ぷちらば


キリ番4000 「CASUAL」

エドワードが小さくなってから、早一ヶ月。
毎日アルフォンスと一緒に資料を探したり、文献を読んだりしているが
これといった方法は見つからず、エドワードは未だに小さな5歳児のままだった。

明日こそは・・・と思う反面、明日も成果がないのではないかと
少々の不安も胸をよぎる。
エドワードが『軍の狗』と罵られてまでも国家錬金術師の資格を取ったのは
賢者の石を探すため・・・もとい、今は鎧の姿をしている弟を元の身体に戻してやりたいからだ。
一刻も早く、弟を元の姿に戻してやりたい・・・そのためには、こんなところで
時間を取られている場合ではない。
そう頭では思っていても、なかなか成果は上げられない。

夜毎エドワードを襲うのは、明日こそ、と思う小さな期待と
それと同じくらいの焦りと・・・・・・・・・不安。





「やーだーッ!!オレも行きたいーッ!!」

東方司令部の廊下で、ロイは大声で叫ぶ子供を引き摺りながら
入り口までの道のりを歩いていた。

「だから・・・子供は危険だから入れられないと何度説明すれば気が済むんだね、鋼の」

先程から何度も説得しているのだが、ロイの右腕にぶら下がっている子供は
まるで納得しようとしない。

「だから、連れてけってばッ!!」

小さな頬をぷぅっと膨らませて、エドワードは拗ねたような顔で
ロイを見上げる。

「だから、ダメだと何度もそう言ってるじゃないか」

これからロイが向かう先は、その昔、錬金術師が森の中に建てたという屋敷。
建物自体は随分前から廃屋になっていたのだが、先日小さな地震があった際に
地下への通路が発見された。
その地下室がどうやら錬金術の研究室だったらしい。
薬品や錬成痕が多数発見されているのだが、何を研究していたかまでは判断できていない。
そこで、軍が安全確認の為に、その施設を調査することになったのだ。

その話をどこからか聞きつけてきたエドワードは、その錬金術師の研究室に
いたく興味を持ったらしく、読みかけの資料も放ってロイに飛びついてきた。

「だって、その錬金術師の研究所にいい資料とかあるかもしんねぇじゃん!!」

というのはエドワードの言。

ロイとしても、エドワードが元の身体に戻る為に、弟と一緒に毎日頑張っているのは
知っていたし、何とかしてやりたいという気持ちはある。
だが、得体の知れない研究室の・・・ましてや、危険かもしれない所へ
わざわざ子供を連れて行くなど、軍人としては出来ない。

「良い資料があったら回収してくる。
 調査の後には君に真っ先に見せてあげるから、それで我慢しなさい」

ロイとしてはこう言うしかなかった。
けれど、そんなことでエドワードが納得するわけもなく。

「そんなの調査なんていつ終わるかわかんねぇじゃん!!
 オレは早く色々見たいんだってばッ!!」

恨めしそうな顔でロイを睨みつけてくる。

そうこうしているうちに、ロイはエドワードを片腕にぶら下げたまま
司令部の入り口まで来てしまった。

「ほら、いい子で待っていなさい」

ロイは嫌がって暴れるエドワードを腕から引き離すと
そのままひょいっと入り口に放り、自らはさっさと階段を下りていってしまう。

「ちょっ・・・大佐、待てってばッ!!」

放り投げられて体勢を崩したエドワードも急いでロイを追いかけようと階段を下りるが
そこは大人と子供のリーチの差。
エドワードがぴょんぴょんと飛ぶように階段を下りきるより先に
ロイは階段下に待たせていた車に乗り込んで、さっさと出発してしまった。
ようやくエドワードが階段を下りきった時には、ロイの乗った車はもう通りの角を曲がるところで。

「たっ・・・・・・大佐のバカーッッ!!」

ぽつんと残されたエドワードの絶叫は、虚しく響き渡るだけだった。





その廃屋の屋敷には電気が通っておらず、辺りが暗くなってしまっては
屋敷全体の調査がおこなえない為、研究室の研究書類や薬品をいくつか運び出して
その日の調査は終わりになった。

ロイが司令部へ帰ってくると、待ち構えたかのようにバタバタと走ってくる音が聞こえる。

(・・・・・・・・・鋼の・・・だな)

案の定、ロイが廊下の半分も行かないうちに、向かい側からは赤いコートの子供の姿。

「大佐ッ、調査終わった!?」

言う・・・というよりは叫びに近い声を上げながら
エドワードはバタバタとロイの前まで走ってくる。

「ね、終わった!?」

相当楽しみにしていたのだろう。
エドワードはキラキラ期待に満ちた瞳で見上げてくるが
あの廃屋の調査はまだ始まったばかりで、エドワードが期待するような収穫は今のところ何もない。
これから後に、回収してきた書類や薬品の検査、引き続き廃屋になっている屋敷の調査。
それから、あの屋敷の主であり、地下の研究室で何かを研究していた錬金術師について
色々調べなくてはならない。
ややこしい手続きの書類やら、過去の資料とにらめっこする日々が続きそうで
ロイの仕事量は増える一方である。

「鋼の・・・君に資料が廻ってくるのは、最低でも10日以上はかかる。
 どんな研究をしていたのかもわからない今の状況では、君に渡せる資料はないよ。
 心配しなくてもちゃんと君に廻ってくるように手配してあげるから」

ロイはこれからの仕事量のことを考えて、思わずため息を吐きながら
エドワードの頭をポンポンと撫でてやった。

「う〜・・・オレは早く欲しいの!!
 10日以上って・・・そんなの待ってらんない!!」

しかしエドワードは、ロイの手を振り払うと、ギャーギャーと文句を言う。

「待てば必ず手に入るんだから、諦めて待ちなさい」

「う〜・・・・・・」

確かに検査の為ならば仕方がないし、大人しく待っていれば
ロイが必ずエドワードのことろへ廻してくれるだろう。
そうちゃんと理解しているつもりなのに、エドワードの心には
何故か焦りと不安の色が濃く映る。

「ちゃんと手配してあげるから、いい子で待ってなさい」

ロイはそんなエドワードの内情になど気が付かない様子で
さっさと執務室へ行ってしまった。

「・・・・・・・・・・・・・・・」

しばらくは廊下で考え込んでいたエドワードだったが
大きく深呼吸をしてから、キッと顔を上げると
パタパタとロイとは逆方向に走り出した。





左手には小さなランプ。
右手にはロイのデスクからくすねた地図が一枚。
背中には、ホークアイが以前買ってくれたウサギのぬいぐるみのようなリュック。
随分と可愛らしいデザインで、男の子が持つには少々恥ずかしいのだけれど
今は急ぎの事態なのだから、エドワードはこの際それには目を瞑ることにした。

街灯なんてどこにもない、真っ暗な林道。
本当に人が住んでいたのかも怪しい雰囲気の中を
エドワードは早足で目的地へと向かっていく。
もちろん、行き先は昼間にロイが調査に出かけた例の錬金術師の研究室。

「・・・地図パクっといて良かった〜。
 こんなとこ、絶対辿り着けねぇよ・・・」

言いながらエドワードは辺りを見回してみるが、そこにあるのは闇ばかりで
目印になりそうなものは何もなかった。
右手に握りしめた地図を見ながら歩を進めるうちに、少し開けた場所に出た。

「・・・ここだな」

目の前に現れた廃屋の屋敷を見て、エドワードは頷く。
屋敷の入り口前にはロープが張られ、立入禁止の看板が立てられているが
どうやら見張りの人間はいないらしい。
屋敷の周りには人の気配などなく、しん・・・と静まり返っていた。
代わりに風が吹く度に、ザザザッ・・・と木々の揺れる音が妙に大きな存在感を漂わせている。

「よしっ、じゃ行くか」

エドワードはキッと屋敷を見上げると、左手に握り締めたランプの火力を最大にして
真っ暗な屋敷の敷地内へと足を踏み入れた。

「確か、地下にあるんだよな・・・」

エドワードは小耳に挟んだうろ覚えの情報を頭の中から引っ張り出す。
記憶によれば、この屋敷の地下に錬金術の研究室があるとか。

明日になってしまえば、ロイや他の軍の人間が来て、重要な資料や薬品などは
全て回収され、精密検査にかけられるだろう。
そうなってしまうと、エドワードにその資料や検査結果が廻ってくるまで
確実に時間がかかってしまう。
それすなわち、この研究室の資料がエドワードにとって有益だった場合
身体が15歳に戻れる可能性がずっと先に延びてしまうということ。
そんなこと、エドワードが耐えられるはずもない。

エドワードとしては、有益かそうでないかを判断するだけで良いのだから
軍の検査よりも先に見せてもらえれば、それが一番良かったのだけれど
頭の堅いお役所には、そんな言い分など通用しない。
なので、軍の人間に資料を回収されるより先に、こうしてエドワードは
研究室に忍び込むことにしたのである。

「おっ、これかな?」

うろうろと屋敷の周りで地下への入り口を探していたエドワードだったが
ようやくそれらしいものを発見した。
錬金術で地面に扉を錬成して地下の研究室に入る仕組みになっていたらしい。
これでは今まで発見されなかったのも頷ける。

「こないだの地震で崩れたのか・・・」

半分ほど地面が崩れて、地下の研究室へと繋がる階段が顔をのぞかせていた。
エドワードは、階段にそっと足を下ろすと、そのままゆっくりと地下へと潜っていく。

「けっこう深いな・・・」

転ばないように気をつけながら、足を運ぶ。
階段を半分ほど降りたところで、入り口を振り返ってみると
真っ暗な夜空の雲間から、うっすらと月が姿を現した。
入り口から洩れてくる月光で、少しは明るくなったとほっとしていたら
突然、ザッと強く風が吹いた。

「おわっ!?」

突風は階段にまで入り込み、エドワードの右手に掴んでいた地図を攫ってしまった。
突然のことに慌てたエドワードは、風に攫われた地図を掴もうと
思わず手を伸ばし、そして、もう一度右手に地図を取り返した。
が、地図を掴もうと伸ばした右手によってエドワードは身体のバランスを崩し

「おわぁぁぁっ!!!」

階段を踏み外して、そのまま研究室の入り口まで転がり落ちた。

「う・・・うぅ・・・いってぇ・・・」

転がり落ちたせいで、せっかく右手に掴み返した地図はまたどこかへ行ってしまったし
左手に握り締めていたランプも、灯が消えて研究室のドアの前に転がっていた。
エドワードは立ち上がって、パンパンと服をはたく。
唯一、背中だけは、あのウサギのリュックのおかげで無傷だったが
守ってくれたウサギ自身は随分と汚れてしまった。

「あ〜ぁ・・・中尉・・・怒るかな・・・」

ウサギのリュックの埃を払いながら、買ってくれたホークアイの顔を思い出して
エドワードはしゅん・・・と俯く。
エドワードはなるべく丁寧に埃を払って、リュックを背負い直し
入り口脇に転がったランプを手に取った。

「ん?・・・あれ?」

ランプを手に取って灯を点けようとしたのだが、カチカチと音が鳴るだけで点火しない。

「あ・・・オイルがない・・・」

エドワードがよくよくランプが転がっていたところを見てみると
落とした拍子に壊れたのか、ランプのオイルらしき液体がじんわりと床を濡らしていた。

「あ〜ぁ・・・」

明かりがないのは心細いが、オイルがないのではしょうがない。
エドワードは諦めてランプを床に置くと、研究室の扉に手を掛けた。

ギギギ・・・と重い鉄製の扉を何とか押し開けて、真っ暗な研究室の中を
エワードは懸命に見渡す。
さすがに長年発見されていなかっただけあって、部屋の中は随分と埃っぽく
どこからか漏れたのか、妙な薬品の匂いが充満していた。

「何か資料は・・・と」

エドワードは真っ暗な中で懸命に目を凝らして、資料を探す。
もしかしたら、自分がこの5歳児の生活から逃れる方法が書かれているかもしれない。
あわよくば、賢者の石に関する情報も。
エドワードは期待を胸にしながら、丹念に研究室の中を歩き回る。

次第に目も慣れてきて、うっすらとではあるが、周りが見えるようになってきた。
エドワードは、本棚にあった資料や、机の上にある書類の束に
次々と目を通していく。

「・・・う〜ん・・・これは違うし・・・」

軍に回収された資料や薬品は、まだほんの一部であったらしい。
研究室の本棚には、まだまだたくさんの資料や薬品が置いてある。
エドワードは、手近にあった椅子に登って、今度は本棚の上の方の資料に手を伸ばす。
が、何かがおかしい。

「あ・・・れ・・・??」

本を掴もうと伸ばした腕が、何故かピリピリと痙攣している。
それは次第に身体中に巡って来て、ドクドクと妙に心臓の音が大きく聴こえだした。

(・・・やばいっ!!)

本能的に危機を感じ取ったエドワードは、何とか震える足で椅子から飛び降りて
急いで研究室の入り口に戻る。
しかし、妙に身体が重くて言うことを聞かない。

(・・・まずい・・・身体・・・動かな・・・)

入り口を目の前にして、ガクンと膝を落としてしまったエドワードは
そのまま床に倒れ込む。

(・・・・・・アル・・・)

名前を呼ぶことすら出来ず、口は薄く開くだけ。
視界はぼやけて何も見えない。
入り口まで何とか這ってでも出て行かなくては・・・と頭では思うのに
身体は逆にどんどん機能を低下させていく。

(・・・・・・たい・・・さ・・・)

エドワードはそのまま意識を失った。





「・・・・・・ぅ・・・ん・・・」

次にエドワードが目を覚ました時、真っ先に視界に入ってきたのは
真っ白な天井だった。
どうしてこんなところにいるのかわからなくて、もっと周りをよく見ようと
少し首を横に振ると、そこには鎧の弟の姿があった。

「・・・・・・・・・ア・・・ル・・・?」

エドワードが小さく口を開いた瞬間

「よ・・・良かった、兄さんッ!!」

いきなり、がばっと身体ごと抱きしめられた。

「え・・・ちょっ・・・苦し・・・アル!?」

目が覚めたばかりで、頭が未だにぼんやりしているエドワードは
何が起こっているのかサッパリ理解できない。

「兄さん・・・兄さん・・・ッ!!」

アルフォンスに、ぎゅうっと痛いくらいに抱きしめられながら
エドワードは何とか周りを見渡した。

真っ白な壁紙に、真っ白なカーテン。
それに鼻をつくこの消毒液の独特の臭いは・・・

「・・・・・・・・・病院・・・?」

ぽそっと呟くエドワードに

「もう、ホントに心配したんだからね!
 図書館から帰って来たら、兄さん病院に運ばれたって聞いて・・・」

ようやくアルフォンスは抱擁を止めて向き直った。

「・・・運ばれた・・・」

アルフォンスの言葉を反芻しているうちに、段々とエドワードの頭も働いてきた。

(そっか・・・オレ、あそこで気絶して・・・)

「ホントにもう、心配ばっかりかけないでよ・・・」

アルフォンスが、心底ほっとしたような表情で言う。

「う・・・うん・・・」

たった一人きりの弟に、さぞかし心配をかけただろと思うと
兄としては、素直に返事をするしかなかった。

「そうだ。兄さんの意識が戻ったって、大佐たちにも知らせてくるね」

いつも通りのエドワードを見て安心したのか、アルフォンスは
立ち上がると、さっさと病室を出て行った。

(・・・待てよ・・・あそこで倒れてるオレを助けてくれたのって・・・)

アルフォンスが病室を抜けて間もなく、カツカツと、あの独特の靴音が聞こえてきた。

(・・・まさか・・・)

エドワードの第六感は、危険信号を発していたが、逃げるには遅すぎた。

「・・・やぁ、鋼の。元気そうで何よりだね」

病室の入り口を見てみれば、それはそれは綺麗に微笑んでいるロイ。
それを見たエドワードは、ビクンッと身体を強張らせると、そのまま固まってしまった。





「まったく・・・気が付いて追ったから良かったものの・・・
 手遅れになっていたら、どうするつもりだったんだ、この馬鹿者!」

言いながら、ロイは容赦なくエドワードの真っ白なお尻に掌の赤い痕をつけていく。

「ふぇぇっ・・・いたいっ・・・やぁぁっ・・・いたぁぃっ!!」

あれから、ベッドで固まっているエドワードに、ロイは

「・・・もうわかっているね?」

ニッコリと笑いながら低く囁くと、暴れるエドワードを軽々と持ち上げて
膝の上でエドワードの小さなお尻を剥き出しにした。

それからは、お説教と容赦のない平手の嵐。

「だから、あれほど大人しく待っていろと言っただろう」

バチンッ!!バチィンッ!!パァンッ!!

「いたぃぃっ・・・だってっ・・・だってぇっ・・・」

この痛みから逃れようと、ジタバタとロイの膝の上で手足を動かしてみるものの
全く効果はなく、むしろ逆にきつく平手を打ち据えられる。

「何が『だって』だ。昼間に危険だから連れて行けないと
 何度もそう釘を刺したじゃないか」

パァンッ!!バチンッ!!バチンッ!!

「やぁぁっ・・・いたぁっ・・・いたっ・・・ひんっ・・・」

「言いつけも守らずに勝手に出歩いて、挙句にもう少しで
 死ぬところだったんだぞ?
 これぐらいで済んで、むしろ光栄だと思いたまえ」

パァンッ!!バチィンッ!!バチィンッ!!

「ふぇぇっ・・・やっ・・・も、やぁぁっ・・・いたぃぃっ!!」

エドワードがどんなに言い訳を並べてみても、ロイは全く聞き入れてくれない。
それどころか、いつも以上に厳しく平手を振り下ろされる。

「ひんっ・・・ふぇぇぇっ・・・」

病室中に響く肌を打つ乾いた音。
その音がするたびに、エドワードの身体はビクンッと跳ね、瞳からは
ボロボロと大粒の涙が床に零れ落ちた。

「も、やぁぁっ・・・やぁぁっ・・・」

エドワードの真っ白だったお尻は、今はもう真っ赤に腫れ上がって
焼けるように熱い。
触れられるだけでもかなり痛い状態なのに、ロイはまだ手を止めてくれない。

「わぁぁんっ・・・ひぐっ・・・うぇぇぇっ・・・」

確かに、勝手なことをしたのは自分。
けれど、それは早く元の身体に戻りたいと願う一心での行動だったのだ。
ロイだって、エドワードが一日でも早く元に戻りたいと思っているのは
知っているはずだ。
それなのに、今回ロイは10日以上も待てと軽々と言ったのだ。
それを思うと、エドワードは何だか素直になることは出来ず
ロイに散々お尻を引っ叩かれても、未だに『ごめんなさい』の一言が出てこない。

「ほら、鋼の。いい加減反省しなさい」

膝の上で、お尻がもう真っ赤になっているにも関わらず
未だにジタバタと抵抗を続けるエドワードに、ロイはピシャリと
少々強めに平手を振り下ろすと、静かに告げた。
だが、エドワードは

「ひくっ・・・ふぇぇぇ・・・やだっ、オレわるくないもん!!」

痛みでボロボロと涙を零しながらも、往生際悪く暴れ続ける。

「だってっ・・・はやく・・・もどりたっ・・・ふぇぇぇっ・・・」

「こら。だからってやっていいことと、悪いことがあるだろう?
 あの研究室は危険だと、何度も言ったじゃないか」

暴れるエドワードを、ロイは膝に抱え直して、バチンッ!!と平手で黙らせる。

「現に君は研究室の薬品で中毒を起こして倒れたじゃないか」

「ひくっ・・・だってっ・・・だってぇっ・・・」

さすがにエドワードもこれ以上お尻をぶたれてはたまらないのか
ロイの膝の上で少しは大人しくなった。
けれど、ぎゅっとロイのズボンを握り締めながら、まだ口では抵抗を続ける。

「『だって』じゃない。
 もう少し気付くのが遅れていたら、命取りになるところだったんだぞ。
 少しは反省しなさい」

言いながら、ロイは平手打ちを再開してくる。

「いたぁぃぃっ・・・やだぁっ・・・も、やぁぁっ!!」

触れられるだけでも充分に痛いのに、これ以上なんて耐えられるわけがない。

「わぁぁんっ・・・やだぁっ・・・ふぇぇぇっ!!」

「ぶたれるのが嫌なら、ちゃんと『ごめんなさい』を言いなさい」

「ふぇぇっ・・・だってぇ・・・オレ、わるくなっ・・・!!」

「『だって』じゃない」

「やぁっ・・・だってっ・・・だってぇっ・・・」

「いい加減にしなさい!」

バチィィンッッ!!

「――――――ッ!!」

たった一回だけれど、今までのものとは比べ物にならないくらいの鋭い痛みがエドワードを襲う。
そのあまりの激痛に、エドワードは悲鳴を上げることすら許されず
ギュッと瞑った瞳から、ボタボタと大粒の涙が床に落ちる音だけが聞こえた。

「さて・・・まだ反省できないかね?」

頭上からは、いつになく冷たいロイの声。
その声が、ロイはエドワードが反省するまで、さっきのように容赦なく
お仕置きするのだと告げていた。

「ふぇぇっ・・・やぁ・・・ご・・・めなさ・・・ひくっ・・・うぇぇぇっ!!」

さっきの容赦のない平手と、ロイの冷たい声と。
何もかもが怖くて、エドワードはより盛大に泣き出してしまう。

顔をぐしゃぐしゃにして泣きじゃくるエドワードを、ロイはそっと抱き上げると
自分の膝の上に、ちょこんと向かいあわせで座らせてやる。

「まったく・・・最初から素直になれば良いものを・・・」

少々呆れ気味になりながらも、ロイはエドワードの真っ赤になったお尻を
そっと撫でてやる。

「わぁんっ、いたぁぁっ!!」

触れられるのですら痛みを感じるのか、エドワードはぎゅうっとロイにしがみついて
わぁわぁと泣き喚く。
そんなエドワードを見ながら、ロイは大きくため息を吐くと

「まったく・・・本当に困った子だな、君は」

泣きじゃくるお子様の背を撫でながらあやしてやった。





「ぐすっ・・・なぁ・・・たいさ・・・」

膝の上で大人しくなったエドワードが、ぎゅっとロイの軍服を掴んで小さく呼ぶ。

「ん?何だね?」

「あのさ・・・・・・アル・・・アルに・・・言った?」

何を・・・と聞き返す必要もない。
今回のこのエドワードの入院騒動の顛末についてだろう。

たった二人きりの兄弟。
お互いがお互いを想う絆は、この兄弟の場合、かなり強い。
だからこそ、相手を不安にさせたり、心配をかけたりするのは憚られるのだろう。
特に、あの優しい鎧の弟に対しては。

「・・・いや。
 アルフォンス君には、資料室の棚から落ちて頭を打ったと説明した」

そんなエドワードの弟想いな一面を知っているロイは
今回、アルフォンスには余計な心配をかけることもないだろうと
事実を告げなかった。

「・・・そっか。・・・・・・あ、ありがと・・・」

自分ひとりで突っ走って、挙句に死にかけたなどと言えば
きっとエドワードの焦りを察して、アルフォンスにはこれまで以上に
余計な負担をかけることになっただろう。
そう思うと、今回ばかりはロイの気遣いに、エドワードは素直に感謝するしかなかった。

「・・・鋼の。焦るのはわかるが、無理は禁物だ。
 いつも今回のように、運良く助かるとは限らない」

「・・・・・・・・・うん」

「君には大切な弟がいるんだから、彼のことも考えて行動しなさい。
 君は『お兄ちゃん』なんだろう?」

「・・・・・・・・・うん」

さすがに今回ばかりはエドワードも反省したのか、しゅん・・・と俯いたまま
ロイの言葉に小さく返事をする。





「大佐、もう宜しいですか?」

ホークアイが病室に顔を覗かせたのは、丁度エドワードが泣き疲れて
目蓋を閉じた頃だった。
それを見たホークアイは

「・・・ご所望の書類・・・今は必要ないみたいですね」

気持ち良さそうに眠るエドワードの頭を撫でながら、クスクスと笑う。

「大佐も・・・教えてあげれば良かったんじゃありませんか?
 資料の一部を今日中に検査するように手配してある、と」

言いながらホークアイは持ってきた封筒をロイに差し出す。
それを受け取りながらロイは

「それを言ったところで、このトラブルメーカーが大人しくしていると思うかね?
 どうせそれすら待ちきれずに同じように研究室に乗り込んだに決まっている」

膝の上ですやすや眠るエドワードの鼻をぎゅっと摘んでやった。

「・・・んぅ〜・・・」

エドワードは顔をしかめるものの、起きる気配はない。

目が覚めたら、エドワードはどんな顔をするだろうか。
資料に飛びついて大喜びするのだろうか。
それとも、手配していたのに黙っていたことを怒るだろうか。

「大佐は、結局はエドワードくんに甘いんですから」

「おや、リュックに発信機を付けていた君に言われるとはね」

ロイとホークアイは、お互いに苦笑しながら、話の中心人物を見やるが
小さなお子様は相変わらず、すやすやと気持ち良さそうな寝息をたてていた。

おれんじ様へ、キリ番4000GETありがとうございました。