ぷちらば


キリ番3773 「ちょっとした大騒ぎ」

東方司令部の4階。
男と小さな子供と、二人きりの執務室は、まるで静かな法廷のようで。

「ちょ・・・ちょっと触っただけ・・・だもん・・・」

被告人、エドワード・エルリック。
彼は、小さな口を尖らせて、ぼそぼそと言い訳を口にする。

今回の罪状は、発火布による悪戯(3回目)。

「ほぅ・・・では、発火布に触っただけでカーテンが燃えたとでも?」

裁判長、ロイ・マスタング。
真っ白な発火布の手袋と、一部焦げたカーテンという物証をテーブルに並べ
被告人を追い詰めていく。

「う・・・ホントにちょっとだけ・・・だもん・・・」

だが、被告人エドワードは往生際悪く、罪を認めようとはしない。

「鋼の・・・これで何回目だ?
 あれほど発火布には手を触れるなと言っているだろう?」

「だって・・・・・・」

言い訳ばかりのエドワードに呆れたロイは、はぁ・・・と深くため息を吐くと
そっとエドワードに手を伸ばす。

「この間のお仕置きでは足りなかったらしいね。
 今日は徹底的に懲らしめるから、覚悟しなさい」

「やっ・・・やだっ・・・やぁぁーッ!!」

ジタバタと暴れるが、時すでに遅し。
身体ごと持ち上げられて、どっしりとソファに腰掛けたロイの膝の上に乗せられてしまった。

「うえぇぇっ・・・やだぁぁっ!!」

どれだけ叫んでも、どんなに暴れてもロイはびくともしない。

「さて・・・この間の100回では足りなかったらしいから
 今日はもっと・・・・・・300回だな」

「なっ・・・そんなの死んじゃう!痛くて死んじゃうっ!!」

被告人、エドワード・エルリック。
罪状、発火布による悪戯(3回目)。

「やぁっ・・・やだっ・・・やだぁぁぁーッ!!」

被告人の悲痛な叫びが響き渡る法廷で、無情にも判決は言い渡される。

判決・・・裁判長によるお尻ぺんぺん300回。





「うぇぇっ・・・ひぐっ・・・ふぇぇぇんっ・・・」

真っ赤に腫れ上がった自分のお尻を擦りながら、エドワードはロイの膝の上で
ぐすぐすと泣きじゃくっていた。

いつも50回を過ぎる頃には痛みを堪えきれず、涙をボロボロ零して許しを請うのに
当然、300回なんて途方もない数を耐えられるわけもなく。
結局、泣きじゃくりながら必死に『ごめんなさい』を繰り返して
何とか半分の150回で許してもらった。
それでも最後の方なんて『ごめんなさい』すらきっちり言葉にならなくて
痛くて痛くて泣き喚いていただけなのだけれど。

「うぇぇ・・・ぐすっ・・・ひくっ・・・ふぇぇぇ・・・」

「わかっていると思うが、今度何かしでかしたら今日の残りの150回も
 きっちりと追加するからね」

ポンポンと頭を撫でてくるロイの手は優しいのだけれど、口から出てくるセリフは手厳しい。

「ふぇぇっ・・・も、やだぁぁ・・・」

半分で許してもらえたと思っていたのに、結局はツケとして
いつかは精算しなくてはいけないのだと知らされたエドワードは
余計に泣き出したが、ロイは

「君がいい子にしていればいいだけの話だろう?」

そう正論を言いながら、エドワードの頭を撫でるだけだった。





「むぅ〜・・・・・・まだ・・・いたぃ・・・」

ズボンの下は真っ赤に染まっているお尻を擦りながら、エドワードは司令部の
長い廊下を執務室へ向って歩いていた。

ロイの手で散々泣かされて、『ごめんなさい』を連呼していたのは、3時間ほどの前のこと。
あれから時間もそこそこ経つのに、お尻が痛いのは変わらない。
まだ熱いし、ヒリヒリ痛むから、資料室の床に座り込んで本を読んでいても落ち着かない。
何より、資料室の床は固いので、余計にお尻が痛いのだ。

目的地に到着したエドワードは、いつもの見慣れた扉を開いて
そこからきょろきょろと室内を見渡す。

「あれ・・・?大佐いない・・・」

パタンと扉を閉じて、室内に入るが、そこでいつも書類と格闘しているロイの姿は無かった。

「・・・ま、ちょうどいっか」

そう呟くと、エドワードは、パタパタとロイの執務椅子の前まで駆け寄り
そのままポスンと座席に腰を掛ける。

「・・・・・・・・・・・・」

資料室の床や、図書館の木の椅子では、真っ赤に腫れ上がったお尻には
いかに時間が経っていようとも、やはり痛い。
けれど、さすがは上級仕官の仕事部屋。
ロイの執務椅子は革張りだし、座席も柔らかいから、座ってもあまり痛くない。

「・・・うん、これならゆっくり読める」

座り心地に満足したエドワードは、早速資料室から持ち出してきた文献を広げた。





「・・・・・・うぅ・・・・・・む〜・・・」

それからしばらくは落ち着いて文献と向かい合っていたエドワードだが
それも長くは続かなかった。
お尻自体が熱を持っていて痛むのだから、いくら上等な柔らかい椅子だとしても
長い時間座っていれば、次第に痛みも増してくる。

「・・・・・・やっぱり・・・いたぃ・・・」

再び、落ち着いて読書なんてしている場合ではなくなってしまったエドワードは
もじもじとロイの執務椅子の上で動く。
それにしても、お尻が痛くて文献もろくに読めないなんて情けない。
それというのも・・・・・・

「あの鬼大佐がいっぱいぶつから・・・!!」

エドワードはお尻を擦りながら、ブツブツとロイに対する文句を呟く。

「だいたい、ちょっと試しただけであんなに怒ることないじゃんか。
 オレにばっかり厳しくしやがって・・・」

エドワードは読んでいた文献を、ぽいっと机に放って、持ち主がいないのを良いことに
ガツンッと机を小さな足で蹴ってやった。
同時に、机に乗っていた書類が、衝撃でパラリと何枚か床に落ちる。

・・・と、床に落ちた書類を眺めていたエドワードの頭に、ふっとある考えが浮かんだ。

「・・・・・・・・・・・・そうだ、大佐も怒られりゃ良いんだ」

エドワードはニヤリと口角を上げると、書類を拾い上げ
自分が先程持ってきた文献を一緒に掴むと、そのまま執務室を後にした。





それから幾日か経って、エドワードがいつものように、ロイの執務室へと入った時のこと。
自分の執務机の引き出しを片っ端から開けて、ガサガサとその中を漁るロイの姿があった。

「大佐・・・・・・何やってんの?」

床を見れば、引き出しごとひっくり返したのか、クリップやら、ペンやらの文具が
散乱しているし、書類も書棚の前にまで散らばっている。

「あぁ・・・鋼のか」

ロイはエドワードを一瞥すると、今度は机の下を覗き込み始めた。

「こんなに散らかして・・・中尉に『仕事もしないで!』って怒られるぞ?」

エドワードは床に散らばったものを踏まないように気をつけながら
床に這いつくばって、机の下に手を伸ばしているロイの元へと近寄る。

「中尉には、さっきもう雷を喰らったよ。
 う〜ん・・・これも違うか・・・」

ロイは机の下から引っ張り出した埃だらけの書類を見て
ガックリと肩を落とした。

「・・・で?さっきから、なに探してんの?」

「あぁ・・・それがだね・・・」

ロイがさっきから部屋中を引っ掻き回して探しているのは、数枚の書類。
何日か前にはちゃんと執務室にあって、確かにロイもその書類に目を通したのは覚えている。
問題は、その後、書類がどこにいってしまったかということ。
気付いてみれば、その書類は机の上から消えていたし、ロイにしてみれば
サインをした後だから、ホークアイが持っていたものだと思っていた。
けれど、彼女はそんなことは知らないと言うし、現に事務室で処理された形跡は無い。
となると、執務室のどこかで他の書類と一緒に混じっているか
ロイが誤って処分してしまったかのどちらかということになる。

「それって・・・・・・重要な書類なわけ?」

「・・・だから、さっき中尉の雷が落ちたんだよ・・・」

エドワードの質問に、ロイはげっそりとした顔で呟いた。

優秀な副官である彼女は、上司に対しても手厳しいところがある。
彼女なら、「晴れの日も無能になりたいんですか、大佐?」と
ニッコリ笑いながら、銃を片手に平然と言ってのけるだろう。
現にそれに近いことを言われたのか

「・・・書類が見つからなかったら、今度こそ・・・射殺される・・・」

書類を探すロイの冷や汗は尋常ではない。

「2・3日前には確かにあったと思うんだが・・・・・・」

「ふぅん・・・・・・」

困った顔をしているロイとは逆に、エドワードの胸中は

(・・・ざまーみろ)

なんて、思って赤い舌を出していたり。

これは良い機会なのかもしれない。
普段、ロイに厳しく叱られている身としては、たまにはちょっとくらいロイだって
誰かに怒られても良いものだと思う。

けれど・・・・・・

「あれがないと決済が下りんのだよ・・・」

いつまでも困った顔をして書類を探しているロイを見ていると、今度は

(・・・う・・・どうしよう・・・)

なんて気持ちに支配されてくる。

実は、エドワードはロイの探しているその書類の行方を知っている。
何故なら、この間叱られた腹いせに、「大佐も怒られればいいんだ」なんて考えて
この執務室からこっそり書類を持ち出したのはエドワードなのだから。

「・・・そういえば、鋼のは何か用事があったんじゃないのかね?」

「えっ!?・・・あ、いや・・・その・・・」

そわそわと落ち着かなくなってきたエドワードは、急に声を掛けられて
ビクンッと弾かれるように、ロイの方へと向き直る。

「ん?何か用事があって来たんだろう?」

ロイが、トントンと机の上の書類を整理しながらエドワードに尋ねるが
自分が隠した書類が、実は結構に重要なものだったと知ってしまったエドワードは

「えと・・・なっ・・・なんでもないっ!!」

明らかに動揺した顔をしながら、猛ダッシュで執務室を飛び出した。

「・・・なんだ??」

いきなり不審な態度を取るエドワードの背を、ロイは不思議そうに見つめたが
追いかけはせずに、そのまま見送った。
エドワードよりも、今は先に問題の書類を見つけなければ
自分はまたあの優秀な副官に雷を喰らってしまうのだから。





エドワードは、司令部の長い廊下をパタパタと走ると、一目散に資料室へ飛び込んだ。

「大したことないって思ってたけど・・・・・・」

この間、書類をこっそり隠したのは、この資料室の書棚の一番上の段。
誰にも見つからないようにと、本の奥にぎゅうぎゅうと詰め込んでおいたのだ。
エドワードは、棚の仕切り板に足をかけて、小さな身体で懸命に資料棚をよじ登る。

「・・・そんなに重要な書類だったなんて・・・・・・」

少しロイを困らせてやろうなんて思って仕掛けた些細ないたずら。
それが、こんな重大な問題になってしまうなんて・・・。

「・・・・・・こっそり戻さなきゃ・・・」

エドワードは懸命に手を伸ばして、書棚の奥に隠した書類を掴み取った。

その瞬間

「あ、兄さん!」

丁度、図書館から帰ってきたアルフォンスが資料室へ顔をのぞかせた。

「えっ・・・あ・・・アル!?」

こっそりと・・・なんて思っていたのに、早速アルフォンスに現場を見られてしまい
動揺したエドワードは、ズリっと仕切り板に引っ掛けていた足を踏み外した。

「おわぁっ!?」

「あっ・・・あぶなっ・・・!!」

バランスを崩し、そのまま床に背中から落ちると思って
目をギュッと瞑っていたエドワードだったが、衝撃はいつまで経ってもやってこない。
不思議に思って目を開いてみると

「もう・・・ビックリさせないでよ〜・・・」

目の前には、少し呆れ気味の弟の顔。
どうやら床に落ちる前に、抱きとめてくれたらしい。

「あ・・・・・・アル・・・・・・ありがと」

エドワードは、ほっとため息を吐くと、アルフォンスにお礼を言った。

「ホント危なっかしいんだから・・・」

アルフォンスは多少呆れたような声を出しながらも、同じようにほっとため息を吐く。

と、そこへ、アルフォンスの目に、兄の持っている紙切れが映った。

「・・・あれ?兄さん、何持ってるの?」

「へっ・・・!?」

内容を読むまでもなく、軍のシンボルである紋章が入った用紙は
軍関連の書類であることが見てとれる。
エドワードは慌てて自分の背中に隠したが

「それって・・・もしかして、大佐が探してる書類じゃないよね?」

その行動を不審に思ったアルフォンスに図星をつかれてしまった。
どうやらアルフォンスは資料室へ来る前に、執務室へ寄って
あの床に這いつくばったロイの姿を見て、事情を知ったらしい。

「どうなの、兄さん?」

棚から落ちたところを抱きとめられた状態のままだから、今ここで
自分のしでかしたいたずらがバレてしまうと、そのまま簡単にアルフォンスの膝に
引き倒されて、その大きな鎧の手で痛い思いをさせられるのは目に見えている。

「えっと・・・これは・・・そのっ・・・」

それだけは何とか避けようと、エドワードは必死に頭を回転させる。

「その・・・い・・・今、見つけたっ!!」

何とか浮かんだ言い訳を口にしてみるが

「・・・・・・・・・ホントに?」

案の定、ますます不審な目で見られてしまう。

「・・・ほ・・・ホント・・・・・・」

「・・・ホントに、ホントなの?」

「・・・ほ・・・ほん・・・と・・・」

訊いてくる口調とは裏腹に、ギッと厳しい視線を送られて

「・・・・・・・・・・・・じゃなぃ・・・・・・」

エドワードはとうとう白状する羽目になってしまった。

「・・・・・・やっぱり」

短くそう言ったかと思うと、アルフォンスはエドワードの身体をふわりと浮かせて
床に胡坐をかいた自分の膝の上に寝かせる。

「やっ・・・まっ、待って!!違う・・・違うんだってばっ!!」

これから先に起こることがわかりきっているエドワードは、ジタバタと往生際悪く暴れたが

「・・・何が違うの?」

アルフォンスはエドワードの抗議など耳も貸さずに、スルリとエドワードのズボンを
下着ごと脱がして、小さなお尻を剥き出しにした。

「や、だからっ・・・わざとじゃないっていうか・・・」

弟の鎧の手の痛さを充分知っている小さな兄は、ぶたれてもいないのに
瞳の端にうっすらと涙を浮かべて、情けない顔で弟を見上げる。

「『わざとじゃない』って・・・兄さんが大佐の書類隠したのは、ホントのことでしょ?」

「だってっ・・・ちょっと困らせてやろうって思っただけで・・・
 まさか、あんなに困って・・・大騒ぎになるなんて・・・・・・」

些細ないたずらだったと、ボソボソと小さく意見するが

「思ってもみなかった・・・なんて言っても、兄さんがいたずらして
 大佐の書類を隠しちゃったのは、ホントのことなんでしょ?」

「うぅっ・・・・・・」

逆にアルフォンスに諭すようにそう言われて、もはや、ぐうの音も出なくなってしまった。

「まったく・・・こんないたずらするなんて、ホントに子供みたいなんだから」

アルフォンスが、小さくため息を吐いたかと思うと

バチンッ!!バチンッ!!パァンッ!!

「やっ・・・ひっ・・・いたぁぁっ!!」

無情にも鎧の手は振り下ろされて、お仕置きは始まった。

今はエドワードが5歳児だから不自然には思えない光景かもしれないけれど
本当ならば、エドワードは15歳で、この鎧の弟の兄なのだ。
いくらエドワードの方が小さくて、アルフォンスの方が大きいからといって
一応は先に生まれてきた兄なのだから、弟にお仕置きされているなんて恥ずかしい。

バチンッ!!パァンッ!!パァンッ!!

「ひぅっ・・・・・・うぇぇっ・・・やっ・・・やぁぁっ!!」

そうは思うのだけれど、痛いものは痛い。
エドワードは、もはや兄の威厳だとか、そんなものにこだわっている場合ではなくなってしまって
顔を真っ赤にしながら、ポロポロと涙を零した。

「まったく・・・いつもいつもいたずらばっかりなんだから・・・」

パンッ!!パチンッ!!バチンッ!!

「ふぇぇ・・・だってぇっ・・・ひくっ・・・も、やぁぁっ!!」

「『やだ』じゃないでしょ?悪いことしたのは誰?」

パァンッ!!パチンッ!!バチンッ!!

「だってっ・・・だってぇ・・・ふぇぇぇっ・・・」

「もう、『だって』じゃないでしょ。誰が悪いから、こんなに痛いことされてるの?」

『嫌だ』や『だって』を繰り返すばかりで、一向に自らが悪いとは認めようとしないエドワードに
アルフォンスは、少々きつく平手を打ち据える。

パァンッ!!バチンッ!!バチンッ!!

「ひぁっ・・・も、やぁ・・・いたぁぃ・・・わあぁんっ!!」

「・・・・・・兄さん、誰が悪いの?」

バチンッ!!パァンッ!!バチィンッ!!

「うあぁんっ・・・やぁっ・・・オレっ・・オレがわるいぃっ・・・ふぇぇぇっ!!」

お尻はもう赤くなっていて、じんじんと痺れるように熱い。
それなのに、アルフォンスはまだ手を止めてくれる気配が無くて
エドワードは膝の上でビクビクと怯えながら、懸命に叫んだ。

「じゃぁ、ちゃんと大佐のところへ行けるよね?」

「ふぇっ・・・?」

ふいに手を止めたアルフォンスにそう尋ねられて、エドワードは
一瞬何のことだかわからず、涙でぐしゃぐしゃになった顔でアルフォンスを見上げた。

「ちゃんと大佐に謝らなきゃダメでしょ?」

そう言われて、エドワードはハッと気付く。

『今度何かしでかしたら、今日の残りの150回もきっちりと追加するからね』

この間のお仕置きの時、何とか泣いてすがって許してもらった150回のツケ。
今、ロイのところへ行ってしまったら、今回のお仕置きにプラスしてこのツケが
追加されてしまう。

「ほら、大佐のところに行くよ」

アルフォンスにズボンを直されて、サッと腕に抱えられてしまったにも関わらず
エドワードはアルフォンスの腕の中でジタバタと大きく暴れる。

「やだっ・・・やだぁぁっ!たいさのとこには・・・いきたくないぃっ!!」

どんなに暴れても、叫んでも、自分の倍以上は背丈も力もある相手に敵うわけも無い。

「アルっ・・・やぁぁっ・・・ホントに・・・おねがいだからぁっ!!」

もうお尻は充分痛いし、これ以上は耐えられそうもない。
それに、ロイがこんないたずらをしでかしたエドワードを簡単に許すとは思えない。
この間のツケも合わせて、どう考えても200以上は絶対にぶたれる。

「おねがいっ・・・アル・・・も、おしりいたいのやだぁぁっ!!」

アルフォンスが一歩ずつ執務室へ近づくごとに、エドワードはビクビクと怯え
両腕を弟の頭に回して、ぎゅうっと抱きついた。

「ダーメ。中尉も少尉も、皆あの書類探したんだって言ってたよ。
 迷惑掛けたんだから、ちゃんと謝らなきゃ」

だが、エドワードがこんなにも怯える理由を一切知らないアルフォンスは
無情にもスタスタと歩を進めていく。

「うぇぇっ・・・も、しないからぁっ・・・・・・ふぇぇぇんっ!!」

エドワードは泣きじゃくりながら、必死にアルフォンスに懇願するが

「いたずらしたのは兄さんなんだから、ちゃんと謝らなきゃダメでしょ?」

全く聞き入れられず、結局は抱えられたまま執務室の前にまで
連れて来られてしまった。





コンコン、と2回ノックを響かせて、アルフォンスは執務室の扉を開く。

「やだぁっ・・・やぁ・・・ふぇぇっ・・・やーだぁーっ!!」

だが、エドワードは往生際悪く、まだアルフォンスの腕の中でジタバタと暴れていた。

「・・・おや、アルフォンス君。それに鋼のも・・・どうしたんだね?」

ついに机の探索を終えたのか、先程来た時と比べて、随分と室内は片付いている。
ロイは、いつもの執務椅子に座って兄弟を出迎えた。

「ほら、兄さん。ちゃんと言わなきゃ」

アルフォンスは、暴れるエドワードをそっと床に降ろすと、エドワードの背中を押しながら
ロイの方へと近づいていく。

「ふぇぇぇっ・・・やぁっ、やだぁぁっ・・・」

エドワードはここまで来ても、まだ往生際悪く暴れていたが、アルフォンスに両腕を
掴まれて、半ば強制連行されるような形でロイの前に立たされてしまった。

「おやおや、また何かしでかしたのかね?
 随分と叱られたようじゃないか、鋼の」

グスグスと鼻をすすって、泣き腫らした真っ赤な目には大粒の涙を溜めて。
ぐしゃぐしゃになったエドワードの顔からは、アルフォンスにお仕置きされたのだと
安易に想像できた。

「ほら、兄さん。ちゃんと『ごめんなさい』しなきゃ」

アルフォンスにコツンと小突かれたが

「ぐすっ・・・だって・・・・・・やだぁっ」

エドワードはこれから自分の身に起こることを考えると、どうしてもロイに
本当のことを告げるのが怖くて、サッとアルフォンスの後ろへ身を隠してしまう。

「・・・・・・・・・兄さん」

だが、普段温厚な弟から、聞き慣れぬ低い声が響くと、ビクンッと身を強張らせて
アルフォンスの影から、ちらりとロイの様子を覗き見る。

「鋼の、今回は何をしでかしたんだね?」

弟の影に隠れながら、ビクビクと怯えきった表情でロイを見上げてくるエドワード。
その様子から察するに、何か大きなことをしでかしたに違いないと
ロイは今までの経験上、そう感じていた。

「鋼の、言ってごらん?」

少しでも言いやすいようにと、ロイはそっと膝を折ると、エドワードの視線に合わせてやる。

「ほら、兄さん。ちゃんと言わなきゃダメでしょ」

影に隠れていたエドワードを、アルフォンスが鎧の手でそっと押し出した。

「ぐすっ・・・・・・・・・ごめ・・・なさぃ・・・」

前面に押しやられて、ロイと真正面から向き合う形になったエドワードは
仕方がなくロイと視線を合わせると、ボソボソと小さく言った。

「・・・鋼の、何が『ごめんなさい』か言ってくれなくてはわからないだろう?」

「・・・だって・・・・・・」

『何が』の部分を言ってしまったら、自分は相当痛い思いをすることになる。
それがわかっていて、素直に言えるはずもない。

「・・・・・・・・・・・・・・・」

エドワードは、ロイから視線を外して俯くと、そのまま黙り込んでしまった。

「・・・鋼の、言ってごらん?」

ロイは、ポンポンと頭を撫でてやりながら、そっとエドワードの顔を覗き込む。

「うぅ〜・・・・・・」

言いづらそうに唸っていたエドワードだが

「ほら、兄さん」

またしてもアルフォンスに小突かれて

「・・・あ・・・あの・・・大佐の書類・・・」

ようやく、小さくだが口を開いた。

「・・・書類?」

いきなりエドワードの口から飛び出してきた言葉に、ロイは小首をかしげる。

「さっきまで大佐が探してたヤツ・・・・・・」

「あぁ、あの書類か・・・」

「その・・・・・・それ・・・隠したの・・・・・・・・・オレ・・・」

そう言った瞬間、穏やかに笑っていたロイの顔に青筋が入ったのは
きっとエドワードの見間違いではない。

「そのっ・・・ちょっと困らせてやろうって・・・思っただけ・・・で・・・」

慌てて言い訳を並べてみるが、もう遅い。

「・・・アルフォンス君・・・ちょっとお兄さんを借りるよ」

言いながら、サッと小脇に抱えられてしまった。
ニッコリと笑ってアルフォンスにそう言ったロイの目は決して笑っていない。

「えっと・・・じゃぁ、僕はあの書類を中尉に渡してきますね」

アルフォンスは、この後のエドワードの運命に合掌しながら

(今日の晩御飯はシチューにしてあげよう・・・)

せめてものアフターケアに、今夜はエドワードの好物を
用意してあげようと、そう決めた。





「ごめんなさいっ!!ごめんなさいっ!!もうしませんーっ!!」

パタリと執務室の扉が閉じられた瞬間、エドワードの絶叫がこだまする。
小脇に抱えられている以上、お仕置きは免れない。
今、エドワードに出来るのは、必死に謝罪して、少しでも罰を軽くしてもらうことだけ。

「もうしないっ・・・ホントにしないからーっ!!」

ジタバタと小脇で暴れながら、必死に訴えるが、何の効果もなく
抱えられたまま、ぐいっと少々乱暴に下着ごとズボンを下ろされてしまう。

「やっ・・・やだぁぁっ!!」

さっきアルフォンスにお仕置きされて、少し色づいたお尻が外気に晒される。
エドワードは恥ずかしさから、プラプラと手足が床につかない不安定な状態でも
更に勢いよく、ジタバタと暴れた。

「まったく・・・君は少し『懲りる』ということを学んだ方がいい」

ロイは小さくため息を吐くと

バチンッ!!バチィンッ!!

「やっ・・・・・・ひんっ!!」

エドワードの小さなお尻めがけて、大きな手を容赦なく振り下ろした。

「いつもいつも、いたずらばかり・・・」

パァンッ!!バチンッ!!パンッ!!

「やぁっ・・・・・・いぅっ・・・・・・ふぇぇっ・・・」

「悪い子はどうされるか、まだわかってないようだねぇ・・・」

ロイは淡々とお説教をしながら、呆れ気味に、はぁ〜っとため息を吐く。
だが、エドワードはそんなロイのお説教など聞いている余裕もない。
怒っているロイは怖いし、何よりも容赦なく振り下ろされる平手は痛い。

「ふぇぇんっ・・・やぁっ・・・も、しないからぁっ」

部屋中に響く、肌を打つ乾いた音。
それは、どんなにエドワードが泣いて叫んだところで止まることはなかった。
ロイのお説教と同じように、淡々と何度も何度も部屋に響く。

「うぇぇ・・・ごめ・・・なさぃぃっ・・・ひくっ・・・ぐすっ・・・も、やぁぁっ・・・」

アルフォンスにお仕置きされて色づいていたお尻は、もうとっくに真っ赤で。
何度も何度も繰り返される打擲に、じんじんと熱を持って痛みを主張する。

「おねがっ・・・ひくっ・・・たいさ・・・おねがいぃっ・・・も、ゆるしっ・・・」

いつまで経っても止まってくれないロイの手。
どれだけジタバタと暴れても、何の意味も成さないことくらい
エドワードだって嫌というほどわかっていた。
けれど、もうこれ以上は耐えられなくて、両腕を動かしてパシパシとロイの背を叩く。

「こら、大人しくしていなさい」

バチィンッ!!

「うわぁぁんっ!!」

だが、ロイに余計容赦のない力で罰を与えられてしまう。

泣いてもダメ。
お願いしてもダメ。
暴れてもダメ。

「ひくっ・・・ふぇぇっ・・・も、やぁぁっ・・・ふぇぇぇんっ!!」

何をしても、もう許してもらえないのだと、そう悟ったエドワードは
何だか悲しくなって、ボロボロと余計に大粒の涙を零した。

「ぐすっ・・・・・・ごめっ・・・なさぃぃ・・・うぇぇぇっ・・・」

泣き叫んでろくに声も出ない喉から、搾り出すように言いながら
エドワードは、きゅっとロイの背中の軍服を小さな手で握り締めて
必死に痛みに耐える。
もはや抵抗なんてする気力もなく、早くこのお仕置きが終わりますようにと
祈るだけで精一杯。

「・・・・・・少しは懲りたかね?」

ふいに視界が反転したかと思ったら、目の前にはいつもより少し厳しいロイの顔。
小脇に抱えられた状態から、そっと正面に抱き上げられたようだ。

「ふぇぇぇっ・・・」

さっきの質問に答えようとしたのだけれど、エドワードはようやく許されたのかもしれないと
思うと気が抜けて、ちゃんとした言葉にならない。
泣き顔を見られないようにロイの首に両腕を廻して、グスグスと泣きじゃくる。

「まったく・・・本当に困った子だな、君は・・・」

質問には答えないけれど、自分に縋りついて泣くエドワードを見れば
答えは一目瞭然。
ロイはポンポンとエドワードの頭を優しく撫でてやりながら苦笑した。

「さて・・・じゃぁ、ついでにこの間の150回のツケを払ってもらおうか」

「ふぇっ!?」

ロイの言葉に、エドワードは驚いて、泣きじゃくっていた顔を上げる。

「この間、言っただろう?
 『今度何かしでかしたらキッチリ追加する』とね」

言いながらニッコリと微笑むロイだが、例によって目は笑っていない。

「ふぇ・・・そ・・・そんな・・・」

ロイのその一言で、エドワードは顔面蒼白になる。
さっきまでのお仕置きでもう充分お尻は真っ赤だし、とんでもなく痛いのに
これ以上なんて、とてもじゃないが耐えられるわけがない。

「さて、今日はじっくり反省してもらおうか」

ロイはエドワードを抱きかかえたまま、ソファに移動し
どっしりと腰を下ろした。

「や・・・やだぁぁっ!!もうしないっ・・・いたずらしないっ!!
 ちゃんと・・・ちゃんと、いいこにしてるからぁっ!!」

エドワードの必死の訴えは無情にも撥ね退けられて、エドワードは
ソファに座ったロイの膝の上に寝かされた。

「確か、ツケは150だったかな」

そう言いながら、ロイは大きく腕を振り上げる。

「ふぇぇっ・・・やぁっ・・・これからは、いいこにするからぁぁっ!!」

エドワードは泣きながら必死に叫んで、これから降ってくる痛みに備えて
ぎゅっと、きつく目を閉じた。

ビクビクと怯えながら、小さな手でロイの膝にきゅぅっとしがみついていたが
いつまで経っても痛みはやってこない。
不審に思って、うっすらと目を開けると、ぐらりと視界が揺れた。

「ふぇ・・・・・・?」

どうやら頭を撫でられたらしい。

「・・・これで少しは懲りただろう?」

同時に、頭上からロイの苦笑した声が聞こえた。
エドワードがわけもわからず、涙でぐしゃぐしゃになった顔で見上げると
ロイはますます苦笑して

「ほら、おいで」

そっとエドワードを膝の上に向かい合わせになるように抱き起こした。

「・・・・・・た・・・いさ・・・?」

てっきり宣言通り、この間の泣いて縋って許してもらった150回のツケを
払うことになるのだとばかり思っていたエドワードは、ポカンとした表情でロイを見上げた。

「これで少しは懲りただろう?」

ロイはニヤリと口の端を上げる。
その表情から、元々150回のツケを払わせる気などなかったのだと窺い知れる。

「う〜・・・・・・」

ようやく騙されたのだと気付いたエドワードは、赤い顔をして口を尖らせたが
お尻は痛いし、それに何だか気が抜けてしまって、小さく唸ると、そのままポスンと
ロイの胸に顔を埋めた。

「これに懲りたら、さっきの自分の言葉通り、いい子にしてなさい」

グスグスと泣きじゃくるエドワードの頭を優しく撫でてやれば
普段の彼からは想像もつかないが、不思議と大人しくなる。

くすぐったそうにモソモソと動きながら、それでも素直に頭を撫でられていたエドワードが
そのままロイの胸の中で動きを止めるのに、そう時間はかからなかった。

「・・・寝顔だけは可愛らしい子供なんだがねぇ・・・」

ひとたび目を覚ませば、驚くほど強い輝きを放つ金色の瞳と
小さな身体には似合わない破天荒でパワフルな行動。
けれど、今、ロイの胸の中ですやすやと小さな寝息をたてているのは
まぎれもなく5歳の小さなお子様。

「・・・・・・まぁ、いたずらするところも、充分お子様か・・・」

ロイは、自分の胸に引っ付いて眠る5歳児を見ながら苦笑する。
そんなことを言われているなんて、全く気付きもせずに眠っているエドワードは

「・・・ん〜・・・・・・ツケ・・・も、やだ・・・」

夢の中でもロイに追われているのか、眉をひそめて、小さく唸った。

トキ様へ、キリ番3773GETありがとうございました。