ぷちらば


10.懲罰房の怪

太陽もまだ昇りきらぬ、午前5時30分。

「・・・連れてけったら、連れてけ〜ッ!!」

ロイ・マスタング邸の玄関先からは、子供特有の甲高い声が響いていた。

(・・・また大佐は遅刻だな、こりゃ・・・)

上官を車で迎えにやってきたハボックは、またか・・・と、慣れた様子で懐からタバコを取り出すと
静かに火を点け、そっと口付けた。

今頃、上官は四苦八苦していることだろう。
相手は外見は5歳、しかしながら中身は15歳という何とも厄介なお子様。
しかも国家資格まで取ってしまうほどの才能と頭脳の持ち主である。
あの子供相手では、いかに切れ者と名高い上官でも、タバコ1本吸うぐらいの時間はかかるはずである。

「早くしてくれないと、俺まで中尉にどやされるんだがなぁ・・・・・・」

ハボックは煙をくゆらせながらも、司令部で待っている優秀な補佐官の顔が頭に浮かんで
早くしてくれよと、祈るような気持ちで、上官の邸宅の玄関扉が開かれるのを待っていた。





その日の朝、いつもなら当然寝ているエドワードが、自分が身支度を整えた頃に起き出して来た時点で
かなり嫌な予感はしていた。
これは何かある・・・ロイの第六感は、そう告げており、現にその予感は当たることとなる。

「連れてけってばぁッ!!」

「こら、離しなさい鋼の」

「やだッ!!連れてってくんないなら、離してやんねぇッ!!」

ロイはエドワードが引っ付いた右腕をずりながら、玄関扉までの廊下を重い足取りで歩いていた。
5歳児程度の子供とはいえ、エドワードの右腕・左足には機械鎧が付けられている。
自身に全く歩く意思が無いエドワードは、かなり重い荷物のようだ。

「だから・・・今日は忙しいから、司令部には連れて行けないと、昨日何度も言っただろう?」

ロイはエドワードを説得しながらも、ズリズリと重い足取りで玄関に向かう。

「だってっ・・・昨日、読みかけたヤツの続き、見たいんだよ!!
 資料室にでも篭って大人しくしてるってば!!」

引きずられながら、エドワードも何とかロイに自分を司令部に連れて行くように説得を始める。

「君はそんなことを言いながら、いつも何かと問題を起こすじゃないか・・・。
 それに今日は、他の支部からお偉方が視察に来るんでね。
 子供が出入りしていては具合が悪いんだよ」

ロイは何とか腕を振りほどこうとするが、エドワードはロイの腕をなかなか離さない。

昨日、読みかけた資料は禁帯出だったから、借りることも出来ず、仕方なく諦めて帰ったけれど
いつもなら、徹夜してでも資料室に篭って読んでいるはずなのだ。
一日でも早くこの5歳の生活から抜け出したいエドワードとしては、昨日読めなかったのだから
今日読んでしまわなければ気がすまない。

「やだっ!!絶対、行く!!」

ロイの腕にしがみついて、エドワードは必死に叫ぶ。

「ダメだと言っているだろう?」

「絶対、やだ!!資料見たいッ!!」

とことん頑固なエドワードに、ロイは半ば呆れて、はぁ〜・・・と深くため息を吐いた。
出勤前に余計な気力は使いたくないものである。

「鋼の・・・・・・いい加減にしなさい」

ふいにロイが足を止めて、右腕にぶら下がっているエドワードを見る。

「・・・だってっ・・・・・・!!」

いつまでも聞き分けなく駄々をこねるエドワードに業を煮やしたロイは、少しばかりきつくエドワードを睨む。

「『だって』・・・何だね?」

キッと睨まれたエドワードはと言えば、肩をびくつかせて

「う・・・だ、だって・・・・・・続き・・・気になるじゃんか・・・・・・」

先程までの元気さとは打って変わって、少々トーンダウンしてしまう。

ここで下手に逆らうと、ロイの膝の上でお尻が真っ赤になるまでたっぷりとぶたれて
顔は涙でぐしゃぐしゃになるまで泣かされる・・・そんな容赦のないお仕置きが待っているのだ。
こういう顔をしている時のロイには逆らわない方が良い。
この20日間ばかりの生活で、エドワードが経験から学んだことのひとつである。

「・・・大佐だって・・・オレが元に戻るのに協力してくれるって・・・言ったじゃんか・・・」

お尻が痛くなるのが嫌なエドワードは、内心怯えながらも、まだロイの腕を離そうとはせず
拗ねた顔つきで不平をもらす。

「・・・鋼の、軍には『懲罰房』というものがあってね・・・」

「・・・は?ちょーばつ・・・??」

突然話題を変えたロイを、エドワードは不思議そうに見上げ、『懲罰房』の言葉に首をかしげた。

「主に規則違反者などが収容されるわけだが・・・・・・
 そこでは、それはそれは厳しい罰が待っていてねぇ。
 ひとたび収容されれば、子供であろうと関係ない。
 真っ暗な部屋で裸に引ん剥かれて、決められた罰の分だけ鞭打たれる。
 皮膚が破れて血が出ても、どれだけ泣き喚いても、罰が終わるまでは決して許されることは無い」

「なっ・・・・・・そ、そんなの・・・嘘だろ・・・」

ロイの言葉をリアルに想像してしまったから、嘘だとわかっていても、つい声が怯え気味になってしまう。

「嘘かどうか、自分で確かめてみるかね?
 君のような聞き分けのない子は、特に厳しく罰せられるぞ?」

「なっ・・・・・・そ、そんな脅しには乗らないからなッ!!
 そんなこと言って脅かして、オレのこと、連れてかない気なんだろ!!」

エドワードにとっては、『懲罰房』の恐ろしさよりも、資料を見たいという気持ちの方が勝る。
エドワードは脅しにも屈服することなく、再度ロイの腕を強く引っ張った。

これだけ言っても、まだ駄々をこねるエドワードを見て、ロイはほとほと呆れた。
この子供は目的のためなら、とことん頑固になるらしい。
このままでは、いつまでも問題は解決しそうにない。
外に部下を待たせているし、これ以上言い争っても埒が明かない。

「・・・しょうがない・・・そこまで言うのなら、連れて行ってやろう・・・」

「やったっ!!」

「ただし・・・絶対に大人しくしていること!!
 言いつけを守らなかったらどうなるか・・・わかっているね?」

「わかってる、わかってる〜!!」

一応、釘を刺しておいたものの、資料が読めると思ってご機嫌なエドワードの耳には
その忠告は、届いているのやら、いないのやら・・・・・・。
ロイはまたしても深くため息を吐きながら、部下の待っている玄関扉を開いた。





ロイとエドワードが司令部に到着し、並んで廊下を歩いていると、周りをキョロキョロと見回しながら
ホークアイが歩いて来た。

「おはよう、ホークアイ中尉。何か探しものかね?」

ロイがそう声を掛けると、ホークアイもこちらに気付いたようで

「あ、おはようございます。大佐・・・それにエドワード君も」

ロイにはいつものようにキリッとした表情で、エドワードには少し微笑んで挨拶を寄こした。

「中尉、何か探してんの?キョロキョロしてたけど・・・」

「ええ・・・まぁ、そんなところよ」

そう言いながらホークアイは、エドワードの頭を軽く撫でた。
他の人にこうされたら、エドワードは怒るのだが、ホークアイにだけは怒らない。
それは相手が女性だから手を上げられないというのもあるけれど、エドワードにとって彼女は
何と言っても、味方だからである。
エドワードがロイにお仕置きされていると、いつもそれとなく助けてくれるのだ。

「大佐、昼からの予定についてですが・・・・・・」

エドワードの頭から手を離したホークアイは、ロイに今日の予定について話し始めた。

「ああ、視察の・・・・・・」

ロイはホークアイに答えようとして口を開いたが

「・・・鋼の、ここからは一人で資料室に行けるな?」

ふと視線をエドワードに移してそう言った。

「資料室ぐらい、一人で行けるってのッ!!」

子供扱いされたのが、なんだかバカにされたように感じられて、エドワードはぷぅっと頬を膨らませながら
ズンズンと資料室に向かって行った。





「ふぁ〜〜〜〜〜っ・・・!!
 はぁ・・・またハズレだったし・・・・・・オレ、いつになったら戻れるんだろ・・・」

エドワードが大きな欠伸をしながら、資料室から出てきた時には、もう陽はすっかり昇って
時計の針は正午を指していた。
結局、あの資料には、エドワードが15歳の身体に戻る術は記されていなかった。
あの資料に望みを託して、早朝から奮闘したというのに、空振りの結果に終わってしまい
エドワードは口を尖らせて、機嫌悪くブツブツと文句をもらしながら廊下を歩いていた。
執務室にいるであろうロイに、何とか交渉して、子供は出入り禁止の軍の図書館での閲覧を許可してもらう為である。

「大佐ぁ〜・・・あの資料ハズレだった〜・・・」

そう言いながら、執務室の扉を開けたエドワードだったが、残念ながらそこに部屋の主はいなかった。

「あ〜もう、なんだよ・・・いつもは書類の山に埋もれてんのに・・・」

いつもは必ずと言って良いほどこの部屋にいるロイがいないことで、エドワードはますます口を尖らせた。

「いつもは偉そうに座ってるだけで、全然仕事してないくせにぃ・・・」

イライラが募ってしまって、八つ当たりとはわかっていながらも、エドワードはガンッ!と主のいない机を蹴り上げた。

ガシャンッ!!

「あ・・・・・・」

そんなに強く蹴ったつもりはなかったのだが、机の上においてあったファイルが飛んで
机の後ろの窓に見事にヒットした。
エドワードは慌てて窓に走り寄った。
ここは4階なので、階下に人がいないかを確かめる。

「・・・・・・・・・げっ・・・」

割れた窓の隙間から覗けば、ガラスは刺さった様子ではないが、勢い余って外にまで飛んでいったファイルが
頭に直撃したのか、手で押さえながら立ち止まっている軍人がいた。

「・・・・・・ん?あれって・・・」

その軍人をよく見てみると・・・漆黒の髪の持ち主で、周りの軍人達の焦り具合から察するに
どうやら階級はなかなかに高いようだ。
そして、頭を押さえている手にはめられている手袋には、何やら紋章のようなものが刻まれていて・・・・・・

「やばっ・・・たっ、大佐だッ!!」

エドワードは、わたわたと慌てた。
全く知らない人物に被害が及ぶよりは、ロイに及んだ方がマシのような気もするけれど
こんな騒ぎを起こしたとなると、間違いなくお仕置きだろう。
恐る恐る、ちらっと窓から顔を出すと

「今からそこに行くから待っていなさい!!」

4階まで届く怒声と、鋭い視線で射抜かれて、エドワードはびくんっと肩を大きく震わせた。
ロイは周りの軍人に後片付けの指示を出すと、自分は足早に執務室に向かい始めた。

ロイは今までエドワードがイタズラをしたり、無茶をしても、怒鳴ったりはしなかった。
怒ってはいるけれど、いつも静かに、諭すようにお説教された。
だが今回は先程の声から判別するに、どう考えてもかなり怒っている。
お尻が真っ赤になっても、何回『ごめんなさい』を言っても、今日は許してもらえないかもしれない。
そう考えると、エドワードは何だか急にロイが怖くなって、思わず執務室を飛び出してしまった。





ロイから逃れる為に、闇雲に司令部内をぐるぐると走り廻って、エドワードは今現在、2階にいた。

「はぁっ・・・・・・はぁっ・・・・・・」

思い切り走り続けたので、息もあがる。
お仕置きが怖くて逃げているなんて、何だか情けないような気もするけれど、やっぱり痛いのは嫌で。
何が何でも逃げてやる、と意気込んだエドワードは、疲れて重たくなった足ででも、少しでも遠くへ逃げようと
立ち止まることなく、ぽてぽてと歩き出した。

廊下の曲がり角を曲がった瞬間、エドワードはボスッと壁のようなものにぶち当たった。

「ふぁっ!?」

まず目に飛び込んできたのは、見慣れた軍服の蒼色。
恐る恐る顔を上げてみれば・・・・・・

「・・・やぁ、鋼の。こんなところで会うとは奇遇だねぇ・・・」

恐ろしいまでに綺麗に微笑むロイ。
ビクッとエドワードが固まってしまった瞬間、ロイはエドワードを小脇に抱え込んだ。

「やっ・・・・・・わぁっ!!」

ロイはそのままエドワードを抱えて、スタスタと歩き出す。

「やっ・・・大佐、あのっ・・・!!」

捕まってしまった以上、お仕置きされるのは確実なので、何とか少しでも軽くしてもらおうと
エドワードは必死で上手い言い訳を探す。

「大佐っ・・・その、あれはっ・・・!!」

エドワードが何を言っても、ロイはただスタスタと歩を進めるだけで、何も答えない。
ロイは廊下の突き当りまで来ると、そのまま階段を下り始めた。

「え・・・大佐・・・?ど、どこ行くの・・・?」

ロイの執務室は4階である。そして、ここは2階。
司令部内で何かやらかした時は、今までロイの執務室でお仕置きされてきた。
当然4階に上るのに、階段を下りるハズがない。

「なぁ、大佐・・・・・・大佐ってばぁっ!!」

エドワードが何を言っても、ロイは何も答えず、黙々と階段を下りて行き、遂に地下に来てしまった。
地下の廊下はひんやりと冷たく、コツン、コツンと、軍靴の音が反響する。
何を言っても答えてくれないロイが余計に怖くて、エドワードは不安で今にも泣きそうになる。

薄暗い廊下を通っているうちに、ロイがピタリと足を止め、ギギギと低い音をたてて、扉を開く。

「たっ・・・・・・大佐!?」

エドワードはロイの小脇から降ろされたかと思うと、今度は首根っこを掴まれた。

「やっ・・・何すっ・・・!!」

バタバタと暴れるエドワードの耳に、ロイは低く囁く。

「ここが『懲罰房』だよ、鋼の」

「えっ・・・・・・?」

『懲罰房』の言葉に、エドワードは思わずピタリと反抗を止めた。

「君のような悪い子には、ここがお似合いだ」

「え・・・・・・なっ!?」

「いい子になるまで、ここで鞭打たれて、しっかり反省してきたまえ」

「やっ・・・・・・やだぁっ!!」

ロイはエドワードの首根っこを掴んだまま腕を振り上げ、真っ暗な扉の向こうへ、ぽいっとエドワードを放り投げた。

「おわぁっ!!」

エドワードを放り投げると、ロイはそのまま、ギギギと音の鳴る重い扉を閉じた。

「え・・・やっ・・・大佐ちょっと待っ・・・!!」

真っ暗な中へ放り投げられたエドワードは、必死で扉に縋りついたが
無情にも閉じられた扉はガチャリと外から鍵までかけられてしまった。





地下の部屋のせいか、室内の空気はひんやりと冷たい。
窓がない為、光が全く入らず、部屋の中は真っ暗。
長く使われてないのか、少々カビっぽい臭いも鼻につく。

「大佐っ・・・開けてってばぁっ!!」

ガンガンと重い扉をいくら叩いても、手が痛くなるだけで外からは何の反応も返ってこない。

ひんやりとした空気に、ひとすじの光も差し込まない真っ暗な部屋。
そこから自然と思い起こされるのは、今朝ロイが言った言葉・・・・・・

『そこでは、それはそれは厳しい罰が待っていてねぇ。
 ひとたび収容されれば、子供であろうと関係ない。
 真っ暗な部屋で裸に引ん剥かれて、決められた罰の分だけ鞭打たれる。
 皮膚が破れて血が出ても、どれだけ泣き喚いても、罰が終わるまでは決して許されることは無い』

エドワードはぶんぶんと頭を大きく振った。
自分が鞭打たれる姿なんて、想像したくもない。

ビクビクと怯えていたエドワードは

「・・・・・・・・・・・・・・・ッ!?」

ふっと背後に『何か』の気配を感じた。

『・・・真っ暗な部屋で裸に引ん剥かれて・・・』

さっき思い出してしまったロイの言葉が、頭から離れない。

『・・・皮膚が破れて血が出ても、どれだけ泣き喚いても、罰が終わるまでは・・・』

エドワードは恐ろしさのあまり、後ろを振り返ることも出来ない。

「・・・うっ・・・・・・ぐすっ・・・・・・」

エドワードが目にいっぱいの涙を溜め込んでも、背後にいる『何か』は、どんどんこちらに気配を近づけてくる。

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!」

ヒタヒタ、と小さな足音に、はぁはぁ、と息づかいまで聞こえてくる。

「や、やだぁっ!!たいさっ、たいさぁ〜っ!!」

あまりの恐怖に耐え切れなくなったエドワードは、手が痛くなるのも構わずに
ガンガンと扉を叩いて必死にロイを呼んだ。

「ふぇぇっ・・・やだぁっ、ちょーばつ・・・やだぁっ!!」

だが、どれだけ扉を叩いても、ロイを呼んでも、やはり反応は返ってこない。
それでもエドワードは必死で叫ぶ。

「ふえぇぇっ・・・・・・たいさ、おねがっ・・・・・・やだぁっ!!」

背後から近づいてくる息づかいが、どんどん大きく聞こえてくる。

「やだっ・・・・・・たいさ、ごめ・・・なさっ・・・・・・ふぇぇっ・・・
 ちゃんと・・・言うこときくっ・・・ワガママ・・・言わないからぁっ!!・・・ここ、やだぁっ!!」

エドワードはなりふり構わず泣きじゃくって、必死に扉を叩いた。

「ふぇぇっ・・・たいさ、ごめ・・・なさっ・・・・・・いい子になるからぁっ!!」

エドワードが悲鳴に近い声で叫んだ瞬間・・・

・・・・・・・・・ガチャンッ

鍵が外れる音がして、真っ暗だった部屋に少しだけ光が漏れる。
その光は徐々に部屋中を照らしていき

「・・・まったく・・・君はホントに手がかかるな・・・」

エドワードは開かれた扉の前に立つロイを見ることが出来た。

「た・・・いさ・・・?」

助かった、という安堵から、エドワードはまたボロボロと大粒の涙を零した。

「しっかり反省できたかね?」

「・・・ふぇぇ〜っ・・・」

ふらふらとロイの前まで行くと、軍服を手でしっかりと握って、ぽすっと顔を埋め
そのまま、グスグスと泣きじゃくる。

「安心したまえ、この部屋はただの倉庫だよ。ついでに『懲罰房』なんてものは存在しない。
 ・・・それにしても、ここまで効果覿面だとはねぇ・・・・・・」

いつもなら錬金術でも何でも使って、ドアをぶち壊してでも脱出を試みる性格のエドワードが
それをしなかったことをロイは不思議に思いながら、エドワードの頭をそっと撫でてやる。

「ふぇぇっ・・・だって・・・・・・なんか・・・いた・・・」

エドワードは背後から迫る来る『何か』に怯えるあまり、錬金術で脱出するという考えにまで頭が回らなかったのだ。

「『何か』がいた?」

ここは倉庫であって、エドワードが言うような『何か』など、いないハズなのだが・・・・・・。
ロイが真っ暗な倉庫に目をやろうとした瞬間、その『何か』が飛んできて、エドワードの背中に貼りついた。

「ぎにゃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッ!!!!」

背後から突然『何か』が背中に貼りついて、エドワードはガシッと、勢いよくロイの腰にしがみついた。

「うおっ!?」

イキナリしがみつかれたロイは、バランスを崩し、そのまま勢いでドスンと尻餅をつく。

「うぇぇっ・・・・・やだっ、ちょーばつやだぁっ!!」

『懲罰房』の話を信じ込んでしまっているエドワードは、完全にパニックだ。
がっしりとロイの腰にしがみついて、エドワードはビクビクと怯えて泣き喚く。

「・・・鋼の、そんなに怯えて泣いては、『彼』が可哀相だよ?」

ロイはエドワードの背中に貼りついた『何か』を掴むと、クスクスと苦笑した。

「へっ・・・・・・『彼』??」

「あら・・・こんなところで遊んでいたのね。
 目を離すと、すぐどこかへ行ってしまうんだから・・・・・・」

聞き慣れた声がすると思ったら、いつの間に来たのか、廊下にはホークアイが立っていた。
ということは・・・・・・

「ブラックハヤテ号ッ!?」

そう結論付けたエドワードを肯定するかのように、背中から、わんっ!と鳴き声が聞こえ
振り返れば、頬を伝う涙をぺロリと舌で舐められた。

「すみません、大佐。ウチのブラックハヤテ号が何かしませんでしたか?」

「いや、何も。・・・ただ、鋼のは彼のことを懲罰執行人と思ったらしいがね」

ロイはそう言って、おかしそうに笑った。





「さて・・・反省しているなら、自分から来れるね?」

そう言ってロイは、ぽんっと自身の膝を叩く。
あの後、安心して腰が抜けてしまったエドワードは、行きと同じくロイに抱えられて執務室まで帰ってきた。
そして、いつもの椅子に座ったロイの前に立たされている。

「反省・・・したから・・・・・・もういいじゃんか・・・」

さっきは本当に怖い思いをして、あれだけ泣いたのに、ここで更にロイに泣かされたら
身体中の水分が足りなくなるんじゃないかとさえ思う。
けれど、エドワードはこれから自分の身に起こることを思うと、やはり怖くて、ぎゅっとズボンを握り締めながら
また泣きそうになってしまう。

「『いい子になる』んだろう?」

「うっ・・・・・・」

「『いい子』は『ちゃんと言うことを聞く』から、こんな時に『ワガママは言わない』んじゃないのかね?」

「うぅっ・・・・・・」

先程のあの暗い部屋の中から、外へ出してもらう為に口走った自分の言葉を
そっくりそのまま引用されて、エドワードは言い返すことも出来ない。
恥ずかしいやら、悔しいやらで、エドワードは顔を真っ赤にして黙り込んでしまった。

「鋼の・・・素直に来れないなら、100回じゃ済まないぞ?」

「うぅ・・・・・・・・・」

「それとも鋼のは、鞭打たれる方が良いのかね?」

「・・・・・・いじわる・・・」

「おいで」

ロイに軽く手招きされて、エドワードは覚悟を決めて、おずおずとロイに歩み寄った。
丁度、ロイの膝の前まで来た瞬間に、ひょいっと軽く持ち上げられて、膝の上にうつ伏せにさせられる。

「今日の君は、朝から聞き分けなくワガママを言ったり、八つ当たりでモノを壊したり・・・・・・
 大人しくしていると約束したのに、全然守らなかったから、こういう痛い目に遭うんだよ」

そう言いながらロイは、エドワードのズボンを下着ごと下げて、お尻を剥き出しにした。

「や・・・やっぱ、やっ・・・・・・」

何度お仕置きされても、この瞬間の感情は消えない。
これから痛い目に遭わされるという恐怖と、膝の上でお尻を剥き出しにして晒される恥ずかしさ。
だから、ついつい反抗的な態度を取ってしまう。
けれど、お仕置きが始まってしまえば、お尻が痛くて痛くて、それもどこかへ吹っ飛んでしまうのだが。

「反省しなさい」

ロイは短くそう告げると、右手を大きく振り上げた。

パンッ!!パァンッ!!パァンッ!!

「やっ・・・・・・ひたぁっ・・・・・・ひぅっ」

いくら覚悟して、自ら自分の前に来たところで、優しくしてやるほど、ロイは甘い男ではなかった。

バチンッ!!パンッ!!パンッ!!パァンッ!!

「ふぇぇっ・・・ちゃんと、はんせ・・・したからぁっ・・・うわあぁんッ!!」

容赦なく平手を振り下ろされて、エドワードは案の定、泣き出してしまう。

パァンッ!!パンッ!!パンッ!!バチンッ!!

「うぇぇっ・・・・・・も、しないぃっ・・・・・・ふぇぇっ!!」

「君はいつもいつも『もうしない』と言っている気がするが?」

ロイはエドワードに問いながらも、叩く手を緩めてはやらない。

パンッ!!パンッ!!パンッ!!バチィンッ!!

「やっ・・・・・・ホントにっ・・・も、しな・・・からぁっ・・・ひぅっ」

エドワードは、ロイのズボンをぎゅっと握り締めて、泣きながら必死で訴える。

パァンッ!!パンッ!!バチィンッ!!

「も、やだぁっ・・・・・・たいさ、ごめっ・・・・・・うわあぁんッ!!」

「何が『ごめんなさい』か、ちゃんと言いなさい」

エドワードのお尻は既に赤くなっていて、ジンジンと熱を持っていたが
何が悪かったかを言わせるまでは、手を止めるわけにはいかない。
ロイは赤なっているエドワードのお尻に、さらにバチンッバチンッと、平手を与える。

「ふぇぇっ・・・あさっ・・・ワガママ・・・言ったぁっ!!」

「それから?」

「ひくっ・・・・・それからっ・・・・・・」

「ほら、次」

ロイはペチペチとエドワードのお尻をはたいて促す。

「それからっ・・・・・・やつあたりっ・・・ふぇぇっ」

「まだあるだろう?」

「も、やぁっ・・・」

お尻が痛くてたまらないエドワードは、何とか膝から降りようと、腰を揺すってジタバタと暴れる。

「こら、ちゃんと答えないといつまで経っても終わらないぞ?」

そう言ってロイは少し強く平手を振り下ろす。

「うわぁんっ!!」

エドワードのお尻はもう真っ赤に染まっていて、はたかれるだけでも痛い。
それなのに、これ以上ロイの容赦のない平手打ちに耐えられるわけがない。
エドワードは泣きじゃくりながら、必死で答えを探す。

「ふぇぇっ・・・にげたっ・・・にげたことっ!!」

ボロボロと涙を零しながら、エドワードは必死に答えた。

「他には?」

「おとなしくっ・・・って、いいつけ・・・まもんなかったからぁっ!!」

「はい、よくできました」

パァンッ!!パァンッ!!バチィンッ!!

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッ!!!!」

最後に手加減のない、きつ〜い平手を3回喰らって、エドワードは声にならない悲鳴を上げた。





「どうしても、軍の図書館に行きたいんだってばっ!!」

「ダメだ。許可は出せない」

「だからっ・・・どうしても読みたいって言ってんじゃんかっ!!」

「・・・鋼の、軍には『拷問室』というのがあってね・・・」

その後、ロイがこういう類の話をする度に、エドワードは少しの間だけ、いい子になったとかならなかったとか。