ぷちらば


19.FOR YOU

ことの始まりは、アルフォンスの一言。

「何か・・・お礼とかできないかな?」

ロイが仕事に出かけたため、マスタング邸には現在エドワードとアルフォンスの二人だけ。
少々遅い朝食にありついていたエドワードは、アルフォンスの言葉に首を捻る。

「は?お礼?誰に?誰が?」

モグモグと口を動かしながら、エドワードは不思議そうに目を丸くしてアルフォンスを見上げた。

「だから・・・『僕と兄さん』が『大佐に』だよ」

「はぁっ!?何で!?」

エドワードはますます目を丸くする。
今日だって、エドワードが寝坊して少し遅い時間に朝食を食べる羽目になったのも
前の晩、こっそりベッドで本を読んでいたのがロイに見つかってお仕置きされたからなのだ。
それに、今日だけではない。
ロイはことあるごとにエドワードにお仕置きをする。
言いつけを守らなかったり、好き嫌いをしたり、嘘を吐いたりした時には特に容赦がない。
おかげさまでエドワードが小さくなってからというもの、ロイの膝の上で泣かされた回数は
数知れない。
恨みこそすれ、お礼をしようなどとエドワードが考えるわけもなかった。

「何でって・・・」

「あの鬼大佐にはそんなもん必要ねぇじゃん」

昨日のロイの鬼っぷりを思い出したのか、エドワードは口を尖らせながら
左手に持ったフォークで、グサッとソーセージを突き刺した。

「だって・・・今、兄さんの食べてるご飯だって大佐が食費出してくれてるんだよ?」

アルフォンスに言われて、エドワードは自分で突き刺したソーセージをじっと見る。

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「それに、5歳児じゃ宿も取れないからって、ここに住んでも良いって言ってくれたじゃない」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「貴重な資料とか、研究所や図書館の出入り許可証もいつも出してくれるし・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「この間だって、兄さん古本屋さんで希少本買ってもらったでしょ?」

「う〜・・・・・・・・・」

最初にリゼンブールで出会った時から、どうにもいけ好かない相手。
いつも貸しだ借りだと言っては、色々厄介ごとも押し付けられた。
けれど、今回のようにエドワードが窮地の事態に陥ると、必ず助けてくれる。
確かにエドワードが5歳児になってから、ロイは色々と兄弟の為に動いてくれていた。
それを考えると、アルフォンスの意見にも一理あるとエドワードも思わざるをえなかった。

「ね?結構お世話になってるんだし、たまにはお礼するのもいいでしょ?」

納得し始めたエドワードに、アルフォンスはニッコリと微笑む。
エドワードはフォークに突き刺したソーセージを口に運ぶと

「う〜・・・・・・わかったよ・・・」

モグモグと口を動かしながら、小さく頷いた。





「う〜ん・・・・・・」

エドワードは唸り声を上げながら、司令部の廊下を歩いていた。
二人で何かお礼をすることに決めたのは良いけれど、具体的に何をすれば良いのか
いまいち見当がつかない。
アルフォンスは、得意な料理の腕を振るうと言っていたけれど
身体が5歳児のエドワードでは、満足にそれを手伝うこともできないし
エドワードとしては、お礼をするからには何か形のあるものを贈りたかった。

「って言ってもなぁ・・・錬金術で何か作るのは反則のような気もするし・・・」

アルフォンスは錬金術なしで、自分の気持ちを込めたものを贈るのに
いかにいけ好かない相手だとしても、エドワードだけが適当に錬成したものを
贈るというのも、何だか味気ない気がする。

「かと言って、何か買うってなると・・・・・・」

エドワードは自分のコートのポケットにごそっと手を入れる。
ポケットから引き出したのは、ホークアイがリュックとお揃いで買ってくれたウサギのがま口財布。
パカッと開ければ、そこには何枚かのコイン。
合計すれば、800センズぐらいにはなりそうだ。
けれど、このお金はロイからもらったお小遣い。
国家錬金術師の口座を凍結させられていて、自由にお金を引き出せないエドワードは
書類を運んだり、どこかへおつかいに行ったりした代価にロイにお小遣いをもらって
司令部での食事代にしたり、本を買ったりしていた。
いくら働いた代価にもらったお小遣いだと言っても、元々はロイのお金なのだから
そのお金でプレゼントを買ってお礼にするのは、何か違う気がする。

「う〜・・・・・・」

5歳児のエドワードを雇ってくれる店など到底見つかるわけもないし
どこからかお金を借りてくることも出来ない。

「はぁ・・・・・・」

己の無力さにエドワードはガックリと肩を落とし

「どーしよ・・・・・・」

エドワードはまたしても唸り声を上げた。





「まぁ嬉しい!じゃぁ10年後を楽しみにしているわね」

いつも行くドーナツ屋さんのお姉さんに働きたいとダメもとでお願いしたら
子供の冗談とでも思われたのか、あっけらかんと笑われた。
街角に貼られた求人広告を見てみるも、当然ながら5歳児が働ける場所なんてあるはずもない。

「・・・・・・・・・はぁ」

エドワードのため息はドンドン重くなっていくばかり。
お金がなくては、プレゼントを贈ろうにも、何も買うことが出来ない。

「お金稼ぐのがこんなに難しいと思わなかったな・・・」

12歳で国家錬金術師の資格を取得してしまったエドワードには、労働の経験というものがない。
そもそも、国家錬金術師の資格を持っている者には、一般人の年収をはるかに上回る額の
研究費が軍から支給されているのだから、働く必要がないのである。

「でも・・・・・・・・・」

今回のアルフォンスの提案に、渋々ながら賛成したエドワードだったが
やるからには、とことんキッチリやりたい。
何かを贈ると決めた以上、軍から支給される研究費や、ロイからもらったお小遣いでなく
自分で稼いだお金で買ったものでないと意味がない気がしていた。
それに、たまにはいつも自分をからかっているロイの驚いた顔が見たい。

「よしっ・・・!!」

再びヤル気になったエドワードは、また元気に街を歩き始めた。
そして、店先のポスターや掲示板を覗いては、何か自分にも出来そうなことはないかと
必死に目を凝らす。
見上げては落胆して肩を落とし、口から出てくるのは、重たいため息。
けれど、それでも諦めずにてくてくと街を歩いて行く。
陽はすっかり自分の頭のてっぺんを通り過ぎていた。

「・・・・・・『ネコさがしています』?」

公園近くの掲示板で、本日何度目かもわからず顔を上げると
ネコのイラストが描かれた一枚のポスターを見つけた。

『ネコのなまえはホリー。メス3さい。
からだは黒で、おでことシッポの先は白。
首に赤いリボンをつけています。
見つけてくれた人には、お礼さしあげます』

「・・・・・・これだっ!!」

エドワードは目を輝かせて、ビラを掲示板から引っぺがすと、勢いよく走り出した。
お店で店番をしたり、会社で事務処理をしたりは出来ないけれど
猫捜しなら身体が5歳児にだって出来る。
猫を捜し出してお礼がもらえれば、それでロイへのプレゼントが何か買えるはずだ。

エドワードは、猫のいそうな場所を片っ端から捜索していく。
公園、塀の上、家の庭先、飲食店のゴミ箱付近・・・・・・
色々な場所を通り抜けて、街中を走り回った。





白い猫だったり、三毛猫だったり、黒い猫は猫でも捜している猫ではなかったり・・・
日が暮れるまで捜し回ったけれど、ヤル気になったからといって
そう簡単にお目当ての猫は見つからなかった。

「はぁはぁ・・・もー・・・どこにいんだよネコ〜・・・」

すっかり日も暮れてしまって、街にはポツポツと家に明かりが灯り始める。
一日中、東部の街を駆けずり廻って、すっかり疲れてしまったエドワードは
路地裏でペタリと座り込んでしまう。

「はぁ・・・みつかんねー・・・」

ぐったりと脱力して天を仰いだエドワードの視界を、ヒュンっと何かが通り抜けた。

「・・・え?」

スタンと軽やかに地面に着地し、その何かはエドワードを振り向いて

「にゃ〜ぉ」

小さく鳴いた。

身体の全体は真っ黒な毛並み。
けれど、小さな額と長い尻尾の先は、正反対に真っ白。
それに首には首輪代わりに真っ赤なリボンが巻かれている。

「み・・・見つけたーッ!!」

エドワードは勢い良く立ち上がると、ホリーに向かって駆け出した。
けれど、ホリーはエドワードの声に驚いたのか、裏路地を更に奥へと
走って逃げてしまう。

「・・・このぉっ!!」

エドワードはホリーを捕まえようと、勢い良く飛び掛ったが
そこは軽やかな猫が相手では分が悪い。
ぴょんっと軽く跳ねて、するりと逃げられてしまう。
このまま真っ直ぐ進めば、大通りを挟んで公園に出る。
ホリーの走る速度から考えても、この裏路地で捕まえておかないと
せっかく見つけたのに、逃げられてしまいかねない。

「こうなったら・・・ッ!!」

エドワードはパンッと両方の手を合わせると、地面に手をついた。
瞬間、ホリーの目の前の地面が盛り上がり、大きな壁が出現した。
ホリーは驚いて足を止めるも、その横の家と家の細い隙間に入り込もうとする。

「んにゃろぉ!」

逃してなるものかと、エドワードはもう一度両手を合わせて、今度は素早く
近くの壁に触れる。
すると、壁から何本もの細い柱が伸びてきて、入り込もうとしていた隙間の
入り口を塞いでしまう。

「これで・・・どうだ!」

隙間に入り込めなかったホリーが、ぴょんっと裏路地へ戻ってきた瞬間
エドワードは、両掌を地面につけた。
その途端に、地面の四方八方から壁が飛び出してきて、すっかりホリーを囲んでしまった。

「やったっ!!」

何とか迷い猫の捕獲に成功したエドワードは、ホリーを中心に壁が囲いを作り
鳥篭のような形になっている場所へパタパタと駆け寄る。

「・・・ビックリさせてごめんな」

フーッと毛を逆立たせて警戒態勢のホリーに、エドワードは優しくそう言うと
壁の一部を壊して、そっと手を伸ばす。
警戒しているホリーは、なかなかエドワードの手に捕まってくれない。

「ちょ・・・こら、爪立てんなよ!いてっ!」

捕まえようとするエドワードの手に爪を立てたり、指を噛んだりと暴れたが
何とかエドワードは、ホリーを抱き上げた。

「脅かして悪かったってば」

そう言いながらエドワードが喉を撫でやっても、ホリーはなかなか警戒態勢を解いてくれない。
エドワードの両腕の中で、逃げようとジタバタと手足を動かして暴れている。
5歳児の力では、全力で暴れる猫を抑えるのは容易ではない。
エドワードは、両の腕にますます力を込めた。

「もー暴れんなって!」

「暴れているのは君だろう」

「・・・へっ!?」

聞き慣れた声が背後からしたと思ったら、振り返る間もなくホリーを抱いたまま
ぐいっと首根っこを掴まれて、持ち上げられた。
両足が地面から浮いて、プラプラと揺れる。

「これはどういうことだろうねぇ、鋼の」

いつもより持ち上げられている分だけずっと近く聞こえる自分を呼ぶ声。
この声の主は・・・・・・

「・・・・・・・・・大佐!」

エドワードが弾かれたように顔を上げると、そこにはいつもの見慣れた面々がいた。
ロイだけでなく、ホークアイやハボックまでいる。

「あ・・・あれ?皆なんでこんなとこにいんの?」

「親切な住民からの通報でね。
 裏路地で錬金術師らしき人物が暴れていると」

「え・・・それって・・・」

「スカーでも現れたかと思って来てみれば・・・」

ロイは最後に、はぁ・・・と大きくため息を吐いた。

エドワードが改めて見てみると、裏路地から大通りへ続く道は錬成された大きな壁で
塞がれているし、家と家の細い隙間も同じように錬金術で塞がれている。
ホリーを捕まえる為に錬成した壁のおかげで、その辺りの地面は少々陥没しているし
この裏路地に面している家の壁も一部が崩れてしまっていた。
それに、錬成時の衝撃で多少なりとも家屋が揺れるなどの影響もあっただろう。

「えっと・・・・・・」

明らかにまずいといった表情で俯くエドワードに、ロイは先程と同じセリフを言った。

「わかったかね?暴れているのは君だ」





「だってっ・・・だって、しょうがなかったんだもん!!」

あれからロイに首根っこを掴まれたまま、司令部へと連れ帰られたエドワードは
頭を捻って、精一杯の言い訳をしてみるけれど、自分を抱えている男には
そんなものは一切通用しない。

「何が『だって』で『しょうがない』だ。
 猫一匹捕まえるのに、街を破壊する馬鹿がどこにいる」

案の定、言い訳もバッサリと一刀両断されて
執務室に着いて早々に剥き出しにされたお尻にはバチンッ!!と大きな掌を落とされる。

「ひぁっ・・・でも・・・でもっ・・・」

エドワードが膝の上で言い訳をしながらジタバタと抵抗しても、一向にロイは動じない。

「今は5歳児だが・・・君は仮にも軍属の人間だろう。
 街の治安を維持するのが仕事なはずの人間が、逆に破壊してどうするんだ、まったく」

半ば呆れ気味の口調でのお説教を聞かされながら
更には容赦なくお尻に平手が飛んでくる。
甲高い音がはじける度に、エドワードの三つ編みがビクンッと上下に揺れた。

「むやみやたらと錬金術を使うんじゃない」

バチンッ!!バチンッ!!パァンッ!!

「ふぇぇっ・・・だってぇ・・・・・・ぐすっ」

「『だって』じゃない」

パァンッ!!バチンッ!!バチンッ!!

「やだぁっ・・・も、いたぃぃっ・・・うぇぇっ」

「少しは反省したまえ」

バチィンッ!!

「わぁぁんっ!!」

どんなに言い訳をしても、どんなにジタバタともがいても
ロイの膝から逃れることなんて出来なくて。

「も、やだぁっ・・・いたぁぃ・・・ふぇぇんっ」

5歳児の小さなお尻には、大人の男の掌がすっぽりと収まってしまうから
平手が振り下ろされる度に痛みは全体に広がって
エドワードのお尻は真っ赤になって熱を持ってしまっている。
お尻はヒリヒリと痛むし、怒っているロイは怖いしで
エドワードは鼻を鳴らしながらグスグスと泣きじゃくった。
それなのに、ロイの厳しい平手打ちは止まってくれる気配を見せない。

「いたぁっ・・・も、やぁ・・・たいさ・・・おねがいぃっ・・・」

両掌できゅっとロイの膝にしがみついて、エドワードがお願いしても
パシパシとロイの足を叩いても、ロイはエドワードをぎゅっと抱え直しては
お尻にバチンッ!!と大きな手で赤い跡をつける。

「まったく・・・どうしてこう毎度毎度、問題ばかり起こすんだ」

「ぐすっ・・・やっ・・・だってぇっ・・・」

「『だって』じゃないと何度言わせる」

「ふぇぇっ・・・も、やだぁーッ!!」

執務室から時折漏れてくる甲高い音と、お説教の声と泣き声と。
その三重奏を聴きながら

「『ごめんなさい』までもう少しかな・・・・・・」

執務室の扉の前に座り込んでいたアルフォンスは独り言を漏らす。

「兄さんのお仕置きが終わったら、飼い主さんの所に送って行ってあげるからね」

そう語りかけながら、腕に抱いたホリーの首を撫でてやると

「にゃぁ〜ぉ」

ホリーはゴロゴロと喉を鳴らしながら、気持ち良さそうにアルフォンスの手に
顔を摺り寄せて返事をした。





その日の夜、バキバキと凝った肩を鳴らしながら、ロイは家路へと着いた。
スカーの襲撃かと隊を動かしたおかげで、余計な書類にサインをする羽目になり
結局は残業になってしまった。
まさか5歳児になっているエドワードに始末書を書かせるわけにもいかず
ロイが適当な理由を考えて書類を作成したのである。

「はぁ・・・・・・」

今日の定時は18時の予定だったのだが、エドワードの騒動のおかげで
家に帰りついたのは結局21時半。
少々のため息も漏れるというものである。

ロイが疲れた様子で玄関扉を開けると

「「おかえりなさーい」」

元気な子供の声が二重に響いた。

「大佐、早く早く!!」

ロイがただいまを言うよりも前に、エドワードがロイの腕を引っ張って
廊下をズンズン進んで行く。

「一体何事だね!?」

「リビングに来ればわかりますよ」

いつもならエドワードを抑えるアルフォンスまで、ロイの背中を押して
リビングへと誘導していく。

「???」

何が起ころうとしているのか、はたまた起こったのか。
ロイは何も知らされないまま、二人の誘導でリビングへと足を踏み入れた。

「これは・・・・・・・・・」

リビングのテーブルには、サラダやシチューなどの料理の他にも
綺麗に盛り付けられたお皿が所狭しと並び、更には大きなケーキがワンホール。
ご丁寧にワインまで用意してある。

今日はロイの誕生日でもなければ、エドワードかアルフォンスの誕生日でもない。
今まで一人で暮らしてきたロイにとって、こんなに豪勢なダイニングテーブルは初めてで
ロイはテーブルを見ながら目を丸くした。

「今日はやけに豪勢じゃないか。
 何か特別な記念日なのかね?」

ロイがそう二人に問うと、エドワードとアルフォンスはお互いに顔を見合わせて
合図するようにコクンと二人ともが頷いた。

「えと・・・今日は・・・」

「いつもお世話になってるから、大佐にお礼をする日にしたんです」

「・・・・・・私に?」

二人の言葉に、ロイはますます目を丸くした。

「僕からは、この料理を・・・って言っても、材料費は
大佐が出してくれた食費から出てるんですけど・・・」

アルフォンスはそう言いながら苦笑い。

「オレからは・・・はい、コレ」

そう言いながらエドワードはおずおずとライトブルーの封筒をロイに手渡した。
宛名にはぶっきらぼうな文字で『大佐へ』と一言だけ。

「・・・君らしいな」

ロイは、エドワードらしい宛名書きにクスクスと笑いながら封を切る。
すると、中からは何枚かの画用紙が出てきた。

「これは・・・・・・」

ピラッとそのうちの一枚を取って見てみると・・・
『おてつだい券』とエドワードの文字で書かれている。

「ほぅ・・・・・・」

ロイがしげしげと券を見ている隣で、エドワードは顔を赤くしながら
ぷいっとそっぽを向いた。

昼間は、猫を捜して東部の街を駆けずり回った。
そして、何とかお目当ての猫を捜し出した。
猫を捕まえるのに少々夢中になりすぎて、お仕置きもされたけれど
これで飼い主からお礼がもらえれば、ロイに何か買って贈ることが出来る。
そう思っていたのだけれど、そうそう事は上手く運ばなかった。

エドワードとアルフォンスが、ホリーを連れて飼い主の所へ行って
ドアのベルを鳴らして用件を伝えたところ、勢い良く家から飛び出してきたのは
幼い兄妹だった。

話を聞けば、この家は両親が仕事で不在がちで、幼い兄と妹は
いつも二人きりで留守番をしているという。
そんな兄妹の友達といえば、今回エドワードが捜し出してきた黒猫のホリーだけ。

けれどある日、ホリーは公園で目を離した隙にいなくなってしまったらしい。
散々捜しても見つからなくて、途方にくれた兄と妹は、ホリーの似顔絵を書いて
ビラを作ったというわけだった。

今は5歳児とはいえ、エドワードはれっきとした15歳。
どう見ても自分よりも年下の幼い兄妹から、お礼をもらう気にはなれなかった。
それに、嬉し涙を流してホリーを抱きしめている二人を見ていると
自分は良いことをしたんだと思えて嬉しかったし、それだけで満足だった。
だから、エドワードは何もお礼を貰わずに兄妹とホリーの元から帰ってきた。

けれど、そうなってくると、ロイへのプレゼントの件は振り出しに戻るわけで。
結局、どうしようもなくなってしまったエドワードは、自身が幼い頃
母にそうしたように、手作りの品をロイに贈ることにしたのである。

「『おてつだい券』・・・ね」

言いながらロイは、赤い顔をしてそっぽを向いているエドワードを見やると
エドワードがボソリと呟いた。

「・・・コレで貸し借りなしだからな」

「・・・なるほど。せいぜい大事に使わせてもらうとするよ」

エドワードの彼らしい返答に、ロイはクスクスと笑う。

今までにもプレゼントはそれこそ山のように貰ったことがある。
誕生日、バレンタイン、クリスマスはもちろん、何かの記念日でなくても
ただ街を歩くだけで、ラブレターと一緒に手作りのクッキーやら花束やらが女性達から贈られた。

けれど、今日はその『いつも』とは何かが違う。

「ほら、大佐早く座ってくださいよ。
 兄さんにも手伝ってもらって、いっぱい作ったんですから」

ロイからしてみれば、まだまだ子供な二人が、自分達に出来る範囲で
一生懸命ロイのためにと考えてくれた気持ちが、何よりもロイには嬉しかった。

「あ、このサラダ盛ったのオレなんだ!
 結構、上手く出来てると思わねぇー?」

何でもなく過ぎるはずだった今日が、こんなにも特別な日に変わったのは
きっとエドワードとアルフォンスの二人のおかげ。

ロイは、腕を取ってロイを席へと引っ張ろうとする子供達の頭に手をやると

「・・・ありがとう。私は果報者だな」

そっと撫でて、ふわりと笑った。





何でもなく過ぎていくはずの平日も、ちょっとしたことでこんなにも特別な記念日に変わる。
あなたが笑ってくれるなら。