ぷちらば


03.ai様へ 「For the night」

「まいったな・・・・・・」

ガチャリと受話器を置くと同時に、ロイは小さく唸る。
執務室の窓から外に視線をやると、そこには司令部の入り口から
セントラルの図書館へ向かうアルフォンスを見送る小さな金髪の子供の姿が見えた。

先程の電話で、ロイは急遽、南方司令部より召集を受けた。
当初は1週間後に合同訓練の為の会議を行う予定だったのだが
せっかちな将軍が面倒なことはさっさと済ませたいと、わざわざ呼び出しをかけてきたのだ。
将軍直々の呼び出しとあっては、ロイとしては出向くしかない。
南方司令部での会議を含め、出張の予定は今日の夕方から一泊二日。

そこで問題になってくるのが、あのトラブルメーカーなお子様の存在である。
以前に一人で留守番をさせたら、発火布で錬成を試し、書斎を見事に破壊した。
そんないたずらっ子の兄を諌める役目の弟は、あいにくとセントラルの図書館へ
この間入荷したという希少本を閲覧に、先程出発したばかり。
帰ってくるのは、三日後の予定だ。

半日一人で留守番をさせただけで、書斎は半壊。
それに、人一倍集中力の高いエドワードは、一人にしておくと朝から晩まで
食事も睡眠も取らずに、文献に集中してしまう。
5歳児には徹夜は身体に悪いと何度注意しても、隙あらばロイの目を盗んで
夜更かしをするのが常なエドワードのこと。
ロイが一晩家を空けると知ったら、嬉々として徹夜で文献を読み漁るに違いない。

何度お説教をされても、何度お尻に痛いお仕置きをされても
ロイの言い付けを守ろうとしないのは、本物の5歳児よりも遥かに知恵が回るゆえか
それともエドワードに学習能力がないゆえか。
おそらく後者だろうと、普段のエドワードの行動を思い出しながら
ロイは小さくため息を吐いた。

国家錬金術師の資格を持つ中身は15歳とはいえ、外見はただの5歳児。
何にせよ、一人で留守番をさせるわけにはいかないし、させたとしても不安が残る。

「さて・・・どうしたものか・・・」

ロイが呟いたと同時に、ノックの音が響いて執務室に背の高い男が入ってきた。

「大佐〜、大至急この書類にハンコが欲しいんスけど〜」

大至急という割にはのんびりした口調で、書類を腕いっぱいに抱えてやってきた男。
その男と視線が合ったロイは

「ハボック少尉、お前に特別な仕事をくれてやろう」

言いながらニヤリと口角を上げた。





「え〜・・・そういうわけなので、大将は今日はオレん家にお泊り決定デス」

ロイの執務室で、見事に白羽の矢を立てられたハボックは
ロイと一緒にエドワードに事情を説明すると、そう最後に結論を述べた。
だが、エドワードは案の定、不満そうに口を尖らせる。

「えー、オレだって一人で留守番くらいできんのにぃ」

「以前に、一人で留守番をして、書斎を半壊させたのは誰だ?」

「うぅっ・・・・・・」

ロイにそう突っ込まれると、前科があるだけにエドワードは反論できない。

「それに、君は私がいないのをいいことに、どうせ徹夜で書斎に篭るつもりだろう?」

「うっ・・・・・・」

これまた前科ありの為、もはや黙るしかない。
小さく唸りながらロイを恨めしそうに睨むエドワードに
ハボックは苦笑しながらポンポンと頭を撫でてこっそり耳打ちをする。

「まぁまぁ、いいじゃねーの、大将。
 オレん家で夜更かししてりゃ」

「え・・・!?」

目を輝かせるエドワードに

「ただし、大佐には内緒な?」

ハボックはいたずらっぽく片目を瞑った。

「ほら、わかったらお泊まりの準備してきな」

ポンッとハボックに背中を押されたエドワードは、コクンと頷くと
そのままパタパタと執務室から駆け出して行った。

「・・・ハボック、あまり鋼のを甘やかすな。
 アレはすぐに調子に乗ってエスカレートするぞ」

先程ハボックとエドワードがコソコソと耳打ちをしている様子から
何となく内容を嗅ぎ取ったロイは、ハボックに釘を刺す。

「まぁまぁ、いいじゃないッスか。
 お泊りなんてイベント中くらい大目に見てやっても」

「まったく・・・お前もつくづく鋼のには甘いな」

呆れたように小さくため息を吐くロイだが、ハボックの言葉を否定はしない。
しっかり自分もエドワードに対しては『つくづく甘い』ことに
当のロイ本人は全く気付いていないらしい。
それが何だかおかしくて

「ま、どっかの誰かさんほどじゃありませんけどね」

ハボックは小さく苦笑した。





出張に出かけるロイを、駅まで見送ったハボックとエドワードは
二人で大通りのマーケットを歩いていた。

「晩飯はどっかに食いに行くとして・・・
 大将は、明日の朝飯、なにがいい?」


「別に何でも・・・少尉ん家の冷蔵庫にあるものとかでいいよ」

「あるものっつってもなー・・・ウチのは酒しか入ってないんだわ」

男の一人暮らしなんてそんなもんだと、ハボックは笑う。
確かに言われてみれば、ロイの家の冷蔵庫も、エドワードとアルフォンスが居候するまでは
お酒がほとんどで、肉や魚なんて入っていなかった気がする。
おかげで、居候一日目からアルフォンスと食材の買い出しに出掛けたくらいだ。

「確か、酒のツマミにしてたチーズとハムがあったっけな。
 あぁ、あとはパン・・・ぐらいだな」

「チーズとハムとパン・・・」

「そういや、実家からトマトが送られてきてたっけ・・・」

「んっと・・・じゃぁ、サンドイッチでどう?」

エドワードとアルフォンスの錬金術の師匠であるイズミからは
料理は錬金術の基本にもなるからと、色々教わっていた。
おかげでエドワードもアルフォンスもそれなりに料理が出来る。
サンドイッチくらいなら、5歳児の今のエドワードにだって手伝えるだろう。

「お、いいじゃんソレ。
よし、じゃぁ明日の朝はサンドイッチで決まりな」

エドワードの頭をポンポンと撫でながら、ハボックはニカッと笑った。

そうこうしている内に、二人はハボックのアパートに着いた。
エドワードがここに来るのは実のところ初めてではない。
ロイやアルフォンスと喧嘩して、家に居づらくなってしまった時に
何度か緊急避難場所として使ったことがある。
ある程度、勝手知ったるハボックの部屋に

「おじゃましまーす」

エドワードはパタパタと入っていき、ちょこんと椅子に座ると
早速ゴソゴソとうさぎリュックの中の文献を取り出そうと漁る。

「おーおー、早速かい。
 大将は勉強熱心だなぁ」

まるっきり子供の姿をしていながらも、文献を読む顔はまるで子供らしくないエドワード。
その姿に苦笑しながらも、ハボックは何か飲み物でも出してやろうと
冷蔵庫のドアに手をかけた。
その瞬間

ジリリリリ・・・ジリリリリ・・・・・・

けたたましく電話が鳴った。
まだそれほど集中していなかったのか、珍しくエドワードも顔を上げる。
それを制するようにハボックはエドワードの頭をポンとひと撫ですると
腕を伸ばして受話器を取った。

「はいはい、ハボック・・・・・・・・・は?何だって?」

相手はよほど慌てているのか、ハボックは何度も相手の言うことを復唱して確認した。
それによると、どうやら連続強盗事件が起きたらしい。

「悪ぃ、大将。ちょっと出かけて来なきゃなんねぇんだわ。
 なるべく早く帰るけど・・・ちょっと一人で留守番しててもらっていいか?」

「いーよ。オレ、この文献読んでるし」

「そっか、じゃぁ頼むな。
 腹減ったら、何か適当にあるもん食ってていいし。
あ、あと外には出ちゃダメだぞ。まだ犯人捕まってねぇから」

「ん、わかった」

エドワードが返事を寄こすと、ハボックは慌しく支度をして
バタバタとアパートから出掛けて行った。





くぅー・・・・きゅるるるる・・・・・・

集中して文献を読んでいたエドワードだったが、さすが身体は正直に出来ている。
腹の虫が空腹を訴えてきた。

「う・・・ハラ減ったぁ・・・」

ふと文献から目を外して時計を見てみると、いつの間にやら、もう8時。
最後に食べ物を口にしたのは昼食だから、当然お腹も空くはずである。

「適当にあるもん食ってていいって言ってたけど・・・」

失礼してハボックの部屋の冷蔵庫を開けてみるものの、中に入っているのは
酒と、そのツマミになっているであろうハムとチーズ。
あとは、トマトと果物がいくつかあるくらいで、昼間に本人が言っていたように
ほとんどが酒で、他は何も入っていない。

「うーん・・・・・・」

エドワードは他に何かないかとキッチン周りの棚をゴソゴソと漁ってみるが
出てきたのはインスタントコーヒーや、缶詰だけだった。

「この缶詰食べちゃってもいいかなぁ・・・」

棚の奥に転がっていたクリームスープの缶詰。
どこかに当たったのか、多少へこんではいるが賞味期限はまだあるので食べられるはずだ。
それに、ハボックもあるものは食べても良いと言っていたから、食べてしまっても
怒られるようなことはない。
けれど・・・・・・

「・・・少尉はもう食べたかな・・・」

賞味期限よりも何よりも、エドワードが気になるのは、仕事に出掛けて行ったハボックのこと。
アパートまでの道すがら、ハボックは夕飯をどこかに食べに行こうと言っていた。
もし、ハボックが今もまだそう思っていたとしたら、自分だけ先に食べてしまうのも気が引ける。

もう少し待ってみようか、それとも先に食べてしまおうか。

「・・・・・・よし、この缶詰で二人分作っちゃおう!」

エドワードが選んだのは、そのどちらでもなくて、この缶詰で料理を作り
ハボックが帰って来るのを待つという第三の選択肢。
食事は誰かと一緒に食べる方が、一人で食べるよりも美味しいに決まっている。
幸い、イズミに鍛えてもらっているおかげで簡単な料理なら作れるし
エドワードも料理をするのは嫌いではなかった。

「でもこの缶詰、一人分なんだよなー。
 パスタでもあれば量も増えていいんだけど・・・」

ゴソゴソと缶詰が仕舞われていた棚を再度漁ってみるものの
何も利用できそうなものは出てこなかった。
冷蔵庫にあるハムやチーズは明日の朝に使う予定だし
他に利用できそうな食材はない。
この缶詰だけで二人分の夕食を作るには、明らかに材料が少なすぎる。

「・・・買いに行った方が早いかな」

何度かこのアパートに来たことのあるエドワードは
この近辺に夜遅くまで開いている小さな雑貨店があるのを知っていた。
さすがに生ものは扱っていなかったように思うが、パスタや缶詰くらいなら
売っていたように記憶している。
幸い、今日は駅までロイを見送りに行った際に、3000センズのお小遣いをもらっていた。
ロイは、自分がいない間もちゃんと食事をするようにと言っていたから
まさしく今使うべきお金である。

そう判断したエドワードは、早速買い物に出掛けることにした。
留守を頼むと言われていながら出かけるのは申し訳ないような気もしたが
子供の足でも往復30分もかからない雑貨店までのちょっとした買い物だ。
その間に何事が起こるわけでもないだろうとタカをくくって
ドアに内側からしっかり鍵がかかっているのを確認すると
そのドアに錬金術で更に小さなドアを作って外に出た。





「はい、ありがとうね」

雑貨店のおばさんから紙袋とおつりを受け取ると、エドワードは来た道を
パタパタと走って帰る。
袋の中身は、パスタと缶詰、それからお菓子を少々。
缶詰はハボックの家にあったものと同じ銘柄のものがあったので買い足しておいた。
これでスープの量も増えるし、更にパスタも入れば充分に二人分のボリュームになる。

「これでよし、と」

紙袋の中身が落ちないように気をつけながら、真っ暗な夜道を走って、家路を急いだ。

パタパタと小さな足音を立てながらアパートの階段を登り
ハボックの部屋の前に着いたエドワードは、出かけた時と同じように
鍵のかかっているドアに更に小さなドアを作ろうと、いつものように両手を合わせようとした。
が、その瞬間、部屋の中からガタガタと物音がした。

(・・・・・・まさか・・・泥棒!?)

出かけた時にはちゃんと鍵がかかっているかを確認したし
錬金術で作った小さなドアも、元通りに錬成し直しておいた。
ドアからの侵入は不可能なはずなのだ。
それに、ドアには無理矢理こじ開けられた形跡もない。

(ってことは、窓から・・・・・・?)

エドワードがそう考えている間にも、部屋の中からはゴソゴソと物音がしている。

(こうなりゃ錬金術で一発撃退―――――)

部屋の中に人の気配を感じ取ったエドワードが、ぐっと拳を握った瞬間
バンッと勢い良くドアが開いた。

「わぁっ!?」

突然のことに驚いたエドワードは、後ろにドンと尻餅をつく。

「こーら、エド。どこ行ってたんだ?」

頭上から降ってきた聞きなれた声に、目をパチパチさせながら顔を上げると
そこには珍しく険しい表情をしたハボックが仁王立ちしていた。

「ほら、さっさと入れ」

言いながらハボックは、ひょいっとエドワードを抱き上げて部屋へ入った。

さっきまでエドワードが文献を読んでいた椅子にハボックが座り
エドワードはその前にストンと下ろされた。

「で?どこ行ってたんだ?」

「え・・・えっと・・・・・・」

いつもはロイに叱られそうな時も、それとなく庇ってくれるハボック。
優しいお兄さんといった印象が強いのだが、今の彼はどう見ても
そういった雰囲気ではなく、むしろ正反対の怖い顔をしている。
いつものハボックらしからぬ顔に、エドワードは戸惑いと怯えを隠せなかった。

「えっと・・・その・・・オレ・・・・・・」

チラチラとハボックの様子を窺いながら、エドワードは紡ぐ言葉を考えるが
結局は何も言えずに黙り込んでしまう。
テーブルサイドに置いた紙袋を見れば、近所の雑貨店に行ったのは明白なのに・・・と
ハボックは小さくため息を吐くと、腰を屈めてエドワードの顔を覗き込んだ。

「あのさぁ、オレが出かける時に2つ約束したろ?
 覚えてねぇの?」

「・・・・・・留守頼むって・・・」

「もういっこの方は?」

「・・・・・・外に出ちゃ・・・ダメって・・・」

「はぁ・・・覚えてんのかよ・・・」

ならしょうがないな・・・とハボックは続けて、エドワードをひょいっと抱き上げた。

「えっ・・・な、なに・・・っ!?」

驚いた声を上げるエドワードにはお構いなしに、ハボックはエドワードを膝に乗せると
するすると下着ごとズボンを脱がせて、小さなお尻を剥き出しにした。

「約束守れない悪ガキにゃ痛いお仕置きだ」

「なっ・・・少尉・・・ちょ、ちょっとまっ・・・やぁっ!!」

エドワードが泣きそうな声でハボックに訴えるより先に
小さなお尻に、バチンッ!と大きな平手が降って来た。

バチンッ!!バチンッ!!パァンッ!!

「やぁっ・・・・・・いっ・・・いたぁっ!!」

パァンッ!!パンッ!!バチンッ!!

「ひぅっ・・・・・・やっ・・・いたぁぃっ!!」

痛みに驚いたエドワードが手足をジタバタと動かしてもがいても
ハボックはびくともしなかった。
ただでさえ大柄で、軍部では肉体労働担当なハボックのこと、体力もあるし力も強い。
バチン!バチン!と大きな掌でお尻全体を覆うようにぶたれて
エドワードの小さなお尻は、あっという間にピンクに色づいた。

「ふえぇ・・・いたいぃっ・・・やだぁっ・・・」

体力では敵わないとわかってはいても、何とかこの状況から逃れたくて
エドワードは必死で手足を使って暴れる。

「やぁっ・・・やだぁっ・・・・・・いたいぃっ・・・」

けれどどんなに暴れてもやっぱり敵わなくて、結局エドワードはハボックの膝の上で
グスグスと泣きじゃくるしかなかった。

「ひくっ・・・も、やだぁっ・・・ふえぇぇっ」

「こら、『やだ』じゃねぇだろ」

ハボックにしては珍しく、泣きじゃくるエドワードをピシリと一喝して
色づいたお尻にバチンッ!と更に赤く跡をつける。

「わあぁんっ!!」

いつもならお仕置きなんてしないで、ちょっとのいたずらくらいなら
笑って許してくれるハボック。
いつだってエドワードやアルフォンスには甘くて優しいはずなのに
今日のハボックは、珍しく怒っていてエドワードにも厳しい。

(・・・オレが・・・やくそく・・・まもんなかったから・・・)

もしかして嫌われてしまったのだろうか。

「ふえぇぇっ・・・・・・やだぁっ・・・!!」

赤く染まったお尻が熱くて痛くて泣きじゃくっていたけれど
ハボックにもう許してもらえないのかもしれないと思うと
何だか悲しくて余計に涙がボロボロと零れた。

「ひぅっ・・・やだぁっ・・・ふぇぇっ・・・」

バチンバチンと何度も分厚い掌でぶたれて、お尻が痛くて痛くて
エドワードはもはや暴れる気力も削がれてしまった。
ハボックの膝を小さな両手でぎゅっと掴んで、痛みでろくに働かない頭で
何とか許してもらう方法を必死に考える。

「うぇぇっ・・・・・・ご・・・め・・・なさぃっ・・・!!」

もう遅いかもしれないと思いながら、けれど、祈るような気持ちで
大粒の涙と一緒に零れ落ちた言葉。

その言葉に、ハボックは手を止めると、ぎゅっと身を硬くして小さく震えるエドワードを
そっと抱き起こした。

「ふぇっ・・・ぐすっ・・・う〜っ・・・」

顔を涙でぐしゃぐしゃにしているエドワードは、ハボックがどんな顔をしているかが怖くて
下を向いたまま顔を上げる事が出来なかった。

「ほら、大将。顔上げてみ?」

ポンッと大きな手がエドワードの頭に乗せられて、わしわしと撫でられる。

「・・・・・・しょ・・・い・・・?」

涙でグシャグシャな顔を遠慮がちに上げたら
ティッシュでゴシゴシと少々乱暴に顔を拭かれた。

「あんまりビックリさせんな。
 帰ってきたら大将居ねぇし、あそこの棚は漁った後があるしよ。
 誘拐でもされたんじゃないかって、心配したんだぞ?」

エドワードの顔を拭き終わったティッシュをポイッとゴミ箱に放りながらハボックは言う。
確かに、缶詰を漁った棚は荒らされたように見えなくもない。
帰って来たらこの状態で、留守番をしているはずのエドワードが居なくて
ハボックがどれほど心配しただろうか。

「しょうい・・・ごめんなさぃ・・・」

エドワードは、しゅんと俯く。

「オレ・・・やくそく、まもっ・・・なかった・・・ふぇぇっ」

一度は拭いてもらって綺麗になった顔だったけれど
申し訳なさから、またポロポロと涙が溢れてくる。

「ん、わかってくれりゃいいって」

また涙を零し始めたエドワードの顔を、ハボックはまたしてもティッシュで
ゴシゴシと拭いてやると

「大将はいい子だもんな」

ポンポンとエドワードの頭を軽く撫でた。

「・・・も、おこってない・・・?」

エドワードが窺うようにそっとハボックを見上げると
ハボックはいつものようにニカッと笑顔で応えてくれた。

「約束破って心配させたのは確かに悪かったけど
 買い物に行ってくれたのは、俺のためでもあったんだろ?
 折角見つけた缶詰も食べないで待っててくれたみたいだし。
 その気持ちはすげぇ嬉しい。ありがとな」

言葉と同時にポンッと頭を撫でられて、いつものハボックの仕草に
エドワードは許されたのだとホッと安堵する。

「大将も腹減ったろ?遅くなったけど、メシにすっか!」

「うんっ!」

ハボックは膝に抱っこしていたエドワードのズボンを直してやると
今度は、ひょいっと肩車をしてキッチンに向かった。





その日の夕食は、ハボックが仕事帰りに買ってきてくれたチキンやポテトのおかずと
エドワード作のパスタ入りクリームスープで、時間は遅くはなったものの
思っていた以上に豪華なメニューになった。

その夕食の後、エドワードにとってはこれからが本番。
お待ちかねの夜更かしタイム。
これがロイなら夜更かしは厳禁だから、もしも見つかってしまったらひどい目に遭うけれど
ハボックはロイとは正反対に、むしろ薦めたくらいである。
公認だから叱られることもないし、エドワードとしても安心して文献を読める。

けれど、満腹になった上に、お風呂に入った後の身体はぽかぽかと温かい。
更に今日はハボックにお仕置きされてしまったから、泣き疲れたのか
パラパラとページをめくっている内にも、自然と瞼が重たくなってきてしまう。

「ん・・・・・・う〜・・・・・・」

折角の夜更かしのチャンスなのに勿体無いと、エドワードは何とかこらえようとするのだが
小さな身体は、そのうち椅子の上でフラフラと船を漕ぎ始めた。

「大将、そろそろ寝るか?」

カクッと首を上下にしているエドワードを見たハボックは、苦笑しながらエドワードにそう言うが

「んぅ〜・・・・・・やっ・・・まだ、ねなぃ・・・」

当のエドワードは力なさげにゆるゆると頭を横に振る。
折角のチャンスなのだからと、出来るだけ文献を読み進めていたい気持ちは大きいらしい。

けれど、結局は日付が変わる頃にはエドワードは椅子に座ったまま完全に寝入ってしまった。
近づくと、すぅすぅと小さく寝息まで聞こえてくる。

「あーあ・・・こんなとこで寝たら風邪ひくぞ・・・」

ハボックがそっとエドワードを抱き上げると、エドワードは寝ながらも
手にはしっかり文献を握り締めていた。

「・・・・・・さすが」

エドワードらしい寝姿に苦笑しながらハボックがベッドに運んでやると

「ん〜・・・ぁぃ・・・・・・んぅ・・・」

エドワードからはお礼のような小さな寝言が聞こえた。
そっと布団をかけてやろうとすると、小さな手がハボックのシャツを掴む。

「・・・ん〜・・・」

抱き上げられて、人の体温が心地よかったのか
まるで傍にいて欲しいとねだるようなその仕草に

「・・・こりゃぁ、あの大佐もオチるわな・・・」

ハボックは本来なら子供嫌いなはずの上司が
この小さな子供をひどく溺愛している理由を垣間見た。

ポンッと軽く頭をひと撫でしてやると、安心したのかエドワードは
ふにゃっと顔を綻ばせて掴んでいた手を緩めた。
ハボックはその手をそっと解くと

「・・・・・・・・・おやすみ」

小さくエドワードに囁いて、静かに部屋の扉を閉じた。





翌日、ハボックと一緒にロイを駅まで迎えに行ったエドワードは
列車から降りてくるロイを見つけるなり、「おかえり」を言うより先に飛びついた。

「大佐、お土産は!?」

出張に出かけるロイを見送りに行った時に約束したのだ。
ロイのいない間、ちゃんといい子にしていられたら、何かお土産を持って帰ると。

「さぁ・・・どうかな。
 約束は『いい子にしていられたら』という条件付だっただろう?」

「う・・・・・・」

ロイの言葉にエドワードは、ちらりと後ろにいたハボックに視線を投げかけた。
いくらエドワードがいい子にしていたと主張したところで
昨夜の一件をハボックがロイに報告してしまったら意味がないのだ。
それどころか、夜に一人で出歩いたことがバレてしまったら
ロイにまでお仕置きされる可能性すら出てくる。

そわそわとロイとハボックを交互に見やっていたエドワードは

「おや・・・お土産は没収かな、鋼の?」

ロイにそう尋ねられても

「えっと・・・えっと・・・」

どう答えたものかと迷っていた。

おろおろと惑うエドワードを不審そうに見やるロイに

「大将ってば、昨日は偉かったんスよ〜?」

ハボックはエドワードの頭を撫でながら告げる。

「一人でもちゃんと留守番してくれたし
 メシ作るのも手伝ってくれたし、いい子だったんスから」

な?とエドワードを小突きながら、ニヤリと笑う。

「・・・そ、そーだよ。
 夜更かしもしなかったし!」

ね?と今度はエドワードがハボックのズボンをそっと引っ張る。

「そうそう、ホント『超』が付くほどのいい子だったんスよ」

ハボックは言いながら、またしてもエドワードの頭をポンポンと撫でた。

「おやおや・・・一晩の間に随分と仲良くなったものだな」

視線で何やら会話する二人を見ながら、ロイは訝しげな顔をしたが

「・・・まぁ、いい。ほら、鋼の」

持っていた小さな包みをエドワードに差し出した。

「・・・お土産!?」

エドワードはその小さな包みを、ロイから奪うように受け取ると
嬉々とした表情で早速包みをほどき始めたが

「こら、こんなところで開いてどうするつもりだ。
 開けるのは帰ってからにしたまえよ」

ロイにコツリと頭を小突いて窘められた。

「えー・・・だったら、早く帰ろうぜー。
 ほら、早く早く!」

もはやエドワードは、完全に目の前のロイからのお土産に
思考が集中してしまっている。
一刻も早くこの小さな包みを開けたくてたまらないのだ。

「早くってばー!」

「・・・はいはい」

急かすエドワードに、顔を見合わせながら苦笑したロイとハボックは
早速出口に向かい始めたエドワードの後を追った。

(この大きさに厚み・・・絶対、本だよな!)

中身に胸を躍らせているエドワードは、後ろからゆっくりと付いてくる大人二人にはお構いなしに
駅の構内をピョンピョンと飛び跳ねるようにして走って行く。

そんなエドワードの後を追っていたロイは

「ハボック・・・あまりアレを甘やかすなと言っただろう」

横に並んで歩いているハボックに、チラリと視線を投げかけた。

「何の話ッスか〜?」

だが、あくまでもハボックはしらばっくれて、昨日のことについては何も語らない。

「・・・・・・つくづく、お前も鋼のには甘いな」

ロイとて、本当は何もかもお見通しなのだけれど、あえて言及はしない。
ロイは呆れたように小さくため息を吐きながら

「早くってばぁーッ!!」

出口で叫びながら待っているエドワードに向かって、歩を速めた。

エドワードの態度から、おおかた『いい子』ではなかったことは容易に想像できる。
けれど、それを言及しない。
それどころか、自分がいないことを良いことに、エドワードが勝手をするのは
目に見えてわかっていたはずなのに、ちゃっかりご褒美のお土産は持って帰ってきている。
相変わらず、しっかり自分もエドワードに対しては『つくづく甘い』ことに
当のロイ本人は全く気付いていないらしい。

「ま、どっかの誰かさんほどじゃありませんけどね」

ハボックは苦笑しながら小さく呟くと、歩を速めた上司の背中を追って
自分も大きく足を踏み出した。

ai様へ相互リンク記念のハボエド小説でした。