ぷちらば


01.ユースウェル炭鉱の報告書

「これはどういうことかね?鋼の」

自分と、この部屋の主であるロイと、二人っきりの執務室で、ロイは開口一番そう言った。

「どういうことって言われても・・・・・・」

机を挟んで向かい側に立たされたエドワードは、何の事だかわからず
戸惑いがちにロイを見た。

「コレだよ、コレ」

そう言ってロイが取り出したのは、何かの書類のようだった。

「『ユースウェル炭鉱、ヨキ中尉に関する報告』・・・・・・って、何コレ報告書?」

ロイから書類を受け取ったエドワードは、パラパラと内容に目を通す。
そこには、このユースウェル炭鉱の管理者であるヨキ中尉なる人物の証言によれば
鋼の錬金術師エドワード・エルリックから金塊で炭鉱を買い取る提案を受け
それに応じて金塊を受け取ったが、その後金塊は石炭になってしまい、更には
炭鉱そのものも取り上げられた・・・というような内容が書いてあった。

「・・・・・・よくできてんじゃん、この報告書」

言いながらエドワードはロイに報告書を突き返す。

「何か問題でもあんの?」

未だに問題に気付いていないエドワードに

「ああ、大有りだ」

と、ロイは告げた。
全然わからない、といった表情でこちらを見てくるエドワードを無視して
ロイは更に話を進める。

「ヨキ中尉の証言によれば、鋼の錬金術師・・・君から金塊を受け取って
 ユースウェル炭鉱を譲ったとのことだ。
 更にはその金塊が石炭に『化けた』ともね」

「え・・・・・・あっ」

エドワードはようやく問題に気付いたらしく、明らかに動揺していた。
ロイはそんなエドワードに追い討ちをかけるように続ける。

「君の研究費がおろされた形跡はまるで見られないし、旅ばかりの生活の君が
 そんな金塊を持ち歩いているというのも考えにくい。となると・・・・・・」

ジロリと目線で問うと、まずいといった表情でエドワードはサッと顔をそらした。

「鋼の」

少し低めのトーンで名前を呼んでやると、ビクリと肩を震わせて、チラリと視線を向けた。

「鋼の、国家錬金術師の三大原則を言ってごらん?」

「・・・・・・・・・・・・」

「言えないのかね?ならば銀時計は返上してもらう事になるが?」

「・・・・・・・・・ヒキョーもん」

銀時計は国家錬金術師の証。
それを返上する事は、すなわち資格を剥奪される事を意味する。
エドワードは仕方なく、しぶしぶ答え始めた。

「人を作らず・・・・・・」

「それから?」

「軍に忠誠を誓うべし・・・」

「あともうひとつは?」

「・・・・・・・・・・・・金を作らず」

「よくわかってるじゃないか」

ロイは椅子に深く座りなおして、ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべて
エドワードを見やる。

「そこでだ、鋼の。先程のヨキ中尉の証言についてだが・・・・・・」

「だぁッ!!もう、わかったよ!!
 そーだよ、石炭から金塊を錬成したんだよ!!
 認めりゃ良いんだろ、認めりゃ・・・!!」

エドワードは半ばヤケになったかのように叫んだが

「・・・・・・なるほどね」

逆にロイは落ち着き払っている。

「だってさ〜、あのヨキとかいう中尉、すっげー悪人で、街の人も皆困ってたし・・・」

「悪人相手だからといって、三大原則を破って良いと、誰が言った?」

「うっ・・・・・・でも、でもっ!!帰るときにちゃんと石炭に戻したし!!」

「君が金の錬成をおこなったのは事実だろう?」

「う・・・・・・」

正論で責められて、エドワードはただ黙るしかなかった。

「・・・さて、この報告書、上に出しても良いのだが・・・・・・」

チラリとエドワードを見ると、眉を寄せて今にも泣き出しそうな顔で。

「・・・たしかにっ、三大原則は破っちゃったけど・・・
 だけどっ、資格・・・なくなるのは・・・・・・困る」

全身鎧の弟の身体と、自分の右腕・左足を取り返すまでは、資格を取り上げられるわけにはいかない。

「私とて今、君に国家錬金術師をやめてもらっては困る。
 君を推薦した私の株まで下がってしまうからな」

「えっ・・・じゃあ!!」

泣きそうな顔から一転して、エドワードは期待に満ちた目でロイを見上げた。

「だがね、鋼の。錬金術師の原則は等価交換。
 タダで見逃すわけにはいかない」

「う・・・・・・」

そこはしたたかなロイのこと、この借りはきっと大きいに違いない。

「・・・・・・何すりゃいいんだよ・・・」

不満げにロイに問えば

「まぁ、君はまだ子供だし、これぐらいが丁度いいだろう」

などと言って、手招きをされた。
ロイの言っている意味がよくわからないエドワードは、ぐるりと机を回って
椅子に座っているロイの前までやってきた。

「大佐・・・どういうこと?」

何だか嫌な予感がしつつも、ロイに尋ねると

「・・・・・・こういうことだ」

そう告げたかと思うと、急に腕を引っ張られ、座っているロイの膝の上にうつぶせにさせられた。

「ちょっと・・・大佐、何すんだよ!!」

バタバタと手足を動かして暴れてみるが、全くびくともしない。

「・・・・・・お仕置きだよ」

そう低く呟くと、ロイはエドワードのズボンも下着も、膝まで下ろしてしまった。

「なっ!!ちょっと大佐ぁ!!」

恥ずかしさから、より一層膝の上で暴れるエドワードのお尻に
ロイは思いきり右手を振り下ろした。

「いたぁッ!!」

パァンッ!!と大きな音がすると同時に、エドワードはのけぞった。

「言いつけも守れないような悪い子は、お尻をぶたれるんだよ。
 よく覚えておきなさい、鋼の」

そう言うと、ロイは容赦のない平手打ちを始めた。

「ひぅっ・・・・・・やっ・・・・・・いたぁっ!!」

どんなに暴れても、相手は大人の男、ましてや鍛え抜かれた軍人で。
敵うわけはないとわかってはいても、とにかくこの痛みから逃れたくて
エドワードは必死に手足をバタつかせて抵抗を続ける。

何かを錬成して逃れようと思いついて、両手を合わせようとするが
その度によりキツイ平手が飛んできて、頭の中に錬成陣を描く事なんて
とてもできない。
終いにはロイに右手を自分の背中に封じられてしまい、手を合わすことさえ出来なくなってしまった。

「いたぁっ、やっ・・・・・・ひぅっ・・・・・・もうやだぁっ!!」

二人きりの執務室で、聴こえてくるのはピシャリと肌を打つ乾いた音と
自分の泣き喚く声だけ。
ロイは無言で平手を振り下ろしてくる。
当然こんな子供みたいなお仕置きなんて恥ずかしいし、無言で平手を
振り下ろしてくるロイは怖いし、何よりお尻はメチャクチャ痛いしで
エドワードは気付けば顔がぐしゃぐしゃになるほど泣いていた。

「やだっ、も・・・しないからぁっ!!」

そう言ってみても、ロイは全く聞き入れてくれなくて。
平手は容赦なく振り下ろされる。

パンッ!!パンッ!!パシィッ!!

「やっ・・・も、ぜったいしないっ!!」

パンッ!!パンッ!!パシィッ!!

「ひぅっ・・・げんそくっ・・・ちゃんと、まも・・・からっ!!」

パンッ!!パンッ!!パシィッ!!

「たいさ・・・おねが・・・も、やだぁっ!!」

エドワードがどんなに泣きじゃくっても、ロイの平手打ちは止まらない。
泣いても、叫んでも、それでも許してもらえなくて、そのうち手足で抵抗する気も
失せてしまったエドワードが、ただひたすら早く終わることだけを願い始めた頃
ロイはようやく手を止めて口を開いた。

「反省したかね、鋼の?」

「ふぇっ・・・したっ、はんせ・・・したからっ・・・!!」

「ならば、言う事があるだろう?」

「・・・・・・??」

エドワードがわからなくて答えられずにいると

バチィンッ!!

「わあぁんっ!!!」

よりキツイ一打が飛んできた。

「わからないなら、ずっとこのままだな」

そう言うとロイは、再度エドワードのお尻に連打を始めた。

「やぁっ!!・・・ふぇぇっ、も・・・わかんないぃ・・・」

情けない声で言うエドワードに、ロイはやれやれ・・・といった表情で問いかける。

「鋼の、反省したら言う事があるだろう?」

「ひぅっ、も・・・やぁっ・・・」

「こら、言うまでずっとこのままだぞ?良いのかね?」

「ふぇぇっ、だってっ・・・わかんな・・・」

「悪いことをしたら、何と言って謝るんだね?」

「ひぅっ・・・・・・ごめ・・・ごめんなさいっ・・・!!」

小さい子供のようにお仕置きされて、『ごめんなさい』とまで言わされて、エドワードは何だか悔しくて
余計に涙が止まらなくなった。



ようやく膝から解放されたのだが、さっき手足で抵抗した疲れとお尻の痛みから
エドワードはペタリと床に座り込んでしまっていた。

「ふぇっ・・・いたぁ・・・・・・ぐすっ」

鼻をすすりながら、椅子に座って悠々と足を組みかえるロイを恨めしそうに見上げる。

「これに懲りたら、少しはオイタを控えなさい」

そう言ってロイは、グリグリとエドワードの頭を撫でる。

「やっ・・・・・・やめろよ!!
 だいたいっ、いくら等価交換だからって、何でオレがこんな目に遭わされるんだよ!!
 せっかく人助けしたのに!!」

「・・・・・・反省の色ナシ、と」

しまった、と気付いた時にはもう遅く、頭を撫でられていた手で
そのまま首根っこを捕まれて、エドワードは再びロイの膝の上に乗せられた。

「やっ・・・今のうそっ、うそだからっ!!」

さっき散々ひっぱたかれて、散々泣かされて、もう二度と味わいたくないと
思っていたのに・・・。

「嘘をつくのは良くないね、鋼の」

冷たくそう言って右手を振り上げるロイに、エドワードは必死で抵抗する。
さっきの痛みもまだ全然ひいていないのに、また叩かれたら・・・・・・
考えるだけでも恐ろしい。

「やだっ!!ごめんなさいっ!!大佐、ごめんなさいぃっ!!」

エドワードは涙声でそう叫んで、ぎゅっとロイのズボンを握り締めた。
キュッと目を瞑り、降りかかってくる痛みに耐えようとしたのだが・・・・・・
いつまで経っても痛みは襲ってこない。
不審に思って目を開けてみると、突然視界が揺れた。
どうやら頭を撫でられたらしい。

「・・・・・・たい・・・さ・・・?」

「全く・・・君はホントにしょうがない子だねぇ」

恐る恐るロイを見上げると、そう言ってロイは苦笑した。
そっと抱き起こされて、膝に向かい合わせに座らされる。

「これぐらいのレベルの報告書なら、まだ何とかしてやれるが・・・・・・
 もし仮に、軍上層部と揉め事を起こした場合、到底ごまかしきれん。
 君は、自分と弟の身体を取り戻す為に、わざわざ軍の狗になったんだろう?
 ならば、こんなことで資格を剥奪されるのは馬鹿げていると思わないか?」

「・・・・・・・・・思う。・・・ごめん・・・なさい」

自分には果たすべき目的がある。
ロイの言う通り、報告書なんてこんな紙切れに、血反吐を吐く思いで手に入れた資格を
剥奪されるわけにはいかない。
弟の為にも・・・自分の為にも。

「・・・・・・いい子だ」

エドワードの答えを聞いて、ロイは優しく頭を撫でた。
普段ならば、こんな子ども扱いをされて、何かしら反抗するエドワードだが
今回ばかりは反省したのか、ロイの膝の上で大人しくうなだれていた。





「ギャーーーーーーーーーッ!!」

ラッシュバレーの広場でエドワードの大きな叫び声が響いた。

「ど、どうしたの兄さん!!」

慌てて弟のアルフォンスが駆け寄る。

「ない・・・国家錬金術師の証・・・銀時計が・・・ないっ!!!」

「えぇっ!?」

「くっそぅ、さっきのヤツにスられたんだ!!
 追いかけるぞ、アル!!」

「う、うんっ!!」

エドワードはスリを追いかけるべく慌てて走り出し、アルフォンスはそれに続いた。





エドワードはこの前、執務室を出がけにロイにひとつ宣告されていたのだ。

曰く

「君は口で言うより、身体に覚えさせた方が早そうだ。
 よって、この先、各地で問題を起こした際には
 今日のようにお仕置きするからそのつもりで」

最後には

「これで君が問題を起こした時の書類に、サインする回数が減れば良いんだがねぇ・・・」

などと、ため息交じりなイヤミのおまけ付き。





(ど、どーしようっ!?国家錬金術師が銀時計を盗まれました〜なんて
大佐に知れたら・・・・・・!!)

『お仕置きだ』

絶対そう言われるに違いない。
想像しただけでもゾッとする。

「くっそぅ、絶対取り戻してやる〜!!」

どうやら、前回のお仕置きが相当効いたらしいエドワードは
スリを捕まえようと必死で街中を走り回る。
そして、そのスリとの追いかけっこに必死になりすぎた結果
街を錬金術で破壊したのがロイに知れて、エドワードがまたもこっぴどく
お仕置きされるのは・・・・・・・・・・・・もう少し後のお話。