子で、そっと手を動かす。
エドワードは、ロイの動きに、これから先に起こることを思うと
何だか恥ずかしくて、ロイの顔をまともに見ていられなくなった。
そっとロイの首筋に両腕を回すと、そのままぎゅっと掴まって
ロイの肩口に自分の顔を埋めた。

徐々にインナーも捲くられて、エドワードの上肢が空気に触れる。
上半身全てが月光に照らされるより前に
ロイがふと何かに気づいた様子で手を止めた。

「ぅ・・・ん・・・・・・大佐・・・?」

じっとエドワードの右腕を見つめるロイを不思議に思って
エドワードは、ロイの首筋に抱きついていた両腕を軽く解いた。

「大佐・・・どうしたの?」

まさか、さっきの否定的な言葉がロイの機嫌を損ねてしまったのだろうかと
エドワードは少々不安になった。
この行為自体を否定するつもりではなく、ロイ自身を否定するつもりでもない。
けれど、自分の身体がロイの手によって触れられているのだと思うだけで
何だか恥ずかしくて、ひどくむずがゆい感覚に陥るのだ。
いわば、照れ隠しのような感覚で言ってしまう口癖のようなもので
エドワードは、決して本心から嫌がっているわけではない。

「・・・ねぇ・・・大佐・・・?」

先ほどからエドワードの呼びかけに応えてくれないロイが不安で
エドワードは、じっと自分の右腕を見つめていた恋人の顔を覗き込んだ。
すると、ロイは

「鋼の・・・この傷はどうした?」

未だエドワードの機械鎧からは視線を離さず、エドワードにそっと尋ねた。

「えっ・・・・・・」

瞬間、ギクリとする。

「二ヶ月前には、こんなところに傷なんてなかったじゃないか。
 旅先で・・・何をしたんだね?」

旅先で何か事件があったり、事件に巻き込まれたり
何かをやらかした際には、些細なことでも必ず報告すること。
これは、エドワードが長期の旅に出るのを快く許す代わりにと
ロイが出した交換条件。

そこには、国軍大佐としての思惑もないとは言えないのだけれど
本当のところは、エドワードが心配でたまらないのだ。
旅に行かせるのも、本当は危険だし、賛同しかねる部分もあって
本心では、自分の傍から離したくない考えなのだけれど
エドワードの性格や、彼の目的を考えると、行かせないわけにもいかない。
先程の交換条件は、少しでも気休めにでもなれば・・・と思ってロイが考えた
活発な恋人への苦肉の策。

「べっ・・・別に・・・何も・・・してないよ・・・?」

そういう交換条件を出してきたロイが、自分のことを心配してくれているのは
エドワードだってよくわかっていた。
けれど、実際に報告することと言えば・・・・・・
やれ、どこぞのチンピラと喧嘩しただの、街の建物を半壊させただの
立ち入り禁止区域に勝手に出入りしただの・・・・・・
決して褒められたものではなく、近況報告というよりは
自らの悪事をバラすことにしかならない。

ロイが心配してくれているのはよくわかる。
だからこそ、本当はこんな悪事のようなことしかしていなくても
正確に報告するべきなのだとも。
そうエドワードだって思っているけれど、本当にこんな近況報告を
ロイにしてしまって良いものだろうかと、いつもためらっては
結局は、何事もなかったとロイに伝えている。
大佐としてのロイに叱られることも嫌だったけれど
それ以上に、恋人としてのロイに、呆れられて嫌われてしまうのは
もっとずっと嫌だったから。

ロイは、時にエドワードを叱咤し、間違ったことをしようとすれば
自らの身をもってしてエドワードを止めてくれる。
逆にエドワードが道に迷えば、そっと道を指し示してくれたり
立ち止まっているエドワードの背を後ろから押してくれた。

いつだって、大きな腕を広げて、自分を確かに抱きしめてくれる存在。
決して失いたくないとすら思う、大切な人。
だから、エドワードは、ロイに嫌われてしまうのが何よりも怖かった。

そう思っているからこそ、エドワードはロイにいつも
何もなかったと近況報告をしている。
本当は些細なことでもきっちり報告することをロイは望んでいるのだと
頭ではちゃんと理解しているけれど、本当のことを言ってしまって
呆れて嫌われるよりは、言わない方が、まだマシのような気がして・・・。

「君はいつも何もなかったと言うが・・・・・・
 これは明らかに最近付いた傷だと思うがねぇ・・・?」

じと〜っとロイに睨まれて、エドワードはまたもギクリとする。

実は、東部に帰る3日ほど前に、街を我が物顔で闊歩する小悪党に絡まれて
チビだの、豆だの言われたものだから、アルフォンスの制止も聞かずに
いつものごとく錬金術で派手に喧嘩をやらかした。

アルフォンスが、しょうがないなぁ・・・と言いながら加勢してくれたけれど
小悪党は5人。
対してこちらは2人。
いくら二人が錬金術師だとしても、ナイフを持った大人の男集団に
無傷で戦えるわけもなく。
結果、エドワードの機械鎧には、ナイフで受けた傷がそのまま残ってしまった。

時々メンテナンスに帰るリゼンブールで、幼馴染の機械鎧技師に
この傷を見せてしまったら、絶対にスパナが飛んでくるからと思い
一応、錬金術で修理はしたのだけれど、同業者の国家錬金術師には
錬成痕まで見抜かれているらしい。

「鋼の、答えなさい」

先程までの甘い雰囲気はどこへやら、優しい恋人のロイは
すっかり上官兼後見人の国軍大佐の顔に変わっていた。

「べつに・・・何もなかったってば・・・」

目敏いロイのことだから、きっと全部ばれてしまっているのだろう。
けれど、それでもロイに嫌われるのが怖くて、エドワードは
必死に何事もなかったと平静を装った。

「君の嘘なんて、私には全てお見通しなんだよ?
 それでもまだ、何もなかったなんて言うつもりかね?」

「・・・・・・嘘なんて・・・ついて・・・なぃ・・・」

完全にバレてしまっているのはわかっている。
けれど、エドワードも引くに引けなくなっていた。

「本当に?」

「・・・・・・・・・・・・ホント・・・だもん・・・」

ギッと睨むように見つめてくるロイが怖くて、エドワードは下を向きながら
ボソボソと小さく言う。

「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

お互いに沈黙。
久しぶりに逢ったというのに、二人の間には妙に気まずい空気が流れる。





先に沈黙を破ったのは、ロイだった。

「・・・まったく君は・・・しょうがないな」

ロイはそう言うと、エドワードの身体から手を離し、自分は
その場で胡坐をかいた。

「おいで」

短くそうエドワードに告げると同時に、ぐいっとエドワードの腕を強く引く。

「えっ・・・!?」

エドワードが抵抗らしい抵抗をするよりも先に、ロイはエドワードを
胡坐をかいた自分の膝の上に腹ばいで寝かせた。
膝の上に乗せられたことを悟ったエドワードがジタバタと手足を動かし
必死にロイから逃れようとする。

エドワードは、以前にも何度かロイにこうされたことがあった。
ロイの言うことを聞かなかったり、危ないことばかりしたり・・・・・・
軍の支部からエドワードの後見人であるロイに連絡が行く時もあって
その時にも必ず、こうされた。
これから先に待っているのは、長い長い恐怖の時間と
泣いてしまうくらいの痛い痛い罰。

罰とは、ロイの膝の上で子供のようにお尻をぶたれること。
本来は、お尻をぶつなんて、子供にするようなお仕置きであって
15歳になったエドワードとしては、そういう行為をされること自体
とても恥ずかしい。
そして恥ずかしい以上に、本当に痛い。
鍛え上げられた軍人の腕で、何度も何度も嫌というほどお尻のほっぺたを
真っ赤になるまできつくぶたれる。
逃げようとすれば、容赦なく更にきつい平手が飛んできて
余計に泣かされる羽目になるのもいつものことで。

エドワードは、恥ずかしいし、痛いしで、このお仕置きがとにかく嫌で
いつもそうされそうな雰囲気になると、必ずと言って良いほど逃げた。
まぁ、そのまま上手く逃げ出せたことなど一度もなくて
結局は、逃げた罰だと、何回か余計にぶたれて
大泣きさせられてしまうのだけれど。
でも、それでも痛いのがわかっているのだから、逃げたくもなるのが
人間心理というものである。

「やだぁっ!!何もなかったって言ってるじゃんかぁっ!!」

ジタバタと暴れながら、エドワードは猛烈に抗議する。
だが、ロイは

「君の嘘なんて、全部お見通しだと言っただろう?」

そう言って、エドワードの言い分など聞きもしないで
ぐいっとエドワードのズボンを下着ごと膝まで下げてしまった。

「やだぁーッ!!大佐のバカーッ!!変態ーッ!!」

自分の裸など、相手には実のところ何度も見られている。
何と言っても、自分達は肌を重ね合う恋人同士の間柄なのだから。
けれど、合意の上で優しく脱がされるのと、今回のように
嫌だと言っているのに、強引に脱がされるのとは、わけが違う。
特に、今回はこの後、子供のようにお尻をぶたれるのだから
余計に恥ずかしさがこみ上げてくる。

「このエロ上司―ッ!!無能―ッ!!ロリコン趣味―ッ!!」

恥ずかしさからエドワードは、ありったけの中傷をロイに浴びせるが
ロイは全く動じることなく

「・・・嘘を吐くような悪い子は嫌いだよ」

エドワードにそれだけ告げて

バチィンッ!!

「ひたぁっ!!」

容赦なく平手を振り下ろした。

「やだっ・・・やだやだぁーッ!!」

がっしりと腰を掴まれて、逃げる道など完全に塞がれてしまっているのだけれど
それでも抵抗せずにはいられない。
エドワードは、とにかくこの状況から逃れようと必死に暴れた。

「大人しくしていないと、余計に痛いだけだぞ?」

ロイは、一応忠告だけは与えてやって

バチィンッ!!パァンッ!!パァンッ!!

「ひっ・・・やぁっ・・・ひんっ!!」

容赦なくエドワードのお尻に赤く手の痕を付けた。

「いたぁぃ・・・うぇぇっ・・・ぐすっ・・・」

エドワードはと言えば、本当に容赦なく振り下ろされる平手は痛いし
怒ったロイは怖いしで、早速ぐすぐすと泣き声をもらし始めた。
けれど、ロイはそんなエドワードにはお構いなしに
またも大きく腕を振り上げては、バチンッ!!バチンッ!!と
部屋中に乾いた音を響かせる。

「やぁぁっ・・・も、やだぁっ・・・ふぇぇぇ・・・」

エドワードが激しく泣き声をあげても、ロイが手を止めてくれる気配など
微塵もなく、大きな音がするたびに、エドワードの背中が
ビクッと大きく仰け反った。

「ぐすっ・・・ふぇぇぇっ・・・やぁぁっ・・・」

どれだけ暴れても、どれだけ叫んでも、ロイの手は止まってくれなくて。
お尻は真っ赤になって、じんじんと熱くて、たまらなく痛い。

バチンッ!!バチンッ!!パァンッ!!

「ふぇぇっ・・・ひたっ・・・いたぁぁっ!!」

でも本当に痛いのは、さっきのロイの言葉。

『嘘を吐くような悪い子は嫌いだよ』

嫌い。

そのたったひとつの単語がエドワードの胸に深く突き刺さっては
頭の中で反芻される。

「うぇぇぇっ・・・やだぁっ・・・ひくっ・・・ごめっ・・・なさ・・・」

お尻が痛くなるのは、もう嫌。
ロイを怒らせるのは、もう嫌。
何よりも、ロイに嫌われるのは、絶対に嫌。

ロイの膝の上からどうあがいても逃げられないエドワードは
顔中を涙でぐしゃぐしゃにしながら必死にロイに「ごめんなさい」を繰り返す。

「えぅっ・・・ひくっ・・・たいさ・・・ごめんなさぃっ・・・!!」

何度も何度もぶたれて、エドワードのお尻はもう真っ赤。
じんじんと痺れて、痛みを主張するけれど、本当に痛いのは
胸のずっと内側で。
エドワードは、一生懸命に「ごめんなさい」を繰り返して
ロイに許しを請う。

「・・・しっかり反省出来たかね?」

ぐすぐすと泣きじゃくって、ロイの膝にしがみついていたら
ふっとロイが頭を撫でながら尋ねた。

「ふぇぇっ・・・いっぱい・・・はんせっ・・・したからぁっ・・・」

エドワードは、泣いていて上手く声の出ない喉で、懸命に呼吸しながら
ロイに謝罪の気持ちを伝える。

「・・・なら、今日はこれでおしまいだ」

ロイは、そう言って軽くエドワードのお尻をぺちんっとはたくと
エドワードを抱き起こして、自分の目の前に座らせた。
だが、エドワードは、ヒクヒクと泣きじゃくりながらズボンを戻し
そのまま、のろのろとベッドから降りようとする。
いつもなら、痛い痛いお仕置きの後は、とにかく甘えたがるエドワード。
頭を撫でてやれば、まるで猫のように、それは気持ち良さそうに
ロイに引っ付いてくるのだが・・・。

「・・・鋼の?」

ロイが不思議に思って、エドワードに声を掛けると
エドワードは、ビクッと肩を震わせて、床にペタリと座り込んでしまった。

「一体、どうしたんだね?
 いつもの君らしくないじゃないか・・・」

普段とはまるで違う反応を示すエドワードに
思わずお仕置きをしたロイの方が焦ってしまう。

「・・・・・・・・・・・・」

「鋼の・・・?」

ロイが話しかけても黙りこくったままのエドワードに
ロイが近づいて、顔を覗き込めば、エドワードは、もうぶたれていないのに
ボロボロと目から大粒の涙を零していた。

「そんなに泣くほど痛かったのかね?」

それなりの痛みは与えているものの、ロイとて全く手加減してやらないほど
鬼ではない。
ロイは心配そうに顔を覗き込みながら、そっとエドワードの頬を伝う涙を
自らの手で拭ってやる。

「・・・ひくっ・・・ぐすっ・・・」

エドワードは、いまだに泣きじゃくっているので、声が上手く出せず
ぶんぶんと首を左右に振って返事の代わりをした。

「痛かったわけじゃないのかね・・・?」

それならば、ますますもってロイにはエドワードが
こうまで泣く理由がわからない。

「ふぇっ・・・たいさっ・・・オレの・・・きら・・・なった・・・」

「・・・何だって?」

「たいさ・・・オレのこと、きらい・・・ぐすっ・・・なったからぁっ・・・ふぇぇぇっ」

決して肉体的に痛くなかったわけではない。
けれど、それ以上に、ロイに言われたあの言葉がとにかく痛くて。
今だって、お仕置きは終わったのだけれど、その言葉が
エドワードの頭を支配して離れない。

「私が・・・君のことを嫌いになった・・・?」

「ぐすっ・・・だって・・・オレ、たいさにいっぱい・・・うそついたっ・・・」

そのエドワードの言葉を聞いて、ロイはようやく全てを理解した。
それと同時に、胸に思わず温かい感情が込み上げてくる。

「・・・私が君を嫌いになるわけないだろう?」

「だってっ・・・うそつき・・・きらいって・・・ひくっ・・・」

どこまでもロイの言葉を信じる純粋な恋人。
ロイは愛しくてたまらなくて、ベッドの上にエドワードをそっと抱き上げると
自分の膝の上に向かい合うように座らせて、そのままぎゅっと抱きしめた。

「確かに嘘を吐くのは感心しないがね・・・。
 だが、私は君がどんなに悪いことをしたとしても
君を嫌いになることなど出来ないよ」

ロイがそう言うと

「・・・・・・ホントに・・・?」

ロイに抱きしめられて、ぎゅっと胸に顔を埋めていたエドワードが
小さく返す。

「そもそも、私が好きでもない相手に、こうして自らの手を煩わせると
思うのかね?
 そこまでするのは君だけだ。
 他の者には、そこまで自分の時間を割いてはやらんよ」

そのロイの言葉を聞いて、エドワードはロイの胸の中で
ほっと安堵を覚える。
嫌われた・・・そう思っていたけれど、それは自分の思い違いだったのだと。

「たいさ・・・うそついて・・・ごめ・・・・・・ふぇぇっ・・・」

エドワードは堪らずロイにぎゅっと抱きついた。





「それにしても・・・君に信用されていなかったのは心外だったな」

「えっ・・・?」

あの後、散々ロイの膝の上で泣きじゃくって、散々甘やかされて。
ベッドに座り直したエドワードは、ロイに長い金糸の髪を撫でられていた。

「だって、そうだろう?
 君は、私が君を嫌いになるなどと思っていたから
 本当のことを話してくれなかったんじゃないのかね?」

「うっ・・・それは・・・・・・」

確かにエドワードは、自分が旅で立ち寄った先で、色々問題を起こすことで
ロイに呆れられて、嫌われてしまうんじゃないかと懸念していた。

「でもっ・・・それは・・・・・・」

「それは・・・?」

それは、自分達の関係があまりにも曖昧で不確かなものだから。
エドワードは女性ではないから、どんなにロイが好きでも結婚は出来ないし
ロイの子供を産むなんてことも出来ない。
一応、恋人なんてポジションにいるけれど、結婚や婚約なんていう
確かな形になるものが自分達には何も無い。
だから、そんな自分達の不確かな関係が余計に恐怖を煽った。

「だって・・・呆れられちゃうって・・・思ったし・・・」

「・・・何故?」

「オレ・・・大佐に叱られるようなことしかしてないし・・・
 それに・・・・・・・・・」

「それに・・・?」

エドワードは言いにくそうに、モゴモゴと口篭る。

「鋼の、さっきの私の言葉を忘れたのかね?」

だが、ロイにそう声を掛けられて、エドワードはハッとした表情で
顔を上げた。

「・・・・・・鋼の」

顔を上げた先で微笑む優しい恋人。
この男は何があっても、自分を嫌いにはならないと言った。
君だけだと、そう言って抱きしめてくれた。

「・・・・・・鋼の」

自分を呼ぶ甘い声と、微笑んだ恋人の顔にエドワードも安心して
ようやく口を開いた。

「だってさ・・・・・・何にも・・・ないんだもん・・・」

「何もない・・・?」

「大佐は・・・いっつも、すっ・・・す、好きだとか言ってくれるけどっ・・・
 でも・・・目に見えてわかる形がないから・・・不安・・・っていうか・・・」

自分でも呆れるぐらい女々しいと思う。
けれど、この不安定な気持ちをいつまでも引き摺っていたくはなかった。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・あの・・・・・・大佐・・・?」

何も答えないロイの顔をエドワードが覗き込んだ瞬間・・・

「・・・・・・おわぁっ!?」

いきなり、ベッドに押し倒された。

「ちょっ・・・大佐!?」

驚いてエドワードが声を上げるのもお構い無しに
ロイは、エドワードの首筋から順に自らの口唇で触れていく。

「ちょっと・・・ちょっ・・・大佐ってばっ!!」

首から順番に下がってきて、ロイの手は、エドワードのインナーや
下着にまで伸びてきた。

「やっ・・・ちょっ・・・たいっ・・・やぁっ!!」

胸、機械鎧、内腿、足の甲・・・・・・
身体中にロイのキスが施されて、エドワードの身体は
ビリビリと熱が駆け巡って、熱くなる。

「ふぁっ・・・・・・やぁ・・・たいさぁっ・・・」

突然のことに、ロイに翻弄されっぱなしのエドワード。
遂には、さっき真っ赤にされたお尻にまで、軽く口づけられた。

「たいさっ・・・な・・・なんなんだよっ・・・!!」

ぐるぐると身体中を駆け巡る熱に反応して、たまらず目から涙が零れる。
ロイは、そんなエドワードの涙にさえも口づけをして

「形はなくても、目に見える印をつけることは出来るんだよ。
 これは、君が私のものだという証だ」

ツッとエドワードの胸につけた、キスマークをなぞった。

「なっ・・・!!」

確かに、目に見えると言えばそうなのだけれど、エドワードが言いたかったのは
こういうことではない。
そう抗議しようとしたのだが、ぐいっと顎を指で引っ掛けられて
口唇で言葉を塞がれてしまった。

「んぅっ・・・・・・」

脳天から、足の先までビリビリと衝撃が走って、もう何も考えられなくなる。
くたっと力が抜けたエドワードは、ロイの胸に寄りかかった。

「・・・証がなくなるのが嫌なら、消える前に帰っておいで」

耳元でそう囁かれて

「・・・・・・そんなのずるい」

エドワードが同じように小さく呟けば

「大人は得てして狡いものなのだよ」

そう言って、大人な恋人はクスクスと楽しそうに笑った。