ぷちらば


02.XXX

街でその光景を見たのは、本当に偶然で。
青年の手が彼女の頬に優しく触れて、髪を撫でて。
彼女が静かに目を閉じれば・・・・・・そっと重なる二人の口唇。
青年の手で包まれていた彼女の顔は、それはそれは幸せそうな笑顔で・・・。

「・・・・・・兄さん?」

道向こうのその光景に、呆然と見入ってしまっていたエドワードは
弟に呼ばれて、ハッと我に返った。

「・・・えっ・・・あ・・・何?」

「何ボーっとしてたの?
 気をつけないと、転んじゃうよ?」

本来ならば弟であるアルフォンスに、保護者のようなことを言われて
いつもなら何かしら言い返すエドワードだが、それよりも今は先程の光景に気をとられていて

「・・・うん・・・そだな・・・」

と、いつになく素直な返事を寄こした。

そんならしくない兄を見て、アルフォンスは少し首をかしげたが
気を取り直して、本題を切り出すことにした。

「それでさ、次はどうするの?
 この街にも目ぼしい文献とか、情報は無かったし・・・・・・」

「・・・・・・うん・・・」

お互いにしばらくの沈黙の後

「・・・あ、あのさ・・・一度、東部に・・・戻ってみないか?」

呟くようにエドワードが言った。
そう言ったエドワードの顔は、少し照れたような表情で・・・。

(・・・大佐に逢いたいのかな・・・)

アルフォンスは思う。

兄と、東方司令部の大佐である、ロイ・マスタングという男が
果たして恋人同士なのかどうか、アルフォンスは知らない。
当のエドワード本人に聞いたところで、本当のことは絶対に言わないだろうから
あえて聞かないことにしている。
だから、アルフォンスは二人の関係について、本当のところは何も知らない。
けれど、ロイがエドワードを気に入っているのは周知の事実だし
エドワードの方も、まんざらでもない気持ちでいるだろうことは
アルフォンスにも充分にわかっていた。

二人きりの兄弟だし、小さな頃から一緒に育ってきた兄を取られたような
何となく悔しいような、そんな気持ちが全く無いと言ったら嘘になるかもしれない。
けれど、アルフォンスはそれ以上に嬉しく思っていた。

自分達が禁忌を犯してから、エドワードが(自覚しているかは別にして)
他人を好きになるとは、思ってもみなかったから。
こんなことを言うと、エドワードは怒るのだが、アルフォンスは兄が幸せであるなら
自分のこの鎧の身体を元に戻すことなど、二の次で構わないと思っているくらいだ。

「うん、いいね。
 一度東部に行って、情報を集めなおしてみようか。
 何か新しい情報も手に入るかもしれないしね」

アルフォンスがそう言いながら頷くと

「よしっ、じゃぁ東部に行くか」

エドワードは早速進行方向を駅へと向けた。





イーストシティ駅に列車が滑り込み、ホームに立ったその足で
二人はそのまま司令部へと向かう。
エドワードの少し後ろを歩いていたアルフォンスは
兄の足取りが心なしか軽くなっていることに気付いて、思わず微笑んだ。

(やっぱり大佐に逢いたいんだ・・・)

パタパタと軽い足音をたてて、足早に進んでいくエドワードを追って
アルフォンスも、歩く速度を少し上げた。

前の街から乗った東部行きの列車は最終便だったので、司令部に着いた頃には
午後8時を回ってしまっていた。
けれど、司令部の面々はそんな時間にやって来た兄弟を温かく迎えてくれた。

「あら、こんばんは。エドワード君にアルフォンス君」

頭を下げて丁寧に挨拶をしてくれたホークアイにつられて
兄弟も慌てて頭を下げる。

「こんばんは、中尉」

「ホークアイ中尉、こんばんは」

「こんな遅くにどうしたの?
 何か大佐に用事かしら?」

そう尋ねるホークアイに

「んっと・・・・・・まぁ、そんなとこ」

エドワードは照れたように笑いながら答えた。

「それで・・・大佐はどちらに?」

今度はアルフォンスが尋ねた。

「大佐は執務室に・・・いるにはいるんだけど・・・・・・」

アルフォンスの質問に、ホークアイは困ったように言う。

「急な仕事が入ってしまって・・・今、手が離せないの」

そのホークアイの言葉を聞いて、エドワードは

「そっか・・・忙しいんだ・・・」

しゅん・・・と小さく俯いてしまった。

「・・・でもね、あんまり根を詰めすぎると健康上問題だから・・・
 エドワード君、大佐にコーヒー持って行ってくれる?」

ホークアイがそう言うと、エドワードはパッと顔を上げて

「え・・・あ・・・うんッ!!」

元気良く返事を寄こした。





ふわりと香ばしい煙が鼻孔をくすぐる。
真っ白なカップに淹れられたコーヒーを、ホークアイがそっとエドワードに手渡した。

「熱いから気をつけてね」

「・・・うん」

エドワードはカップを受け取ったそばから、パタパタと早足で廊下を進んでいく。

「兄さん、ゆっくり歩かないと転ぶってば!!」

アルフォンスから、本日二度目の忠告が飛ぶ。
けれど、エドワードは聞こえていないのか、はたまた聞こえないほどに急いでいるのか
相変わらずパタパタと早足で、廊下の角を曲がっていった。

「・・・もう、ホントに転んでも知らないから・・・」

そんなエドワードを給湯室の前で見送ったアルフォンスは、ふぅ・・・とため息を吐いた。

「・・・あなたも大変ね」

すると、横からホークアイが苦笑しながら言う。

「・・・中尉だって大変でしょう?」

アルフォンスがそう返すと、ホークアイはますます苦笑した。

「・・・大佐は、司令部を離れるわけにはいかないから
 あなた達が帰ってくるのを待つしかないでしょう?
 口には出さないけれど、本当は相当まいっていたみたい。
 ・・・だから、今夜あなた達がここに来てくれて助かったわ」

「・・・それはきっと兄さんも同じじゃないかな・・・」

そうポツリと呟いたアルフォンスとホークアイは、お互いに苦労するね、と
二人で顔を見合わせて笑いあった。





ふわりと香るコーヒーカップを持って、エドワードは見慣れた大きな扉の前に立っていた。

(大佐・・・忙しくしてんのかな・・・?)

カチャリと静かにドアノブを回して、扉の隙間からひょこっと顔を覗かせて
中の様子を伺う。
ロイは山積みになっている書類と格闘していて、顔を覗かせたエドワードには気付いていない。
エドワードはするりと扉の隙間から部屋の中へ入ると、静かにロイの元へと近づいていく。

コトンと、小さな音をたててカップを机に置いたところで

「・・・・・・鋼の!?」

ロイはようやくエドワードに気が付いた。
その顔は心底驚いた表情で、さっきまでの書類に向かっていた真剣な顔とはまるで別物で
エドワードは何だかおかしくて、思わず笑ってしまった。

「・・・中尉がさ・・・大佐にコーヒー持って行ってって・・・」

あんまりロイが自分をじっと見つめるものだから、エドワードは何だか気恥ずかしくなって
赤い顔をして、それだけ言うとプイッと視線を外してしまう。
そんなエドワードの腕を取ると、ロイはそのまま強引に自分の方へと引き倒した。

「・・・おわぁっ!?」

イキナリ引き倒されて、エドワードはそのままロイの胸へと顔を埋める。

「ちょっ・・・大佐、何すっ・・・」

エドワードが全部を言い終わるよりも前に、ロイはエドワードを両腕でぎゅっと抱きしめて
言葉の先を奪ってしまった。

「久しぶりだね、鋼の。
 元気にしているか心配していたんだよ。
 君からは手紙も、電話も来ないからね」

言いながら、ロイは愛しそうにエドワードの金色の髪を撫でる。

「ちょっ・・・大佐・・・ホントに苦しぃ・・・」

強い力で抱きしめられていたエドワードが、ロイの胸でそう抗議すると

「おっと・・・すまない」

ロイはようやくエドワードを解放し

「久しぶりに逢ったものだから、つい・・・ね」

そう言って、困ったように笑った。





「それにしても・・・どうしたんだね?
 普段は、文献が届いたと連絡をしなければ
 滅多に帰ってこないじゃないか」

ロイは休憩だとばかりに、エドワードの持ってきたコーヒーを啜りながら
ソファに座っていたエドワードの隣へと腰掛ける。

「えっと・・・それは・・・・・・・・・」

隣に座っているエドワードは、何故か理由を言いにくそうに
顔を赤くしてモゴモゴと口篭っている。

「ん?どうかしたのかね?」

ロイがエドワードの顔を覗き込むと、エドワードはますます顔を赤くした。

「あ・・・えっと・・・そのっ・・・・・・」

何だか様子のおかしいエドワードは、顔を赤くしてモゴモゴと口篭るだけで
ここへ来た理由について一向に口を開こうとしない。
しょうがないのでロイは、とりあえず近況を聞いてみることにした。

「そういえば鋼の・・・今回の報告書は持って来たのかね?」

「えっ・・・・・・・・・?」

ロイの言葉にエドワードは、ハッと顔を上げる。
そういえば、今回はイキナリ行き先を変更して東部へ来てしまったから
報告書など用意していない。
列車の中でも、そんなこと考えもしないで、ボーっと景色に見入っていた。

「前回の分と合わせて持って来ると、この間、君に電話をかけた時
 そう聞いたんだがね・・・?」

「え〜っと・・・・・・」

勢いに任せて東部に来てしまったから、そんな以前の電話のことなど
頭からすっかり抜けてしまっていた。
今回の分どころか、前回の分ですら、実は用意できていない。

「確か、君は電話で『次に行く時には叩きつけてやるから待ってろ』と
 大層な大口を叩いたと記憶しているが?」

「あ・・・えと・・・それは・・・」

段々とロイの顔が強張ってくる。
先程までは自分に優しい恋人の顔だったのに、今はすっかり厳しい上官の顔で。
これはかなり怪しい雲行きである。

「鋼の、報告書を出しなさい」

「あ・・・ぅ・・・」

ピシリと言い放たれて、エドワードは仕方なくゴソゴソと自分のトランクを開けた。





「・・・・・・・・・これは炙り出しか何かかね?」

「え〜っと・・・・・・それは・・・・・・」

出せと言われて、仕方なくエドワードがロイに差し出したのは
真っ白なレポート用紙の束。
ロイに約束していた報告書など、前回の分ですら一枚も書けていなかったのだ。

「電話で『そんなもんとっくに出来てる!』と大口叩いたのは誰だったかな?」

ギロッとロイが厳しくエドワードを睨む。
二人は、れっきとした恋人同士だけれど、公私はキッチリと分けている。
それは、二人の関係を周り・・・特にロイを敵視しているような輩に
つけこまれない様にするための自衛策でもあるけれど、二人にとってのケジメでもある。

「・・・で?結局のところ、出来てないのかね?」

「うっ・・・その・・・・・・」

「・・・つまりは、前回の電話で出来ていると言ったのは嘘だったと?」

「ううっ・・・それは・・・その・・・」

ロイの言ったことは全て図星。
報告書なんて一枚も書けていないし、電話で出来ていると言ったのも嘘。

前回の電話で大口を叩いて、報告書なんてとっくに出来上がっていると言ったのは
エドワード自身も記憶している。
けれど、その時には実はまだ全然出来ていなくて、本当はロイにからかわれるように
『たまにはちゃんと書いて来い』と言われて、悔し紛れにそう返しただけだったのだ。
いつもなら列車の中や、司令部に着く前に宿で書いたりしていたのだが
今回は、突然思い立って、勢いに任せてやってきてしまったから、何の用意もしてこなかった。
その結果、ロイに何も書かれていない白紙の報告書を提出する羽目になってしまったのだ。

「まったく・・・あれほどきちんと書いて来いと言ってあったのに・・・」

白紙のレポート用紙をテーブルにバサッと放って、ロイは、はぁ・・・と深くため息を吐く。

「だって・・・・・・・・・急いでたから・・・」

「おや、この期に及んで、まだ言い訳かね?
 素直に謝罪したら許そうかと思っていたが・・・
 君には、少し厳しいお仕置きが必要かな?」

言いながらロイは、目の前に立っていたエドワードの腕をぐっと掴むと、先程と同じように
そのままぐいっと自分の元へと強引に引き寄せた。

「おわっ!?え・・・な、何ッ!?」

段々と怒ってきているロイが怖くて、怯え気味に小さく俯いていたエドワードは
突然のことに驚いて、ビクッと大きく身を強張らせる。
けれど、ロイの力に押さえ込まれて、無理矢理ソファに座った彼の膝の上に
腹ばいに寝かされてしまった。

「大佐!?ま・・・まさか・・・」

この体勢には非常に嫌な思い出があるエドワード。
この間は、閲覧許可が欲しいとロイにワガママを言って、散々お尻をぶたれて泣いた。
その場だけではなく、その次の日だって、じんじんとお尻が痛くて
椅子に座るのもつらかったぐらいだ。
何よりも、膝に乗せられて、お尻をぶたれるなんて、まるで子供みたいで
15歳のエドワードにとっては、恥ずかしくてたまらない。

「やだっ!!やだやだやだ〜ッ!!」

これから何をされるのか悟ったエドワードは
ロイの膝の上でジタバタと盛大に暴れ始めた。
だが、いくらエドワードが暴れても、ロイはびくともしない。
それどころか、逆にぐっと腰を押さえつけられて、スルスルと
下着ごとズボンを剥ぎ取られてしまった。

「やだってばぁッ!!大佐のバカーッ!!変態ーッ!!エロ上司ーッ!!」

ズボンを膝まで下げられて、真っ白なお尻は完全に外気に晒されてしまった。
いくら相手が恋人で、何度となく肌を重ねた仲だとしても
一糸纏わぬ姿を見られるのはやっぱり恥ずかしい。
エドワードは顔を真っ赤にしながら、ジタバタと暴れてロイに抗議する。
けれど、ロイは

「大人しくしていないと、数を増やすぞ?」

厳しい上官の声で、冷たいことを言うだけ。

「う・・・だって・・・・・・」

ロイの言葉に、ピタリと手足での抵抗を止めたエドワードだが
口ではまだモゴモゴとロイに抗議を申し立てる。
それほどまでに、前回のお仕置きはとにかく怖くて、痛かったのだ。

「『だって』じゃないだろう?
 君が報告書を書いたと嘘を吐いたのがいけないんだろう?
 私はあれほどちゃんと書いて来いと言ったのに・・・・・・。
 本来なら、規律違反で軍法会議のところを、これで済ませてやろうと言うのだから
 少しは素直に、反省したまえよ」

膝の上でビクビクと怯えて、もう半分泣きそうになっているエドワードにはお構い無しに
ロイはつらつらとお説教をすると、すっと右腕を振り上げた。

「ふぇっ・・・やっ・・・やだぁ〜ッ!!」

往生際悪く、膝の上でジタバタと暴れるエドワードのお尻に、ロイは

バチィィンッ!!

「ったぁっ!!」

容赦なく平手を打ち据えた。

パンッ!!パァンッ!!パァンッ!!

「やだぁっ・・・いたっ・・・・・・いたぁっ!!」

パァンッ!!バチンッ!!バチンッ!!

「いぅっ・・・・・・ひたっ・・・ふぇっ・・・」

パァンッ!!パァンッ!!バチィンッ!!

「やぁっ・・・いたぁぃっ・・・・・・うぇぇっ・・・」

鍛え上げられた軍人の手は、真っ白なお尻をまんべんなく赤く染め上げていく。

「いたいってばぁっ!!・・・も、やだぁ〜っ!!」

ジタバタと膝の上で暴れては、痛いと喚くエドワードに

「大人しく反省していないと、数を増やすと言っただろう?」

パァァンッ!!

「いたぁぁっ!!」

ロイは冷たく言いながら、容赦のない力でエドワードのお尻に赤い痕をつけた。

「ふぇぇぇっ・・・・・・いたいぃっ・・・ぐすっ・・・」

エドワードがぐすぐすと泣き始めても、ロイの手は止まってくれることなどなくて
等間隔でエドワードのお尻に痛みを与える。

バチンッ!!バチンッ!!バチィンッ!!

「うぁぁんっ・・・うぇぇぇっ・・・いたいぃ・・・」

パァンッ!!バチィンッ!!バチィンッ!!

「うぇぇぇっ・・・・・・も、やぁっ・・・ふぇぇぇっ・・・」

ジタバタと暴れては、ロイに容赦なく引っ叩かれて、エドワードのお尻は
真っ赤に腫れ上がっていた。
それなのに、まだロイの手は止まってくれない。

確かに、『報告書なんてとっくに出来ている』と嘘を吐いた自分が悪い。
公私のケジメをきっちりつけるロイの態度には、エドワードも賛成だけれど
だからと言って、仮にも恋人の自分を、ここまで厳しく罰しなくても良いではないか。
そもそも、エドワードが突然行き先を変えて東部に来たのは
この男に逢うためだったというのに・・・。

「ふぇぇぇっ・・・・・・たいさのばかぁ〜ッ・・・」

そう思うと、このお仕置きが理不尽な気がして、エドワードは
泣きじゃくりながらもロイに不満を漏らした。

「こら、バカとは何だねバカとは・・・。
 まったく・・・少しぐらい反省しようという気は無いのかね?」

ロイはため息を吐きながらも、まだエドワードへの平手を止めてはくれない。
バチンバチンと乾いた音がなる度に、エドワードはビクンッと背を仰け反らせた。

「うぇぇぇっ・・・・・・ぐすっ・・・いたぁぃっ・・・」

「ちゃんと反省できるまで、ずっとこのままだぞ?」

エドワードがいくら泣き言を言っても、抗議しても、ロイの考えは変わらないようで
エドワードの真っ赤になったお尻に、まだ平手を振り下ろしてくる。

「も・・・やぁぁっ・・・うぇぇぇんっ・・・」

顔をぐしゃぐしゃにして、小さな子供のように泣きじゃくるエドワードは確かに可哀想で
本当は、ロイも随分前から力を弱めて、エドワードが肝心の言葉を言うのを待っていたのだが
いつまで経ってもエドワードはその言葉を言おうとはしない。
それどころか、公私のケジメがあるからといって、恋人である自分にこんな仕打ちをする
ロイに対して、ますます不満を募らせているようで

「うぇぇっ・・・たいさのばかぁ・・・も、やだぁっ・・・」

この状況でも悪態を吐きながら、ジタバタと暴れて膝から降りようとする。

「こら!」

そんなエドワードをロイはぐっと抱えなおすと

バチィンッ!!

「ひっ!!」

先程とは打って変わって、少々厳しく平手を振り下ろした。

「うあぁぁんっ・・・も、やだぁ〜・・・なんだよ・・・ぐすっ・・・ほうこくしょぐらいで・・・」

幼い恋人は、泣いてもなかなか許してくれないロイは怖いし
真っ赤に腫れあがったお尻は痛いしで、遂には拗ねてしまった。

「・・・鋼の、悪い子は誰だ?」

泣きじゃくりながらも口を小さく尖らせて、ブツブツと文句を漏らすエドワードに
ロイはしょうがなく手を止めて、静かに尋ねた。

「・・・・・・どーせ、ほうこくしょなんて・・・たいさしか・・・まともに、よまないじゃんか・・・」

「だから、書いて来なくても良いと?」

「・・・・・・・・・・・・くちで・・・ほうこくするもん・・・」

エドワードがそうポツリと漏らした瞬間

パァァンッ!!

「わぁぁんッ!!」

今日一番の甲高い音が部屋中に響き渡った。

「うぇぇぇっ・・・いたぁいっ・・・・・・ふぇぇぇんっ・・・」

またしても盛大に泣き出したエドワードは、どうして急に厳しくぶたれたのかわからない。
けれど、お尻が痛くて、もうこれ以上は耐えられなくて、必死に腕を動かして
何とか自分の真っ赤になったお尻をかばった。

「ふぇぇっ・・・も、やぁっ・・・」

泣きじゃくった顔でロイを見上げて、必死に瞳で訴えるけれど
ロイはまだ厳しい上官の顔でエドワードを一瞥すると

「・・・鋼の、手をどけなさい」

と、まだまだお仕置きは終わりではないと告げる。

「やっ・・・も・・・むりだも・・・ふぇっ・・・」

冷たく告げたロイの顔は、いつものエドワードに優しい恋人の顔ではなくて。
エドワードは自分が、ロイを怒らせたのだと思い知らされる。

「ほら、手をどけなさい」

そう言って、エドワードの腕を捻り上げようとするロイに
エドワードは必死に抵抗する。
これ以上は本当にもう耐えられそうもなかったし、こんなにも厳しいロイが
とにかく怖かった。

(なんでっ・・・?なんで、こんなに大佐怒ってんの・・・!?)

エドワードは抵抗しながらも必死に答えを探していた。
それが見つからないと、いつまでもロイに許してもらえないような気がしていた。

「ふぇぇっ・・・やっ・・・も、やだぁっ・・・」

腕を捻り上げようとするロイに必死に抵抗して
エドワードはするりとロイの膝の上から逃げ出した。

「あっ・・・こら、鋼の!!」

バタバタと四つんばいのまま床を這って、少しでもロイから遠くに逃げようと
必死に手足を動かすものの、膝までずり落ちたズボンが邪魔で
思うように逃げることが出来ない。

「まったく・・・」

背後でロイの立ち上がる気配がすると思ったら、その瞬間には
首根っこを掴まれて、その場で膝立ちにされてしまった。

「うぇぇっ・・・だってっ・・・も、むりだも・・・ふぇぇっ」

エドワードは、情けなくも泣いて許してもらおうとしたが

「大人しくしていないと、数を増やすと言ってあったな?」

後ろから低い声で耳打ちされて

バチンッ!!バチンッ!!バチィンッ!!

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッ!!!」

その場で容赦なく引っ叩かれた。

「うあぁぁんっ・・・も、やだぁっ・・・ごめ・・・なさぃぃっ・・・」

痛くてたまらなくて、エドワードはその場にペタリと座り込んで、わぁわぁと泣き喚く。

「まったく・・・しょうがないな君は・・・」

頭上から呆れた声と一緒にため息が聞こえたと思ったら
ぎゅっと身体ごと後ろから抱きしめられた。

「・・・ふぇっ?」

てっきりまだまだお仕置きされると思っていたエドワードが驚いて、後ろを振り返ると

「・・・君と、初めて交わした約束はなんだったかな?」

ロイにポンポンと軽く頭を撫でられた。

「・・・やくそく・・・・・・?」





ぐすぐすと泣きじゃくりながら、エドワードは必死に記憶を辿る。
確か・・・あれは、ロイと自分が恋人の関係になるもっとずっと前のこと・・・
エドワードが国家錬金術師の資格を取った12歳のあの日。
銀時計を手にしたエドワードに、ロイは

『全て、自分の力で掴み取れ』

と、そう言った。

汚れた大人の世界には、多くの誘惑や欺瞞が満ち溢れている。
そんな中に、12の子供が飛び込むなど危険極まりない行為でしかない。
エドワードが、賢者の石の情報と引き換えに、薄汚い取引をするような
そんな頭の悪い子供には見えなかったが、大人はエドワードが思っているよりも
もっとずっと汚い手を使う。
気をつけていても、巧みに操られて、いずれは騙されてしまうかもしれない。
そう思ったからこそ、ロイはエドワードに

『全て、自分の手で掴み取れ』

と、そう言った。
他人に頼ることなく、自分の国家錬金術師の資格を維持し
その特権を終始、自分の為だけに使えと。

12歳の少年には少々厳しいことを言ったかもしれない。
けれど、そうでなければ、子供が軍人の世界でなんて、やっていけない。
エドワードの方も、それは覚悟の上だったし、元より誰に頼ることも期待していなかったから

『あんたに言われなくてもそのつもり』

と、ロイに同意した。





その時は、まさかロイとこんな関係になるなんて思ってもみなかったし
こんなにも自分が弱い人間だなんて、思いもしなかった。
恋人の顔をしている時のロイは、エドワードを何よりも大切にしてくれるし
優しいし、それに上手に甘やかしてくれる。
だから、エドワードも普段の緊張の糸が解れて、ついロイを頼って甘えてしまう。
彼にとって、自分は『特別』なのだと、そう感じられるのが嬉しかったから。

「・・・・・・ぜんぶ、じぶんで・・・なんとかするっていった・・・」

ロイにとっての『特別』な存在だということにすっかり慣れてしまって
それに甘えて最初の約束を違えてしまうところだった。

「・・・たいさ・・・ごめんなさぃ・・・」

公私のケジメというのもあるけれど、一番肝心な、最初の約束を
ちゃんと守ろうとしなかったから、ロイは今回こんなにも厳しかったのだとエドワードは
ようやくわかった。
エドワードだって、この最初の約束を忘れていたわけではない。
まだ子供のエドワードには、どこか誰かに甘えたいと思っている感情があって
今回は、それが少しそちらに傾いてしまっただけのこと。

この歳の少年に『全て、自分の手で掴み取れ』なんて突き放すように厳しいことを言って
それを実行させようなんて、ロイだって本当は過酷すぎると思っていたから
エドワードの気持ちも理解してやりたいと思う。
だから、一言『ごめんなさい』と素直に言えたら、許そうとも思っていた。
けれど、意地っ張りなエドワードは、なかなか肝心の言葉を言わないものだから
当初の予定よりも、ずっと厳しくお仕置きすることになってしまった。

「・・・ふぇぇっ・・・ごめっ・・・・・・なさぃ・・・」

ぐすぐすと自分の腕の中で震える小さな子供。
それをロイはもう一度、愛しそうに抱きしめると

「・・・鋼の、もういいよ」

いつまでもボロボロと流れ落ちる涙を、そっと指ですくってやった。





ようやくエドワードが泣き止んだ頃

「今から2時間待ってあげるから、その間に書いてしまいなさい」

そう言ってロイは、エドワードを応接用の机の前にちょこんと座らせた。

「・・・・・・今すぐ・・・書かなきゃダメ・・・?」

2回分の報告書を今すぐ書くなんて、色々思い出さなければいけないし
その時の資料も探さなければいけないし、正直めんどくさい。
それに、そもそもエドワードが今回、こんなにも急いで司令部へと足を向けたのは
報告書のためなんかではなかったのだから。
上目遣いでロイを見上げて、交渉を試みるけれど

「・・・まだ反省が足りないのかね?」

と、ロイに一刀両断されてしまった。
こうなってしまっては、エドワードに残された道はただひとつ。
2時間以内に報告書を書くしかない。
エドワードは、痛いお尻をさすりながら、ペタリと床に座り込んで
のろのろと作業を開始した。

「・・・お尻・・・痛ぃ・・・」

時々ポソッと文句を漏らしながらも、エドワードは必死にペンを動かした。





そして、2時間後には先ほどの真っ白だったレポート用紙が
何とか文字で埋まった。

「・・・いくら私以外あまり見ないからと言って・・・
 文字はもう少し丁寧に書きたまえよ・・・」

ロイに少々の小言は喰らったけれど、何とか認めてもらえたらしい。
ポンッと判子を押されて、ロイはサラサラとサインを書き添えた。

「・・・さて、鋼の。こっちへおいで」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

出来上がった報告書を机の端に寄せて、ロイはヒラヒラとエドワードを手招きする。
けれど、エドワードは、もしかしたら、またお仕置きされるのかもしれないと思って
何だか怖くてロイに近寄れない。

「鋼の、おいで」

エドワードを呼ぶ甘い声。
ふんわりと見せたロイの笑顔は、さっきまでの上官の顔ではなくて、恋人のそれ。

「・・・・・・・・・・・・」

エドワードが恐る恐るロイに近寄ると、ロイはそっとエドワードの手を取った。
一瞬、ドキリとして、心臓が跳ねる。
ふわっと身体ごと持ち上げられて、ストンと膝の上に向かい合わせに座らされた。

ロイの右手がそっとエドワードの頬を優しく触れて、金糸の髪をふわりと撫で梳かして。
エドワードが心地良さから、静かに目蓋を閉じれば、頭上からは小さな熱が降ってくる。
額に、目蓋に、頬に・・・・・・そして口唇に。

「・・・・・・ふ・・・・・・ぁっ・・・」

重なった口唇から時折漏れる甘い吐息。
ついばむ様な軽い口づけだったけれど、それだけでも全身をビリビリと熱が駆け巡る。
何とも言えない甘い快感は、最高に幸せな瞬間を与えてくれる。

「・・・ふぁっ・・・・・・」

ちゅっと小さな音がして、熱が去ったのを確認すると、エドワードは
熱っぽくなった赤い顔で、ふっとロイを見上げる。

「・・・ご褒美だよ。こうして欲しかったんだろう?」

クスクスと笑われて、エドワードは余計に顔を真っ赤にした。

「ちっ・・・ちがっ・・・・・・!!」

「おや、違うのかね?」

「う・・・ち・・・ちがっ・・・・・・」

昼間、街で青年と女性のこの行為の光景を見て、頭をよぎったのは
今、まさに目の前にいる人物と自分で。
彼の人と口づけを交わしたのはいつのことだったか・・・なんて思ってしまったから
弟を適当な理由で納得させて、甘い快感を求めて、この男の前にまでやってきてしまった。

「・・・・・・やっぱり・・・ちが・・・わない・・・」

認めるのは何だか悔しいけれど、どうしても我慢できなくなって
ロイに逢いたくなって、キスしてもらいたくて。
エドワードはこんなにも自分がロイに夢中だなんて、何だか恥ずかしくて
赤い顔をぷいっと逸らしてしまった。

「・・・君と最後に逢ってから、もう3ヶ月だ。
 正直、私も我慢の限界だったんだよ。
 今夜・・・君がここに来てくれて良かった・・・」

ロイはそう言いながら、そっとエドワードの髪に口付ける。
髪になんて触れられたって感触はわからない。
けれど、じんわりと身体に熱が伝わってくる。

真っ赤な顔をしたエドワードは、ぽふっとロイの胸に顔を埋めると、俯いたまま

「・・・・・・・・・オレも・・・今夜、ここに来て・・・良かった・・・」

小さく呟いて、鮮やかに笑った。