ぷちらば


05.トラブルメーカー

その日、東方司令部の最高司令官であるロイ・マスタング大佐は、いつもの如く山のように高く積み上げられた書類と
それを処理すべく作業をする自分を時折催促に来る有能な部下に頭を悩ませながら
一心不乱に大量のハンコ押しとサイン書きに追われていた。
他の部下達に言わせれば、それはいつものことで。
そう、ロイにとってもこれは何でもない日常のひとコマだったのだ。

・・・・・・・・・あの少年が、この静寂を破るまでは。





ロイが大量のハンコ押しに追われ、無言でペンを走らせていると、なにやら廊下から音が聞こえてきた。
それはガチャガチャと金属の擦れるような音と、パタパタという小さな音で
次第にハッキリと聞こえるようになってきた。
その二つの音から察するに、どうやら何かがロイの元へと近づいているらしい。

(また騒がしくなるな・・・・・・)

ロイは廊下から響く二つの足音を聞きながら、毎度毎度騒ぎを起こすトラブルメーカーな金色の子供を思って
ふぅ・・・と小さくため息をついた。

コンコン・・・と控えめなノックの音が聞こえて

「開いてるよ」

と、ロイが声を掛ければ、開いた扉の隙間から顔をのぞかせたのは
全身鎧の少年、アルフォンス・エルリックだった。

「あ、大佐。お久しぶりです。こんにちは」

律儀に頭を下げながら挨拶をするアルフォンス。

「ああ、久しぶりだね・・・・・・」

そんな彼に対しロイは、何だか腑に落ちない顔をした。
先程の足音からして、ここへ来るはずの人物は明らかに二人だった。
それなのに今、自分の目の前にいるのはアルフォンス一人だけだ。

いつもなら、礼儀知らずのあの子供はノックもせずに入ってきて、何か良い文献はないか、などと
ロイを上官とまるで思っていないような態度でまくしたてるのだ。
なので、ノックの音がした時点で、ロイも少し不思議には思っていたのだが・・・・・・。

「・・・・・・ところで、今日は鋼の・・・兄はどうしたんだね?」

「えっと・・・兄さんは・・・・・・」

アルフォンスがなんだか困ったような顔をしているので、ロイはますます不審に思ったが

「ここにいるだろーが、バカ大佐!!」

突然響いた甲高い子供の声によって、その思考は遮られた。

「あっ、ちょっと兄さん!失礼でしょ!?」

わたわたと慌てるアルフォンスの足元をよくよく見てみると、そこからのぞく小さな影に気が付いた。
金色のみつあみに、真っ赤なコート、何よりロイを睨みつけてくる髪と同じ色をした意志の強い瞳は
まさしく、鋼の錬金術師エドワード・エルリックのものだった・・・・・・・・・・・・のだが
その姿は何故かいつもよりも小さい・・・どころか、どう見てもせいぜい5歳児並の身長しかなかった。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

エドワードらしい5歳児を凝視したまま、ロイは思わず無言になってしまい

「ええっと〜・・・・・・あの、これはですね・・・」

アルフォンスが何とか説明をしてくれようとしていたのだが

「・・・・・・オレから話すよ」

と、それを横からエドワードらしい子供が遮った。





つい3日前、少し遅い昼食を済ませてエドワードとアルフォンスが宿屋に着いたのが午後4時頃のこと。
早速部屋へ入ろうとして、ふと見てみれば部屋へと続く階段の板が外れかかっていた。
1枚程度なら、そのままにしておいても明日にはこの宿を出るのだから、問題は無かったのだが
それが3枚もあったものだから、なんだか見過ごせなかったのと、元来のお節介焼きが働いて
得意の錬金術で直そうと考えたのだった。

エドワードがいつものように、頭の中で錬成陣を描きながらパンッと掌を合わせたまさにその瞬間
ガタンっと音がして、エドワードが頭上を見上げれば、目に飛び込んできたのは
階段を踏み外してまっさかさまに落ちてくる5歳程度の子供の姿。
自分が錬成中なのにも関わらず、思わず子供を助けなくては・・・と思考が働いたものだから
結果、頭の中の錬成陣に、『子供』というキーワードが組み込まれてしまったのである。





「・・・・・・で、錬成のリバウンドで子供の姿になってしまった・・・と?」

終始無言で話を聞いていたロイが、ここまで来てようやく口を開いた。

「オレ今までこんなのなったことないし・・・・・・」

「大佐なら、何かご存知なんじゃないかと思って、僕たち相談に来たんです・・・」

机を挟んで向かい側に立つ二人は、しゅん・・・と小さく俯いた。

「な〜大佐、リバウンドとかそういうのに詳しい研究家か、資料か
 どっちでも良いから、何か知らない?」

エドワードはよじよじと机の上に顔を覗かせて、懸命にロイを見上げた。

「悪いが・・・あいにくとそういう研究家に知り合いはいないな・・・。
 それに、そういう人体に関係することは、君達の方が知っているんじゃないのかね?」

普段から人体錬成に関する資料を読み漁っている二人である。
ロイの言う事にも一理ある。

「でもっ・・・オレこの身体になってから、何かおかしくて・・・
 手足の感覚が微妙に違ってて、うまく錬金術使えねぇ時もあるし・・・」

「それに、僕は兄さんほどの錬成はできませんから・・・・・・」

エドワードとアルフォンスはがっくりとうなだれた。
元々、勤勉なこの二人のことだから、他人に頼る前に自分達で何とかしようとしたのだろう。
だが、二人では何ともならなかったからロイを頼ってきたのだ。
二人からそれを感じたロイは

「・・・・・・とにかく、できるだけ資料はかき集めてみるが・・・」

なるべく協力すると、言ってやった。

「わぁ、ありがとうございます!大佐!」

素直に礼を述べるアルフォンスに対し、エドワードは何だか浮かない顔つきでプイっとそっぽを向いた。
いつも何かと貸しだ、借りだと言ってくるロイのこと、またいつか今回のこの貸しを返せと言って
大きな厄介ごとを押し付けてくるのは目に見えていた。
それを考えると、エドワードは素直に礼を言う気にはなれず、むしろ今からでも憂鬱な気分になってくる。

「ほら、兄さんもちゃんとお礼言わなきゃ」

コツンと小さく頭を小突かれて、エドワードはしぶしぶロイと視線を合わせた。

「・・・・・・しょーがねぇから、今回だけは借りにしといてやるよ」

そう言うとエドワードは、またプイッとそっぽを向いてしまった。

「もう、兄さんったら・・・!
 大佐、すみません・・・・・・」

兄の代わりに謝る弟の姿を見て

「これではどちらが兄かわからないな・・・」

二人の立場と態度の違いを見ながら、ロイは思わず苦笑した。





二人がロイの許可をもらい、司令部の資料室を漁っていると、先程の約束を早速果たしてくれたのか
ロイが関係のありそうな資料を保管しているという研究所を紹介してくれた。
エドワードとアルフォンスは、ロイから研究所の場所を書いたメモをもらうと
資料室から飛び出す勢いで出て行こうとした・・・・・・が

「鋼の、君はここで留守番だ」

ぐいっとエドワードは首根っこを掴まれて、ロイに止められてしまった。

「おわっ!?
 大佐っ!何でだよ!?」

首根っこを掴まれたまま、エドワードはバタバタと暴れて抗議する。

「研究所には子供は立ち入り禁止だ。
 それに、その姿をあまり多くの人間に見せるのは得策ではない。
 いつ誰の目に留まって、何を言われるかわからないだろう?」

「うっ・・・そりゃぁそうだけど・・・だけどっ!!」

これは自分の問題なのだ。
人一倍他人に頼る事が嫌いで、何でも自分でやりたいエドワードとしては
ここで引き下がりたくはない。

「大総統の目に留まってみろ、人体錬成をしたと言われて即刻資格を剥奪されるぞ?」

まだ食って掛かってくるエドワードに、ロイは正論で脅しをかけた。

「う〜・・・・・・・・・」

エドワードは口を尖らせて、未だに納得できないような顔であったが
資格を剥奪されると言われては、もうそれ以上食って掛かることは出来なかった。

「僕が代わりにちゃんと行って来るから。
 兄さんはこっちで資料集めといて?ね?」

アルフォンスは、未だに納得していない顔をしている小さい兄を諭すように、そう言いながら
研究所へと出かけていった。
資料室に残された、外見は5歳のエドワードを一人にしておくわけにもいかず、必要な資料だけは持たせて
ロイはエドワードを執務室に連れ帰ることにした。





最初のうちはソファで大人しく資料を読んでいたエドワードだったが、段々そわそわと落ち着かなくなってきた。
資料室の資料の内容よりも、研究所にあるという資料の方が気になって仕方がないのだ。
こんな子供の姿でなければ、自分だって読めたのに・・・と思うと、悔しいやら歯痒いやら
何だか複雑な心境になってくる。

そんなエドワードにはお構いなしに、ロイは黙々と自分の作業を続け、遂には終わったのか
エドワードにこの部屋から出るなとだけ言い残して、書類を山のように抱えて執務室を出て行ってしまった。

ロイはあの書類をおそらくホークアイに渡すつもりなのだろう。
そこで、ホークアイが目を通して、問題がないようならば中央なり、その他の司令部へと回される。
勿論、問題があるようならばその場でロイが多少の訂正を加えるだろうから・・・・・・・・・

(やっぱ・・・・・・自分の問題だしな・・・)

あの山のような量の書類をチェックするには、それなりに時間がかかるはずである。
さっきエドワードが研究所の場所を書いたメモを見た限りでは、書類のチェックをしている間に
行って帰ってくるぐらいの余裕はあると思われた。

(よし・・・・・・・・・!)

自身の問題だからという責任感よりも、正確には研究所の資料への好奇心に負けたエドワードは
ソファから立ち上がり、そのままこっそりと執務室を出た。

パタパタと見つからないように、廊下を小さく走り、まずは出口へ向かう。
ところが、勝手知ったる東方司令部・・・と思っていたのだが、走っても走っても出口に辿りつかない。
視線が低い為か、いつもと景色がまるで違って見えて、エドワードの方向感覚を狂わせていた。

(あれ・・・?次の角、右・・・だったかな・・・)

元々、軍司令部なんて建物は、テロに備えて外観はシンメトリーに見せながらも、内部の構造は
結構複雑に迷いやすく造られているのだ。
一度迷ってしまうと、元の道に戻るもの難しい。

(う・・・迷った・・・!?)

出口にも辿りつくどころか、これでは執務室の戻ることも出来ない。
エドワードは完全に迷子になっていた。
軍司令部なんて、子供が立ち入る事のない施設の中で、あちこちの廊下でウロウロしていれば
嫌でも目立ってしまう。

「ぼうや、こんなところで何してるんだい?」

子供好きな軍人に声を掛けられても

「えっ・・・・・・えっと・・・・・・」

エドワードは何をどう答えて良いかわからず、しどろもどろになりながら言い訳を探していた。





バキバキと凝った肩を鳴らしてロイが執務室に帰ると、そこにエドワードの姿はなかった。
嫌な予感と、まさかな・・・・・・という思いが交差する。
一応、隣の仮眠室も覗いてみるが、そこにもエドワードは見当たらない。
これはいよいよ嫌な予感がする・・・と思っていたら、そこへ

「大佐っ!大佐のお子さんがお越しですよ!!」

慌てた様子の部下が走ってきたものだから、ロイは嫌な予感が的中したと知り

「はぁ〜・・・・・・」

盛大にため息をついた。





「へぇ・・・じゃぁ大佐がお父さんなんだ!?」

司令部の事務室に保護された迷子のエドワードは、軍に知り合いがいるのかと聞かれて
うっかりロイの名前を口にしてしまったものだから、周りにいる軍人達からロイの隠し子だと完全に勘違いされていた。

「えっと・・・お父さんじゃ・・・なくって・・・」

こうなってしまっては、自分が抜け出したのがロイに知れるのも時間の問題である。
エドワードは軍人達の質問に答えながらも、ロイへの言い訳を必死に考えていた。

「ぼうや、お父さんが迎えに来てくれたよ」

親切な軍人のそのセリフにエドワードは、びくんっと身を強張らせた。
恐る恐る事務室の入り口を振り返ってみると、そこにはやはり明らかに怒った顔のロイが立っていた。

「ウチの親戚の子が手間をかけさせたね。
 この子は私が預かろう」

ロイはつかつかと歩み寄ってきて、椅子に座っていたエドワードを軽々と持ち上げた。

「・・・あのっ、たい―――」

エドワードは何とか言い訳しようとしたが、ギロリとロイに睨まれて、何も言えなくなってしまった。
ロイはエドワードを抱えたまま事務室を出ると、真っ直ぐに執務室に帰った。





「えっと・・・・・・その・・・」

椅子に座ったロイの前に立たされたエドワードは、さっきからうまい言い訳が見つからずに困っていた。
チラリとロイを見上げれば、怖い顔でこちらを睨んでいる。
今は自分の視線が低いからか、いつもよりも威圧感があって怖くてたまらない。

「結局のところ、君は私がこの部屋から出るなと言ったにも関わらず
 研究所に行こうとしていたんだろう?」

「・・・・・・・・・だってっ・・・」

図星を突かれては言い訳のしようもなく、エドワードは俯いて黙ってしまった。

「おや、図星かね?
 ならば、しょうがないな」

ロイはそう言って、エドワードを軽々と持ち上げると、自分の膝の上に腹ばいにさせた。

「ちょっ・・・大佐、何すんだよっ!!」

突然の事に焦ったエドワードが慌てて抗議する。

「私はどうやら君の『お父さん』らしいからね。
 父親としての仕事をするだけだよ」

そう言ってロイは、膝に押さえつけたエドワードのズボンを下着ごと膝まで下ろしてしまった。

「ちょっ・・・や、やだぁっ!!」

これから起こることを察知したエドワードはバタバタと暴れて、何とか逃れようとするが
所詮、今のエドワードは5歳の子供である。
精一杯暴れても、ロイには・・・大人には到底敵うはずもない。
抵抗もむなしく、バチンッ!と平手は振り下ろされてしまう。

「いたぁッッ!!」

あまりの痛みにエドワードの背はのけぞった。

「やっ・・・やだぁっ!!いたぁ!!」

バチンバチンと続けざまに叩かれて、エドワードの目にはもう涙が溢れてきた。

「ふぇぇっ・・・いやぁッ!!」

「『いや』じゃないだろう?
 言いつけも守れない悪い子は、こういう痛い目に遭うんだよ。知っているだろう?」

そう言ってロイは、更にバチンッ!ときつく平手を振り下ろす。
いつもなら右か、左か、どちらかのふくらみを交互に叩かれるのだが
今は身体が小さくなっている為、ロイの掌がエドワードのお尻全体にすっぽりと収まる。
これでは痛みが引く間もなく次の一打がふってくるので、身体が大きいときに比べて余計に痛く感じてしまう。

パンッ!パンッ!バチンッ!

「ひぅっ・・・や・・・いたぁッ!!」

パンッ!パンッ!バチンッ!

「やだぁっ・・・も、やぁっ・・・ひんっ」

パンッ!パンッ!バチンッ!

「いたぁっ・・・たいさ、やめっ・・・やぁっ」

エドワードがボロボロと涙をこぼして泣いても、ロイは叩く手を休めてくれない。

「ひっく・・・ふぇっ・・・や、もうやぁッ!!」

今の小さな子供の身体のエドワードにとって、ロイの掌は十分な凶器だった。
バタバタと暴れても大した抵抗にはならないと、頭では理解していても
あまりに続く痛みに思わず手足をバタつかせてしまう。

「こら、大人しくしていなさい」

バチンッ!!と一際強く叩かれて、エドワードはまたびくんっとのけぞった。

「うぇぇっ・・・いたぁっ・・・」

「そういえば・・・・・・今日ここへ来た時、君は私に何を言ったかな?」

「ふぇ・・・ッ!?」

ふいにロイは叩く手を止めて、エドワードに尋ねた。
エドワードは何のことだかわからず、ただ泣きじゃくりながらロイの方をそっと見上げた。

「確か・・・『ここにいるだろーが、バカ大佐!!』だったかな・・・?」

「なっ・・・・・・!?」

確かにそうは言ったけれど、それをわざわざ蒸し返すとは・・・しかも今のこの状態で。

「とても上官に対する言葉遣いとは思えないねぇ。
 君は普段からどうにも目上の者への態度というものがなっていない。
 今日はせっかくだから徹底的に身体に教え込んであげようか」

「なっ!?そんなの何言おうとオレの勝手じゃんかぁっ!!」

エドワードは目にいっぱい涙を溜めながらも、キッとロイを睨んだ。
5歳なエドワードの小さいお尻は、既に真っ赤に染まっていて、痛くてたまらないのだ。
これ以上罪状を増やされて叩かれてはたまらない。

「だいたいっ、何の権利があってアンタがそんなこと―――――!!」

パアァンッ!!

抗議したら、平手を思い切り打ち据えられた。

「ひぅッ!!」

突然の平手打ちに、エドワードは短く息を呑むので精一杯だった。

「君が言ったんだろう?私を『お父さん』だと。
 ならば愚息に正しい言葉遣いというものを教えなくてはなるまい?」

ロイは冷たくそう言って、エドワードのお尻へ平手打ち再開した。

「うえぇぇっ・・・も、やぁッ・・・ひんっ・・・」

もう既にお尻が真っ赤なエドワードは、ロイの膝の上で泣きじゃくるしかなかった。

「やだぁっ・・・も、やっ・・・たいさ、おねがっ・・・ふぇぇっ!!」

あまりにエドワードが泣くものだから、ロイも少し可哀相になって

「反省したのかね?」

そっと助け舟を出してやる。

「うえぇっ・・・したっ、も・・・したからぁッ!!」

何とか膝から降りようとするエドワードの腰をぐっと押さえつけて

パンッ!パンッ!パァンッ!

ロイは無情にも少しきつく平手を振り下ろした。

「いたぁっ・・・ひっ・・・やぁッ!!」

「こら、勝手に終わりにするんじゃない。
 まだちゃんと言ってないだろう?」

「うえぇっ・・・も、やぁッ・・・!!」

「『反省しました、ごめんなさい』
 ほら、言ってごらん?」

「うぅ〜・・・」

身体は5歳でも、中身は15歳のままなのだ。
エドワードとて、普段からいけ好かない相手にそんなことを言うのは、いかにこの状況でもプライドが邪魔をする。
膝の上でお尻を剥き出しにされてぶたれているだけでも恥ずかしくて惨めなのに
それを言ってしまったら、余計に惨めになるような気がして、なかなか素直に口を開くことができない。

「鋼の」

真っ赤になったお尻を撫でながら低い声で呼ばれて、エドワードはびくりと身を強張らせた。
言わなければ更に平手を加えると、そう暗に脅されているのだ。

「ふぇっ・・・ひっく・・・」

そう脅されても、エドワードはなかなか口にすることが出来ずに、ただ泣きじゃくるだけだった。

「言えないのなら仕方がないな」

そう言うとロイはパンッ!とまたエドワードのお尻に平手打ちを始めた。

「いたぁッ・・・も、やだぁッ!!」

ゆっくりとだが、等間隔で襲ってくる痛みに、エドワードはびくびくと怯え
ロイの膝の上で短く悲鳴を上げた。

「君も強情だな・・・さっさと言えば良いものを・・・」

ロイはやれやれ・・・とため息をつきながら、叩く手を止めて小さなエドワードを見やる。
お尻は可哀相なぐらい真っ赤に染まっていた。

「あのねぇ、鋼の。
 君は頭が良い子だから、そんな身体で一人で外に出たら危険な事ぐらいわかるだろう?
 それに、不特定多数の人間に見られることがどんなに危険かも充分理解できているだろう?」

「でも・・・・・・だってっ・・・!」

「・・・あまりこっちが心配するようなことばかりしないでくれないか」

ぐりぐりと頭を撫でながら、ロイは静かにエドワードにそう告げた。

「たいさ・・・・・・」

ロイが怒っていたのは、エドワードが言いつけを守らなかったからだというのもあるけれど
本当は自分のことを心配してくれたからなのだと、エドワードは早急に理解した。

「ほら、鋼の。『ごめんなさい』は?」

ポンポンと頭を小突かれて催促される。

「うぅ・・・・・・ごめん・・・なさい・・・」

ロイが怒った本当の理由を知ったエドワードは、声は小さかったけれど、何とか言えた。
そっと抱き起こされて、ちょこんとロイの膝の上に向かい合わせになるように座らされる。

「全く君は・・・本物の5歳児よりも手がかかるな・・・」

「なっ・・・!!」

ロイにそう笑われて、エドワードは顔を真っ赤にした。

「君が小さいうちに厳しく躾けておこうか。
 そうすれば元に戻った時に、多少はマシにかるかもしれないしねぇ・・・」

ニヤニヤと意地悪な笑いを浮かべながら、ロイはエドワードを見やる。

「なっ・・・余計なお世話だ、バカ大佐ッ!!」

ロイの意地悪な笑いが癪に障って、エドワードは思わず大声で抗議し、ロイを睨みつけた。

「『バカ大佐』・・・・・・?」

ロイが引きつった笑いを浮かべたので、しまった・・・と思ったが、もう既に遅かった。
ぐいっと首根っこを掴まれて、無理矢理椅子の上で膝立ちにさせられると、ロイと向かい合わせの姿勢のまま

バチンッ!!バチンッ!!パァンッ!!

「ひっ・・・や・・・いたぁッ!!」

きつくぶたれた。

「ふぇっ・・・・・・わあぁぁんっ!!」

もう既に真っ赤にされたお尻に更にきつい平手が飛んできて、エドワードはまた大粒の涙をボロボロこぼしながら
泣き出してしまった。

「まったく・・・少しは学習したまえよ」

ロイにそう言われたけれど、エドワードはぐすぐすと泣いていて言い返すことも出来ない。

「ふぇ・・・う〜っ・・・ぐすっ」

せめてもの嫌がらせだと、エドワードはぎゅっとロイの胸にしがみついて、涙でぐしゃぐしゃの顔を埋めた。

ロイがズボン元に戻してやろうとすると、またぶたれると思ったのか、エドワードがビクリと大きく肩を震わせる。
一応お仕置きの効果はあるのか・・・などと思いながら、ロイは

「もうお仕置きは終わりだよ」

と、エドワードにそっと教えてやる。
それを聞いて安心したのか、エドワードはそれ以降、泣き止むまでロイの膝の上で大人しくうなだれていた。





「あっ、アル〜〜〜ッ!!」

数時間ぶりに執務室に帰ってきた弟に、兄は期待に満ちた目を輝かせながら飛びついた。

「おわっ、ちょっと兄さん!!」

小さな兄のタックルに、アルフォンスはヨロっと体勢を崩した。

「良い資料あったんだろ!?あったんだよなっ!?」

やたらと必死に尋ねてくる兄を少々訝しく思いながらも、アルフォンスは研究所の資料について
エドワードに言って聞かせた。

「え・・・・・・じゃぁ・・・・・・!?」

エドワードの期待に満ちた目が、どんよりと曇ってくる。

「うん・・・あの研究所にはあんまり良い資料はなかったみたい・・・」

アルフォンスのセリフに、エドワードはがっくりと肩を落とした。
これで当分の間、自分はこの身体のままなのだ。
ということは・・・・・・・・・

「おやおや、それじゃぁ仕方がないね。
 先程の宣言どおり、当面は私が面倒を見てやろう」

二人の会話を聞いていたロイは、エドワードにそう言って笑って見せた。

「え、いいんですか!?ありがとうございます〜」

アルフォンスはといえば、ロイが好意で申し出てくれているのだと思い、お礼を述べた。

『君が小さいうちに厳しく躾けておこうか』

ロイはつい数時間前の一言を、本気でおこなう気でいるのだ。
きっとまたエドワードが何か余計なことをすれば、容赦なくお仕置きするつもりなのだろう。

「・・・・・・・・・冗談じゃねぇ・・・」

エドワードは小さく吐き捨てると、ギッとロイを睨みあげた。





こうして、何でもない日常は金色のトラブルメーカーによって、騒がしいものへと変えられた。
ロイは何かとよそ事をする機会が増えた為、書類は以前よりも机にそびえたつようになったし
アルフォンスは、毎日資料室や研究所を回り歩く事が日課になっていた。
エドワードはと言えば・・・・・・ロイの手によって毎日のように泣かされたが、それでも懲りずに
何かとトラブルを引き起こしていた。

その後、エドワードが元の身体に戻れたかどうかは不明だが、滞在していた東方司令部内で
ロイ・マスタング大佐の隠し子疑惑が広まり、噂されていたのは公然の秘密である。