ぷちらば


08.晴れ、時々、家出

きっかけが何だったかなんて、もう忘れた。
ただ、覚えてるのは、その日はとにかく快晴だったってことだけ。





「いたぁっ・・・・・・やだぁ、もうやめっ・・・・・ふぇぇっ・・・!!」

「まったく、君って子は・・・どこにいても何かと問題を起こすんだな・・・・・・」

エドワードが錬成のリバウンドで、5歳児程度に小さくなって約2週間。
アルフォンスが兄のためにと、なんとか頑張ってはいるものの、なかなか良い資料は見つからず
エドワードが元の15歳の身体に戻る気配は一向になかった。

そして5歳のエドワードは、今日も今日とてロイの膝の上。

「うぇっ・・・・・・も、やっ・・・うわぁんっ、アル〜ッ!!」

バチンバチンとお尻をきつくぶたれて、エドワードは我慢できずに遂に弟に助けを求める。
これではどちらが兄かわかったものではないが、この状況を脱する為には
もはや兄の威厳など気にしている場合ではなかった。
時にエドワードにも厳しいアルフォンスだが、何だかんだ言って、彼は最終的にはエドワードの味方である。
お尻が真っ赤になっているのを見れば、ロイにもう許してやってくれと、そう働きかけてくれるに違いない。
そう信じて、痛くて泣きじゃくりながらも、エドワードは助けを求めて、近くにいるであろう弟の名前を叫んだ。

「・・・・・・アルフォンス君なら、さっき資料室に出かけたぞ」

膝の上で泣きじゃくりながら必死に叫ぶエドワードに、ロイは冷たく告げる。

「そ、そんなぁっ・・・!!」

「さて・・・・・・鋼の。
『ごめんなさい』が素直に言えるまで、あとどれくらいだろうねぇ・・・?」

膝の上でがっくりとうなだれているエドワードに、ロイは意地の悪い笑みを浮かべて言うと
パチンッ!!と、お尻に平手打ちを再開した。





「う〜・・・・・・いたい〜っ・・・・・・」

ロイが会議に出かけてしまった為、一人きりになった執務室でエドワードがぼやく。
あれから『ごめんなさい』が素直に言えるまで、たっぷりと膝の上で反省させられた。
とにかく痛いし、早々に終わらせようと適当なところで『ごめんなさい』を言ったら
何故かそれがロイには感じ取れたようで、全然反省していないと言われ、更にきつくぶたれる羽目になってしまった。
おかげで、ズボンを穿いていても、上から触れるだけで熱を持っていることがわかるくらい
エドワードのお尻は真っ赤に染められている。

エドワードが小さくなって、一緒に暮らすようになってからのロイは、エドワードが危ない事をしたり
無茶な事をしたりすると、とにかくすぐに怒る。
嘘を吐いたり、約束を破った時は、特に容赦がない。

この間も、書斎にこもって徹夜で文献を読んでいたら、一度目は身体に良くないからと注意された。
だが、注意をされたぐらいでエドワードの文献への好奇心が当然揺らぐわけもない。
ロイが当直の日を狙って、再度同じことをしたら・・・・・・ものすごく厳しいお仕置きをされた。
泣き喚いて『ごめんなさい』と叫んでも、なかなか膝から解放してもらえず、椅子に座るのも辛くなるほど
たっぷりとぶたれて、その日は、大好きなシチューもお尻が痛くて、あまり食べる気にならなかった。

意外と心配性なロイは、何かとエドワードの事を気に掛けて心配しているから
だからこそお仕置きをしたりするのだが、エドワードはそんなことに全く気付いていない。
お仕置きされて『ごめんなさい』とは言うけれど、それは社交辞令のようなものでしかなく
実は内心いつかは絶対仕返ししてやる!と思っていたりする。
そうして仕返しを企てては、ロイにばれて、こっぴどくお仕置きされ、また仕返しを企てて・・・・・・
完全に自らがお仕置きの原因を作っているのだが、エドワードはそれにもまた気付いていない。

「くっそ〜・・・・・・今に見てろ、鬼大佐め・・・っ!!」

そして、今日もまたロイへの仕返しを考え始めていた。

と、そこへ執務室の扉の向こう側から、何やらボソボソと話し声が聞こえてきた。
何となく気になって、エドワードはそっと扉を開いて、顔を覗かせる。

「おい、聞いたか!?
マスタング大佐の隠し子疑惑!!」

「あれ、お前知らなかったのか!?
 こないだから、ここじゃその話題で持ちきりだぞ!?」

廊下の端から聞こえてくる会話。
軍人達のその話の内容を聞くに、どうやらロイの隠し子疑惑が東方司令部では浮上しているらしい。

「突然現れたんだけどな〜。大佐も認知したのか、今じゃ自分の家に住まわせてるらしいぜ」

「おいおい、あの大佐が認知するか〜!?
 どうせ気まぐれで家に住まわせて、暇つぶしにでもしてんじゃねぇの?」

「あはは、それが有力だな〜。大佐は子供嫌いだもんな。
 出世に利用できるんなら話は別かもしれないけど・・・ま、5歳ぐらいじゃありえねぇな」

「違いねぇ」

ハハハと笑いながら通り過ぎていく軍人達に見つからないように、エドワードは素早くドアを閉めて顔を引っ込めた。
どうやら先程の会話から察するに、ロイの家にいる5歳の隠し子というのは、まぎれもなく自分のことのようだ。
そのままドアにもたれかかって、ズリズリと座り込む。

(・・・オレが・・・・・・大佐の隠し子!?)

ロイ・マスタング大佐、29歳。
エドワード・エルリック、5歳(中身は15歳)。
確かに横に並んで歩けば、親子と間違われても仕方のない年齢差ではある。
だがしかし・・・・・・・・・

「何でよりによって、大佐の子供なんだ〜ッ!!」

エドワードは頭を抱えて、叫ぶ。
いけ好かない相手の子供だと噂されて嬉しいわけがない。
ただでさえ、今日も膝の上で子供がされるようにお尻をぶたれたのだ。
それどころか、小さくなってからというもの、ロイがエドワードのことをしょっちゅう子供扱いするので
実のところ困っているのだ。
プライドは崩されるし、普段から敵わないのだけれど、より一層それを感じさせられて悔しいし。
それに・・・・・・・・・

(なんか・・・5歳であることに順応してきたっていうか・・・・・・・・・)

お仕置きや子供扱いは嫌だけれど、褒められて頭を撫でられるのは、嫌じゃなかったり・・・。
嫌なのにどこかに受け止めている自分がいて、嫌なのに嫌じゃない、なんて複雑な心境になってしまっているようで
自分でもよくわからなくて困る。

「・・・・・・オレ、ずっとこのまんまだったらどうしよう・・・・・・」

自分が15歳の身体に戻れるのは、いつのことになるのか。
それは、明日かもしれないけれど、3年後なんてこともあり得るわけで。

今まで、弟の身体と、自分の右腕・左足を取り戻す為に、賢者の石を探し続けてきた。
その為に、軍の狗と罵られるのも覚悟の上で国家錬金術師の資格も取った。
それなのに今、こんなところで足止めを喰らっているわけにはいかないのに。

「・・・・・・オレ、いつ戻れるのかな・・・・・・・・・」

出口が全く見えず、エドワードは何とも言えない不安に襲われ始めていた。





エドワードが執務室で本棚にある錬金術書を漁っていると、廊下からカツカツと軍靴の音が聞こえてきた。
近づいてくる、と思った瞬間に扉が開かれて、この部屋の主が帰ってきた。

「・・・・・・・・・おかえり」

エドワードはサッと一瞬扉へ顔を向けてぶっきらぼうにそれだけ言うと、また視線を本に戻した。
5歳の生活に順応してきたとは言っても、やはりさっさと元に戻りたいに決まっている。

「おや・・・・・・今日は随分と大人しくしていたようだね」

ロイはつかつかとエドワードに歩み寄りながら、そう言った。
いつもならお仕置きの後にロイが席を外したりすると、絶対に仕返しだと言わんばかりに
イタズラを仕掛けてきたり、何かとトラブルを引き起こしていたりしたのだが、今日はそれがない。

「よしよし。いい子だね、鋼の」

そう言ってロイは、ぐりぐりとエドワードの頭を撫でて褒めてやる。
いつもなら、またロイの子供扱いが始まったと、拗ねるぐらいで済んでいたのだが
先程の言い知れぬ不安も手伝ってか、エドワードは思わずロイの手を払い落としてしまった。

「・・・・・・鋼の?」

頭を撫でられている時は、拗ねながらも比較的大人しくなるエドワードに手を払い落とされて
ロイは不思議そうにエドワードを見やる。

「・・・・・・あんたが・・・・・・そうやって子供扱いするから・・・ッ!!」

「・・・・・・どういうことだ・・・?」

「・・・子供嫌いなくせに、子供扱いすんな!!あんたのせいなんだからな、バカ大佐ッ!!」

「なっ・・・!?」

勢いに任せて叫ぶと、エドワードは持っていた本をロイに投げつけて、執務室を飛び出した。

「あっ、こら!!待ちなさい、鋼の!!」

後ろからロイの叫ぶ声が聞こえたが、それにはお構いなしにエドワードは廊下を駆けて行ってしまった。

「何なんだ、一体・・・・・・」

執務室に取り残されたロイは、エドワードの突然の行動が理解できず、しばらく呆然としていた。





「はぁっ・・・はぁっ・・・・・・」

司令部から勢いで飛び出して、エドワードは闇雲に走った。
途中で足をくじいたけれど、それでもまだ走って、気付けば街外れにある公園の長い階段の前にいた。
そこからは東部の街が見渡せる。空は快晴で、景色は文句なしに素晴らしい。
それなのに、自分の胸のもやもやは取れなくて。

「くっそ〜・・・・・・なんでこんなに晴れてんだよ・・・」

それどころか、先程くじいた足の痛みや、自分の中の色々な不安とは裏腹に
清々しいまでに照る太陽に、わけもわからずムカつきすら覚える。

「・・・・・・足いて・・・」

立ち止まった途端、くじいた足がズキズキと痛みを主張する。
エドワードは痛みがマシになるまで、階段に座り込むことに決めた。





仮眠室、事務室、食堂、倉庫・・・・・・司令部内でエドワードが行きそうな場所をロイはしらみつぶしにまわっていた。

「残るはここだけだが・・・・・・」

資料室の扉をそっと開いてみると

「あれ・・・・・・大佐?」

礼儀正しい弟は、読んでいた本を傍に置いて、こちらに向き直って話しかけてきた。

「ここに鋼のが来なかったかね?」

「え?兄さんは来てませんけど・・・・・・どうかしたんですか?」

一人で探し回るのも効率が悪いし、弟にまで黙っておく必要はないと判断したロイは
いきさつを説明して、協力を仰ぐことにした。

「まぁ・・・軽い家出のようなものだよ。すぐに帰ってくるとは思うがね・・・」

姿は鎧でも、内面は14歳の繊細な年頃の少年である。
ロイはなるべく心配させないように軽い調子でアルフォンスに告げた。

「でも・・・兄さん、今はまるっきり子供だし・・・誘拐でもされたりしたら・・・」

二人きりの兄弟で、たった一人の家族だから、本気の家出ではないとわかってはいても
アルフォンスはもしものことを考えると、心配でたまらない。

「心配する事はないさ。あの小さいナリでは、そう遠くには行けまい。
 これから外を見に行くが、きっとすぐに回収できるだろう」

心配でたまらないアルフォンスを宥めるように、ロイはそう言った。
早速資料室を出て、探しにいこうとするロイに

「あのっ・・・・・・僕も行きます!!」

アルフォンスは慌ててついて行こうとしたが

「君は、司令部内をもう一度探してみてくれないか。
 それに、もしかしたらココに帰ってくるかもしれない」

そう告げられた。
まだ心配そうにしているアルフォンスに

「たった一人の弟をこんなに心配させているんだ。
 帰って来たら一発殴ってやりたまえ」

ロイは軽く笑いながらそう言った。

「・・・・・・そうですね」

ロイの微笑に、エドワードを連れ帰る自信が窺えて、アルフォンスは何だかほっとして
エドワードがいたら猛烈に抗議するだろうけれど、ロイと同じく軽く笑いながら、肯定した。





エドワードがボーっと階段に座り込んで、かれこれ2時間。
あんなに青かった空は、オレンジ色に変わり始めていた。

「・・・・・・オレ、ずっとこのままだったらどうしよう・・・・・・」

膝を抱えて自分の足元ばかりを見ては繰り返す自問自答。
こんな不安を抱えているなんて、優しい弟には負担になるだろうから、絶対に言えない。
かといって、今の自分ではどうしても悪い方へと考えてしまう。

「うっ・・・・・・ぐすっ・・・・・・」

どうしようもない不安と、どうにもできない悔しさと。
何だか色んなものが混じって、エドワードの目からは涙が零れてきた。

「くそぅ・・・・・・なんでっ・・・・・・ぐすっ」

自分が泣いている事に気付いてしまうと、更に情けなさも加わって、もう涙は止められそうになかった。
泣いている姿を人に見られたくなくて、エドワードは赤いコートのフードを深くかぶって
ぎゅっと膝を抱えると、固く目を瞑った。





どれくらい時間が経っただろうか。
ふいに背後に人の気配を感じて、エドワードは閉じていた目を開いた。
涙でぼやけていて、よくわからなかったけれど、階段には長い影が映っている。

「だ・・・れ――――――いだぁっ!!」

振り返ろうとした瞬間、ゴンッ!と低い音がして、頭にガツンと衝撃が走った。

「まったく君は・・・・・・勝手にいなくなったら、心配するだろう!?」

ゲンコツを喰らった頭を押さえながら、聞き慣れた声の主を見上げる。

「たっ・・・大佐・・・ッ!!」

どうしようもない不安を一方的にぶつけて、その原因を勝手にロイのせいにして飛び出した。
そんな自分をまさか探しにくるとは思ってもみなくて、エドワードは驚いたように目をパチパチさせた。

「だいたい君はいつもいつも無茶ばかりして・・・・・・」

この男がどうして自分を探しに来たかなんて、そんなことはわからない。
けれど、不安で泣いていたエドワードにとって、ロイが自分を見つけてくれたことが
何だか今日は素直に嬉しかった。

「こんな小さな身体で何かあったらどうするつもり―――――って、こら!!聞いているのかね!?」

何だか上の空なエドワードに、ロイは厳しい視線を投げかける。

「・・・・・・・・・なさぃ・・・・・・」

「ん?」

「・・・ごめんなさいッ!!」

エドワードは泣きじゃくりながら、ロイに飛びついた。

「は・・・鋼の!?」

イキナリ飛びついてきたエドワードに、ロイは驚きを隠せない。
いつもはお仕置きの後ぐらいしか、ロイに抱きついたりしない。
それも泣き顔を見られるのが嫌で、ロイの服に顔を埋める程度だ。
それに意地っ張りなエドワードは、自分から『ごめんなさい』などと言ったこともない。
いつもなら仕方なく言うセリフのハズなのだが・・・・・・。

「鋼の・・・?」

「ふぇぇっ・・・お説教なら後で・・・・・・ちゃんと聞く・・・・・・ひっく」

普段の彼からは到底聞けないだろう殊勝なセリフに、ロイは何だか調子が狂ってしまう。
どういうことなのか、詳しくはわからなかったが、エドワードが何かを悩んでいた事だけは感じ取れたので
深くは追求せずに、抱きついて泣きじゃくるエドワードの頭をそっと撫でてやった。





「さて・・・落ち着いたかね?」

自身が階段に座って、自分の膝の上に向かい合わせに座らせたエドワードを見る。

「・・・うん、まぁ・・・・・・」

泣きじゃくってロイに抱きついたのがそれほど恥ずかしいのか
エドワードは顔を赤くしてモゴモゴと小さな声で答えた。

「で?何をそんなに悩んでいたのかね?」

膝の上でもじもじとしているエドワードに、ロイはポンポンと頭を撫でながら促してやる。

「う・・・・・・だってっ・・・オレ、ずっとこのままかもしれなくてっ・・・・・・
 アルがすっごい頑張ってくれてるけどっ・・・・・・だけどっ・・・・・・」

このエドワードの告白で、ロイには全てがわかって、はぁ〜・・・とため息を吐いた。

「まったく・・・君はそんなことで悩んでいたのかね?」

「なっ・・・そんなことってなんだよ、そんなことって!!」

結構真剣に悩んで、普段なら絶対に吐かない弱音まで吐いて、遂にはロイにまで縋って泣いたのに
そんなこと扱いされてはたまらない。
膝の上でむくれるエドワードを、ロイは真剣な顔で見る。

「君は今まで、どんなこともやってのけて来ただろう?」

「・・・・・・そりゃぁそうだけど・・・」

「ならば、今回も乗り越えられないハズがないじゃないか」

「う・・・そりゃぁ、そうなんだけど・・・でもっ」

俯き加減で『でも』を繰り返すエドワードの顎を掴んで、ロイはエドワードを自分の目と無理矢理視線を合わせた。

「君は『鋼の錬金術師』だろう?」

そう告げたロイの目は、11歳のあの時、リゼンブールで自分に焔を点けた目と同じで。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・ッ!!」

エドワードはあの時のことを思い出して、キッと目を吊り上げた。

「・・・・・・まぁ、頑張りたまえ」

どんよりとしていたエドワードの瞳に焔が点いたのを確認すると、ロイはぐりぐりと頭を撫でながら
エドワードを抱えて、立ち上がった。

「おわっ・・・ちょっと大佐!!おろせよ!!」

「早く帰らないと、アルフォンス君が心配しているからね」

よっぽど恥ずかしいのか、エドワードは赤い顔でギャーギャー騒ぐが、ロイはまるで聞いてないようで
スタスタと歩を進める。
離せといくら言っても無駄だと悟ったエドワードは、何だか手持ち無沙汰だったので
ロイの肩にぎゅっと掴まることにした。

「・・・・・・あ・・・あのさ・・・」

「ん?何だね?」

「あのさ・・・・・・帰ったら・・・・・・」

「帰ったら・・・?」

「その・・・やっぱり・・・いっぱい・・・・・・お尻・・・ぶつ?」

どうやら悪いことをしたという自覚はあるらしい。
だが、一応覚悟はしていても、やはり痛いのは嫌で、エドワードは帰ってからのことを考えると
思わずまた泣きそうになってしまう。

「まぁ、今日は随分と悪い子だったしねぇ・・・」

「うぅ・・・・・・」

「でも今回は、私よりもアルフォンス君に謝るべきだろうね。
帰って来たら一発殴ってやれと言ってあるし・・・」

「なっ・・・・・・なんてこと言ってくれてんだ!!」

アルフォンスは普段滅多な事では怒らない。
だが、それ故に怒らせると、とにかく怖いのだ。

「どうしてくれんだ・・・・・・アルは怒ると怖いんだぞ・・・」

低く唸りながら不平をもらすエドワードに、ロイは

「おや、『鋼の錬金術師』でも敵わないものがあるんだな」

そう言って、おかしそうに笑った。





「もう、心配したんだからね!!」

「ふぇっ・・・やっ・・・もうしないからぁっ!!」

ロイに抱えられたまま司令部まで帰ってきたエドワードは、資料室で再会した弟の膝の上で泣かされていた。
アルフォンスはロイよりも大きい手をしているし、何より全身が鎧だから、軽くぶたれるだけでもかなり痛い。

バチンッ!!バチンッ!!バチィンッ!!

「もうしないのは当たり前!それに、大佐にまで迷惑掛けて!!」

「うぇぇっ・・・・・・アルッ・・・ごめっ・・・ふぇぇんっ!!」

今日は朝からロイにお仕置きされて、ただでさえお尻が痛いのだ。
兄の威厳がどうとか、そんなことに構っている場合ではない。
早く許してもらいたい一心で、エドワードは泣きじゃくりながらも必死に『ごめんなさい』を繰り返す。

バチンッ!!バチンッ!!バチィンッ!!

「ごめっ・・・・・・うぇぇっ・・・たいさ〜っ!!」

今日のロイは何故かエドワードに優しい。
そう感じていたエドワードは、アルフォンスのお仕置き開始からずっと本棚にもたれかかって
その様子を見ていたロイに助けを求めた。

「自業自得だよ。少しは反省したまえ」

「そんなっ・・・・・・!!」

朝と同じく、お仕置きされている自分を助けてくれる人物はいないようだ。

「ああ、そうそう。
 『お説教は後でちゃんと聞く』という君の約束は、アルフォンス君からのお仕置きが終わった後に
 今度は私の膝の上で果たしてもらう事にするから」

そう言いながらロイは、意地悪く微笑む。

バチンッ!!バチンッ!!バチィンッ!!

「うわぁんっ!!・・・も、やだぁ〜っ!!」

アルフォンスにぶたれた痛みと、ロイのとどめうちのような言葉に、エドワードはボロボロと涙を零しながら叫んだ。





結局、アルフォンスにお仕置きされた後に、ロイからはお説教と、きつ〜い平手打ちを
真っ赤になったお尻に3回喰らって。
エドワードは痛くて痛くてなりふり構わず、泣きじゃくった。
そんなエドワードの頭や背中を、二人は泣き止むまでずっと優しく撫でてくれた。
それは、めちゃくちゃ子供扱いだったけれど、エドワードは今日だけは何だかそれがむしろ嬉しくて
ぎゅっと二人に抱きついた。





きっかけが何だったかなんて、忘れた。
ただ、覚えてるのは、その日はとにかく快晴だったってことと
嫌な夢も見ずに眠れたってことぐらい。